動脈硬化症(読み)ドウミャクコウカショウ(英語表記)Arteriosclerosis

デジタル大辞泉 「動脈硬化症」の意味・読み・例文・類語

どうみゃく‐こうかしょう〔‐カウクワシヤウ〕【動脈硬化症】

動脈壁にコレステロールなどの沈着、変性などが起こって弾力性が失われ、血管が硬化した状態。心筋梗塞しんきんこうそく脳出血などの誘因となる。

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精選版 日本国語大辞典 「動脈硬化症」の意味・読み・例文・類語

どうみゃくこうか‐しょう‥カウクヮシャウ【動脈硬化症】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 動脈壁の弾力性がなくなり、壁の肥厚や内面への沈着作用によって血管の内腔がせばまる動脈の老人性病変。脳卒中や心筋梗塞の発生基盤となる。粥状硬化が代表的で、コレステロールを主とした粥状物質(アテローム)が血管の内壁に沈着して内腔が狭くなる。硬化が進むと、その結果内臓に十分な血液が送りこまれなくなるので、内臓にいろいろな症状が現われる。高血圧と密接な関係をもつ。動脈硬化。
  3. 動脈硬化のような状態。
    1. [初出の実例]「動脈硬化症から救はれた都会のペーブメントは最も敏感に春を感じた」(出典:東京エロオンパレード(1931)〈西尾信治〉)

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家庭医学館 「動脈硬化症」の解説

どうみゃくこうかしょう【動脈硬化症 Arteriosclerosis】

動脈硬化症とは
動脈硬化の原因
動脈硬化の検査と診断
動脈硬化の治療

動脈硬化症(どうみゃくこうかしょう)とは
◎動脈が変質し、血流が悪くなる
 動脈(どうみゃく)は、酸素と栄養を豊富に含んだ血液を全身に配るパイプの役割をしている血管です。
 この動脈の内腔(ないくう)が狭くなったり、変質して弾力性が失われたりするのが動脈硬化で、血液が流れにくくなります。
 動脈硬化が進行し、細くなった内腔に血液のかたまり(血栓(けっせん))などがつまると、その先へ血液が流れなくなります。
 血流がストップしても、数分のうちに血流が再開すれば何事もなくすみますが、10分以上も血流がストップしたままだと、その動脈から血液をもらっている組織・臓器は壊死(えし)におちいります。この状態を梗塞(こうそく)といいます。
 この梗塞が、心臓の冠(かん)(状(じょう))動脈(どうみゃく)におこると心筋梗塞(しんきんこうそく)(「心筋梗塞(症)」)になりますし、脳の動脈におこると脳梗塞(のうこうそく)(「脳梗塞(脳軟化症)」)になります。
 そのほか、腎臓(じんぞう)の動脈におこって腎梗塞(じんこうそく)に、下肢(かし)(脚(あし))の動脈におこって壊疽(えそ)(脱疽(だっそ))になることもあります。
 梗塞におちいった組織は二度と生き返ることはなく、その組織の機能は失われることになります。
 梗塞が広範囲におこり、臓器のもっている予備能力が失われると、臓器不全(心不全、腎不全など)となり、生命が危険になります。
 動脈が変質して弾力がなくなってくると、血液の流れにともなって、高い圧がかかるようになり、動脈の弱い部分が風船のようにふくらんできます。これを動脈瘤(どうみゃくりゅう)といい、破れて出血をおこす危険があります(動脈瘤破裂(どうみゃくりゅうはれつ))。
 この動脈瘤破裂が脳の動脈におこると脳出血(のうしゅっけつ)(「脳出血(脳溢血)」)やくも膜下出血(「くも膜下出血」)になりますし、心臓を出てすぐの大動脈におこって胸部大動脈瘤破裂(きょうぶだいどうみゃくりゅうはれつ)(「胸部大動脈瘤」)や腹部大動脈瘤破裂(ふくぶだいどうみゃくりゅうはれつ)(「腹部大動脈瘤」)になることもあります。
 問題なのは、動脈硬化からおこるこれらの合併症です。とくに問題なのは心筋梗塞と脳梗塞・脳出血で、日本人の死亡原因の上位を占める心疾患(しんしっかん)、脳血管疾患(のうけっかんしっかん)の中核となっています。しかも、心疾患と脳血管疾患の死亡者数を合わせると、第1位の悪性新生物(あくせいしんせいぶつ)(がん)の死亡者数の2倍前後になります。
◎動脈硬化の種類
 動脈硬化は、その病変のおこり方や病変の発生した部位から、粥状動脈硬化(じゅくじょうどうみゃくこうか)、細動脈硬化(さいどうみゃくこうか)、中膜硬化(ちゅうまくこうか)の3つに分類されています(コラム「粥状動脈硬化以外の動脈硬化」)。
■粥状動脈硬化(じゅくじょうどうみゃくこうか)(粥状硬化(じゅくじょうこうか)、アテローム硬化(こうか))
 動脈の内側に粥腫(じゅくしゅ)(アテローム)というかゆ(粥)のかたまりのようなものが発生し、盛り上がってくる動脈硬化です。このため、動脈の内腔(ないくう)がしだいに細くなり、そこから先には、血液が流れにくくなります。粥腫の発生した部分では、血液の流れ方がスムーズではなくなって、流れの速いところやよどみができます。よどみができると、血流の方向が不安定で、血液がかたまって血栓(けっせん)ができやすくなり、梗塞(こうそく)がおこる危険が高くなります。
 近年、社会の高齢化が進むにつれて動脈瘤を発生させる人も増えていて、これが破裂することもあります。
 動脈硬化の合併症の多くは、この粥状動脈硬化からおこります。つまり、粥状動脈硬化は、動脈硬化の主役であって、たんに動脈硬化といった場合は、この粥状動脈硬化のことをさすのがふつうです。
 これ以降、動脈硬化症の説明は、とくにことわらないかぎり粥状動脈硬化について解説します。
●内皮細胞(ないひさいぼう)のはたらき
 動脈は、内側から順に内膜(ないまく)、中膜(ちゅうまく)、外膜(がいまく)の3枚の組織が重ね合わされて形づくられ、内膜の表面は、内皮(ないひ)という細胞でおおわれています。
 内皮細胞は、血液がスムーズに流れるように血管を守っている警備員のようなものです。この内皮細胞は、血液中のコレステロールなどの物質が、血管壁に侵入しにくくなるようにしています(抗動脈硬化作用)。
 また、血栓ができるのを防ぐ物質や血栓を溶かす物質を合成・分泌し、血栓によって血管内がふさがることのないようにしています(抗血栓作用)。
 さらに、血管の収縮をコントロールする物質を合成・分泌し、細動脈(「血圧とは」)が過剰に収縮(れん縮)し、血液の流れを妨げることのないようにしています(抗れん縮作用)。
●粥状動脈硬化のおこり方
 粥状動脈硬化は、この内皮が傷ついては治り、また傷つくというくり返しから始まります。
 このようなことをくり返しているうちに血液中の血球(けっきゅう)(単球、Tリンパ球、血小板(けっしょうばん)など)、脂肪(コレステロールなど)を含むリポたんぱく、カルシウムなどがしみ込み、内膜に線状脂肪斑(せんじょうしぼうはん)という黄色い病変がまだら状にできてきます。
 線状脂肪斑には、コレステロールを多く取り込んだ細胞(泡沫細胞(ほうまつさいぼう))のかたまり(泡沫細胞巣(ほうまつさいぼうそう))がみられます。
 この泡沫細胞巣はやがて合体し、粥腫(アテローム)をつくり、動脈の内腔(血液が流れる空間)のほうに盛り上がってきます。コレステロールを多く含み、内腔面の線維部分が薄く破れ、出血・血栓をつくってつまりやすく、心筋梗塞などの原因となりますので、不安定プラークと呼ばれています。この部位では、動脈のれん縮もおこりやすくなります。
 また、内皮細胞が傷つくと、内膜の下にある平滑筋細胞(へいかつきんさいぼう)が増殖し、内膜のほうに移動してきますが、それがきっかけとなって、そこで結合組織のたんぱくを合成します。
 内膜の結合組織が増えてくると、動脈がかたくなって弾力性がなくなり、内壁が厚くなってきます。また、石灰も沈着します。この状態は血液の流れは悪くても、出血・血栓はできにくいので、安定プラークと呼ばれます。

動脈硬化(どうみゃくこうか)の原因
 動脈硬化は、いろいろの誘因が加わって発症、進行します。
 この誘因を危険因子(きけんいんし)(リスクファクター)といい、これを数多くもつ人ほど、接している期間が長いほど、動脈硬化の発症・進行が早まります。
 動脈硬化の危険因子には、高血圧、高脂血症、体質、糖尿病、高尿酸血症、喫煙、ストレス、A型性格、運動不足などがあげられています。
●高血圧(「高血圧(症)」)
 高血圧があると、内皮細胞が傷つきやすくなります。高い圧をかけて血液が流れるということは、動脈にとっては土石流(どせきりゅう)にあっているようなもので、内皮細胞が傷つきやすくなるのです。
 その傷からコレステロールなどの血液中の成分がしみ込み、粥状動脈硬化が発生します。すると、血液が流れにくくなるので、より高い圧がかかるようになり、さらに動脈硬化が進行するという悪循環が形成されます。
■高脂血症(こうしけっしょう)(高脂質血症(こうししつけっしょう)(「高脂血症(高リポたんぱく血症)」))
 血液中の脂肪(脂質)の多すぎる状態が高脂血症で、大別すると、高(こう)コレステロール血症(けっしょう)と高(こう)トリグリセリド血症(けっしょう)とがあります。
 高コレステロール血症 血液中のコレステロール全体の量を総コレステロールといいます。基準値は、血液1dℓ中140~219mgです。これよりもコレステロールの量が多い状態を高コレステロール血症といい、動脈硬化の最大の誘因です。コレステロールの量が多いほど、動脈の内膜にしみ込む量も多くなり、動脈硬化の発症・進行が早まります。
 血液中のコレステロールなどの脂肪は水にとけにくいので、水にとけやすいたんぱくに囲まれた、ちょうどバスに乗ったお客のように、カイロミクロン、VLDL(超低比重(ちょうていひじゅう)リポたんぱく)、IDL(中間型リポたんぱく)、LDL(低比重(ていひじゅう)リポたんぱく)、HDL(高比重(こうひじゅう)リポたんぱく)という5種類のリポたんぱくに含まれています。このうち、動脈硬化と関係が深いのは、LDLとHDLに含まれているコレステロールです。
 LDLは、細胞が必要とするコレステロールやリン脂質(ししつ)を運んでいって細胞に渡すたいせつな役目をはたしています。LDLが多いと、内皮細胞の間を通り抜けて内膜に侵入し、その際に酸化され、ここに含まれるコレステロールが蓄積して動脈硬化の発症や進行を早めます。このことから、これを悪玉(あくだま)コレステロールともいいます。
 一方、HDLの中に含まれるコレステロールは、動脈の内膜にしみ込んだ余計なコレステロールを取り除き、これをVLDLやLDLなどに転送して肝臓にまで運んでいって処理させ、動脈硬化の発症・進行を予防します。このことから、これを善玉(ぜんだま)コレステロールと呼んでいます。
 実際には、総コレステロール値からHDLコレステロール値を引いた数値に対するHDLコレステロール値の割合から判定します。これを動脈硬化指数(どうみゃくこうかしすう)といい、LDLコレステロールの値が高く、HDLコレステロールの値が小さいほど動脈硬化が発症・進行しやすいと判定します。
 高トリグリセリド血症 中性脂肪(トリグリセリド)の基準値は、血液1dℓ中30~150mgで、値がこれ以上の状態を高トリグリセリド血症といいます。
 高トリグリセリド血症は、HDLの量が少ないことが多く、糖尿病、肥満、高尿酸血症を合併していることも少なくありません。つまり、高トリグリセリド血症には、動脈硬化のリスクファクターが加わりやすいのです。
 高脂血症があると血栓をつくりやすく、血管のれん縮もおこりやすく、心筋梗塞、脳梗塞の発作のきっかけにもなります。
■糖尿病(とうにょうびょう)(「糖尿病」)
 糖尿病になると、中性脂肪が高くなる、HDLコレステロールの値が低くなる、中膜の平滑筋細胞が増殖してくる、過酸化脂質(かさんかししつ)の量が増える、動脈が栄養失調の状態になって傷つきやすくなるなどの現象がおこります。その結果、動脈硬化の発症・進行が早まります。日本では、心筋梗塞の35%に糖尿病を合併しています。
■高尿酸血症(こうにょうさんけつしょう)(「高尿酸血症/痛風」)
 尿酸は、たんぱく質が体内で利用されたときに生じる成分で、その血液中の量が多すぎるのが高尿酸血症です。
 高尿酸血症は、高脂血症が存在するとおこりやすく、動脈硬化の発症・進行が早まります。
◎その他の危険因子
●体質
 若いときから高コレステロール血症を示す人は、当然のことながら動脈硬化の発症・進行が早まります。
 これは体質的なもので、この体質は遺伝することがわかっています。
 日本には、この体質をもつ家族性高コレステロール血症が500人に1人の割合でいるといわれています。
●運動不足
 運動不足の状態が続くと、血液中の中性脂肪の値が上昇し、HDLコレステロールの値が低くなります。
●ストレス・性格
 ストレスが続くと、高血圧、高脂血症、糖尿病、インスリン抵抗性を誘発し、動脈硬化の発症・進行が早まります。攻撃的で、野心的な性格のA型性格(高血圧(症)の「性格」)の人は、のんびりとしたB型性格の人よりも、その危険が大きくなります。
●喫煙
 喫煙が動脈硬化の発症・進行を早めるのは、ニコチンが血圧を上げ、血液中の成分を内膜の中にしみ込みやすくする、HDLコレステロールの値を低下させる、ニコチンが血管を収縮させ、血圧を上昇させる、血小板を活性化させ、血液をかたまりやすくする、赤血球が増え、血液粘度が高くなる、などの理由によります。

動脈硬化(どうみゃくこうか)の検査と診断
 動脈硬化の存在を証明するのはむずかしいために、つぎのような診察や検査を行なって、リスクファクターをどのくらいもっているか、合併症の兆候がないかなどを調べ、診断します。
 リスクファクターの数が多いほど動脈硬化が存在する可能性が高くなりますし、合併症の兆候があれば、進行した動脈硬化が存在することが確実です。
①問診
 現在の症状、喫煙の期間と1日の本数、食事の習慣、1日の運動量、ストレスの有無、家族の病歴などを聞き、動脈硬化のリスクファクターをどの程度もつかをチェックします。
②尿検査
 尿糖(にょうとう)が証明されれば、糖尿病が存在する可能性があります。尿たんぱくが証明されれば、合併症の腎疾患(じんしっかん)、腎症(じんしょう)が存在する可能性があります。
③血圧測定
 血圧が高いほど、動脈硬化が存在する可能性が高くなります。
④血液検査
 血液(血清(けっせい))中に含まれるコレステロール・中性脂肪・尿酸・ぶどう糖などの量を測定し、高脂血症・高尿酸血症・糖尿病などがないかを調べます。血液のかたまりやすさや多血症(たけつしょう)の有無も調べます。
心電図検査
 波形に異常がみられたときは、動脈硬化の末期の病態である心筋梗塞(しんきんこうそく)や不整脈(ふせいみゃく)が存在する可能性があります。狭心症(きょうしんしょう)の場合は、心電図に異常がみられないことが多いので、運動しながら行なう負荷心電図検査(ふかしんでんずけんさ)が行なわれることがあります。
⑥眼底検査(がんていけんさ)
 眼底は、動脈を直接、観察できる部位です。ここに動脈硬化がみられれば、同じ程度の動脈硬化が脳の細小動脈にもおこっています。
 また、高血圧、糖尿病が存在すると、眼底の動脈に特有の変化が現われます。
⑦X線撮影
 胸部や腹部を撮影すると、心臓、大動脈が写り、動脈硬化の影響が出ていないかどうかがわかります。
⑧超音波検査
 心臓や大動脈の形、心臓のはたらきぐあい、血栓(けっせん)や粥腫(じゅくしゅ)の状態、心臓の血流の速さ、血管の動きなど、心臓・大動脈の動脈硬化の程度や合併症の有無がわかります。
⑨その他の検査
 動脈硬化の程度や合併症のより詳しい状態を調べるために、シンチグラフィー、CT、MRI、脈波・脈波速度検査、血管造影法などの検査が行なわれることもあります。

動脈硬化(どうみゃくこうか)の治療
●生活改善が基本
 日本動脈硬化学会がまとめた「高脂血症診療ガイドライン」(表「動脈硬化の治療指針」)に準じて治療します。治療薬の投与は、主治医の判断で、必要な人になされます。
 治療の際たいせつなことは、たとえ動脈硬化の治療薬を服用していても、リスクファクターの除去と食事療法の実行、つまり生活の改善が必要なことです。生活を改善しないと、薬の効果があがりません。
●リスクファクターの除去
 高脂血症、高血圧、糖尿病、高尿酸血症などの病気が存在すれば、治療します。これらの病気がよくコントロールされないと、いくら動脈硬化や合併症を治療しても効果はあがりません。
 たばこを吸う人は、かならず禁煙を守ることが必要です。
 たばこを吸っていると、合併症の心筋梗塞(しんきんこうそく)をおこす危険が、たばこを吸わない人より2倍前後も高くなります。
 また、むずかしいことですが、気分転換をはかり、ストレスをためないようにしましょう。A型性格の人は、のんびりとした生活を心がけましょう。
●食事療法
①脂肪は、植物脂肪を中心に
 動物脂肪(飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん))を多くとると、動脈硬化の発症・進行を早めるLDLコレステロールの値が上昇します。
 脂肪(脂質)は、動物脂肪1に対し植物脂肪(不飽和脂肪酸)1~2の割合で摂取するようにします。リノール酸、αリノレン酸という不飽和脂肪酸でつくられたマーガリンマヨネーズ、サラダ油、天ぷら油などが市販されていますから、利用するといいでしょう。
 調理に使用する油は、ゴマ油、オリーブ油などの植物油にします。
 ニシン、イワシ、サバ、サンマなどの青魚にはイコサペンタエン酸(IPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)という多価不飽和脂肪酸(たかふほうわしぼうさん)が含まれています。この多価不飽和脂肪酸は、血液中の中性脂肪やコレステロールを低下させ、血小板の作用を抑えて、血液をかたまりにくくするはたらきがあります。
②たんぱく質を十分にとる
 たんぱく質が不足しないように心がけましょう。
 大豆(だいず)などの植物性たんぱくにはアルギニン、白身魚にはタウリンという動脈硬化の発症・進行を予防する成分が含まれています。
 卵は、良質なたんぱく質食品ですが、コレステロールを含み、食べすぎると血中コレステロール値が上昇します。摂取は2、3日に1個程度にします。
③糖分の摂取は控えめに
 砂糖にして1日30g以上の糖分を摂取すると、血液中の中性脂肪値を高くします。糖分の摂取は控えめにしましょう。
 果物は、果糖という糖分をかなり含んでいます。食べすぎないようにしましょう。
④食物繊維を積極的にとる
 食物繊維には、LDLコレステロールが腸から吸収されるのを抑える効果があります。
 コンニャク、海藻に含まれるマンナン、ペクチン、リグニンといった食物繊維は、その作用がより強力だといわれています。積極的に摂取するようにしましょう。
 サツマイモ、ゴボウ、キノコなどにも食物繊維は豊富に含まれています。
⑤肥満があれば解消する
 体重(kg)を、身長(m)を2乗した数値で割って、答えが22は標準、24は太りすぎ、26.4以上で肥満症となります。
 食べる量全体を減らし、答えの数値が標準になるようにしましょう。
⑥飲酒は、適量にとどめる
 適量の飲酒は、善玉コレステロールといわれるHDLコレステロールの値を上昇させます。日本酒で1合、ビールで中びん1本、ウイスキーでダブル1杯程度が適量です。また、酒類を飲むと脱水状態になったり、酔いざめで血管が収縮して血圧が上昇し、血栓ができやすくなるので、お酒を飲んだ後は、水分を補給しておくこともたいせつです。
 ただし、飲みすぎるといろいろな弊害がおこってきますから、適量を守ることが必要です。糖尿病、中性脂肪が高い人は、アルコールは体質に合わないと考えるべきでしょう。
●運動療法
 運動でからだを刺激すると、HDLコレステロールの値が上昇します。できれば毎日、運動しましょう。HDLコレステロールを増やす運動には、呼吸しながら行なうエアロビクス(有酸素運動(ゆうさんそうんどう)=速歩、軽いジョギング、サイクリング、水中歩行など)が最適です。
 誰にも、毎日できるエアロビクスとなれば、速歩でしょう。うっすらと汗ばむくらいの速さで、1回20~30分歩き続けます。ときどき休みながらでは、効果がありません。歩き続けることがたいせつです。心臓病などがあれば、主治医の指示にしたがい、運動を行なってください。
●薬物療法
 脂質代謝改善薬(ししつたいしゃかいぜんやく)(動脈硬化治療薬)
 高脂血症の状態を解消させる脂質代謝改善薬の服用が中心です。
 脂質代謝改善薬には、コレステロールの合成を抑えるもの、HDLコレステロールの量を増やし、LDLコレステロールの量を減らすもの、中性脂肪の量を減らすもの、コレステロールと中性脂肪の両方の量を減らすものなど、いろいろな種類があります。
 しかも、高脂血症を解消するだけではなく、細動脈を拡張させるなどの作用を合わせもつものもあって、その人にもっとも適したものを使用します。
 この脂質代謝改善薬を1種類だけ服用することもありますし、2~3剤を併用することもあります。
 脂質代謝改善薬に、血栓が生じるのを予防する抗血小板薬(こうけっしょうばんやく)(血小板凝集阻止薬(けっしょうばんぎょうしゅうそしやく))、動脈の内腔を広げる血管拡張薬(けっかんかくちょうやく)、血液不足のために、はたらきの低下している組織に活力を与える組織代謝賦活剤(そしきたいしゃふかつざい)などを併用することもあります。
●血漿交換療法(けっしょうこうかんりょうほう)(LDLアフェレーシス)
 血漿(けっしょう)(血液の液体成分)中に含まれるLDLを吸着させて取り除く治療法です。遺伝的な体質でおこる家族性高コレステロール血症に効果があります。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「動脈硬化症」の意味・わかりやすい解説

動脈硬化症
どうみゃくこうかしょう
arteriosclerosis

動脈壁に肥厚、組織の変性がおこって硬化する疾患で、その解剖学的部位により次のように分類される。

(1)冠動脈硬化症(冠状動脈硬化症) 心臓に栄養を供給している動脈に硬化がおこり、狭心症、心筋梗塞(こうそく)などの原因となる。

(2)脳動脈硬化症 脳動脈に硬化がおこり、頭痛、めまい、手足のしびれ感などがみられ、ひどくなると脳梗塞、脳出血の原因となる。

(3)腎(じん)動脈硬化症 腎動脈に硬化がおこり、腎機能が低下する。

(4)大動脈硬化症 大動脈に硬化がおこり、大動脈瘤(りゅう)の原因となる。

(5)末梢(まっしょう)動脈硬化症 四肢の動脈に硬化がおこり、悪化すると四肢が冷たくなったり、歩行によって患側の下肢に痛みを訴えるようになる。これを間欠性跛行(はこう)症という。

 組織学的には、粥(じゅく)状硬化症、中膜硬化症、細動脈硬化症の3種類に分けられる。粥状硬化症はアテローム硬化ともよばれ、大動脈、冠動脈、頸(けい)動脈、脳底動脈、腎動脈、末梢動脈に発生し、動脈の内膜が線維性に肥厚し、そのなかに脂質が沈着したもので、この脂質の沈着を粥腫(じゅくしゅ)またはアテロームとよぶ。中膜硬化症はメンケベルグ硬化症ともよばれ、おもに上下肢の中等大の動脈におこり、中膜に著明な石灰化を認めるが、真の動脈硬化症と区別する人もある。細動脈硬化症は全身の種々の部位における直径30~400マイクロメートル程度の細動脈に生じ、おもに脳や腎で問題となる。

 大動脈、冠動脈、脳動脈における初期の変化は、10歳代の前半からみられ、30歳を超えるころより粥腫形成が著明となり、加齢とともに強くなる。発生要因としては、年齢、体質、高血圧症、脂質異常症(高コレステロール血症、高トリグリセリド血症)、肥満、喫煙、糖尿病、精神的ストレスなどが考えられている。なお、血清コレステロール値は1デシリットル中220~250ミリグラム以上ではかなりの危険率を示し、トリグリセリド値も同じく150ミリグラム以上では動脈硬化が増強される。動脈硬化の進展に対しては、血管壁へのコレステロール沈着が重要な因子となっている。しかし、高コレステロール血症があっても長命であったり、血管壁にそれほど異常がみられないことがある。

 血中に存在するコレステロールには、次のような種類がある。一つはLDLコレステロールで、腸で吸収されたコレステロールや肝臓で合成されたコレステロールを臓器や組織に運ぶが、余分なコレステロールを血管壁に沈着させる。一方、HDLコレステロールは末梢から余分のコレステロールを集めて肝臓へ運ぶ働きがあり、動脈硬化の進展予防の働きがあるといわれている。また、動脈硬化の進展に対して、止血機構に関係する血小板が大きな働きをすることがわかっており、障害を受けた動脈壁に血小板が粘着、凝集することが引き金となって動脈硬化が増強される。

 動脈硬化症は、その進展防止がもっとも重要であり、前述した危険因子の除去に努めるべきである。脂質異常症の治療には、動物性脂肪の制限と、コレステロールを多く含む食品の制限を行い、また1日摂取総カロリーを減らし、適度の運動をすることが重要である。それでも脂質異常症が改善されない場合には、プラバスタチン、シンバスタチンなどの治療薬が用いられる。このほか、高血圧症や糖尿病の治療をはじめ、適正体重(BMI値19~24)を保つこと、喫煙の制限もたいせつである。なお、BMI(body mass index)とは、やせ・肥満の程度の指標であり、BMI値=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められる。BMI値の標準は22であり、25以上は「肥満」18.5未満は「やせ」とされている(日本肥満学会基準)。これらによって動脈硬化性の病気を予防することが期待できるが、一度発病したものについては治癒することがむずかしいといわれており、若いころからの対策が必要である。

[木村和文]

『岡田昌義編著『動脈硬化症と静脈疾患――診断と治療の最前線』(2002・医学図書出版)』『柏木厚典編『糖尿病と動脈硬化』(2005・文光堂)』『中島康秀監修、太崎博美編『動脈硬化 最新の基礎と臨床』(2006・永井書店)』『齋藤康・山田信博編『動脈硬化診療マニュアル』(2006・南江堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「動脈硬化症」の意味・わかりやすい解説

動脈硬化症
どうみゃくこうかしょう
arteriosclerosis

動脈の壁が硬くなって,弾力性を失う病変の総称。高齢者に多く,老人性変化とみなされているが,若年者にも種々の疾患によって生じる。動脈の太さによって壁の構造が異なるので,部位により硬化症の形態学的変化には差がある。大動脈およびその大きい分枝,すなわち弾性型動脈の硬化症は,かゆ状 (またはアテローム性) 動脈硬化症 atherosclerosisと呼ばれる。肉眼的には,動脈壁内表面に黄色の内膜肥厚を生じ,表面がくずれてかゆ状になり,場所によっては血栓が付着する。組織学的には,コレステロール,中性脂肪の沈着,膠原線維,弾性線維の増生,硝子化,さらに石灰沈着などが内膜に生じる。中膜にも線維化が起るが,外膜には著変がない。最近,かゆ状動脈硬化の初期変化として,内膜に平滑筋細胞の増生することが注目されている。中等度の太さの動脈,すなわち,内臓,四肢,心臓,脳などの筋型動脈の硬化症は,内膜には大動脈と同様のかゆ状硬化を示すが,さらに中膜の硝子化,石灰化を起す。末梢の細小動脈の硬化症は,内膜の硝子化を主体とする変化で,内膜下層に硝子様物質の沈着が起るために,血管内腔が狭くなる。内膜の増殖,平滑筋細胞の肥大増殖による中膜の肥厚も認められる。動脈硬化症の原因としては,神経性要因による高血圧,血管壁の損傷,また脂質,コレステロール,動物性蛋白などの多い食事,あるいは老化現象としての弾性線維や中膜の平滑筋の変性などが考えられている。

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知恵蔵 「動脈硬化症」の解説

動脈硬化症

動脈壁に脂質が蓄積したり、細胞の増殖によって起こる血管壁の肥厚。その結果、血管が細くなったり、血栓ができたりする。動脈硬化は全身の様々な疾患に関連し、狭心症、虚血性心疾患(心筋梗塞等)、脳血管障害(一過性脳虚血、脳梗塞、脳血栓等)、腎疾患(腎硬化症、腎不全、腎性高血圧等)、腹部大動脈瘤、間けつ性跛行(はこう)等を伴う末梢動脈硬化症などがある。また、高脂血症は動脈硬化症の大きな成因の1つ。治療は食事療法のほか、降圧剤や脂質低下剤などの薬物療法。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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