動脈壁に肥厚、組織の変性がおこって硬化する疾患で、その解剖学的部位により次のように分類される。
(1)冠動脈硬化症(冠状動脈硬化症) 心臓に栄養を供給している動脈に硬化がおこり、狭心症、心筋梗塞(こうそく)などの原因となる。
(2)脳動脈硬化症 脳動脈に硬化がおこり、頭痛、めまい、手足のしびれ感などがみられ、ひどくなると脳梗塞、脳出血の原因となる。
(3)腎(じん)動脈硬化症 腎動脈に硬化がおこり、腎機能が低下する。
(4)大動脈硬化症 大動脈に硬化がおこり、大動脈瘤(りゅう)の原因となる。
(5)末梢(まっしょう)動脈硬化症 四肢の動脈に硬化がおこり、悪化すると四肢が冷たくなったり、歩行によって患側の下肢に痛みを訴えるようになる。これを間欠性跛行(はこう)症という。
組織学的には、粥(じゅく)状硬化症、中膜硬化症、細動脈硬化症の3種類に分けられる。粥状硬化症はアテローム硬化ともよばれ、大動脈、冠動脈、頸(けい)動脈、脳底動脈、腎動脈、末梢動脈に発生し、動脈の内膜が線維性に肥厚し、そのなかに脂質が沈着したもので、この脂質の沈着を粥腫(じゅくしゅ)またはアテロームとよぶ。中膜硬化症はメンケベルグ硬化症ともよばれ、おもに上下肢の中等大の動脈におこり、中膜に著明な石灰化を認めるが、真の動脈硬化症と区別する人もある。細動脈硬化症は全身の種々の部位における直径30~400マイクロメートル程度の細動脈に生じ、おもに脳や腎で問題となる。
大動脈、冠動脈、脳動脈における初期の変化は、10歳代の前半からみられ、30歳を超えるころより粥腫形成が著明となり、加齢とともに強くなる。発生要因としては、年齢、体質、高血圧症、脂質異常症(高コレステロール血症、高トリグリセリド血症)、肥満、喫煙、糖尿病、精神的ストレスなどが考えられている。なお、血清コレステロール値は1デシリットル中220~250ミリグラム以上ではかなりの危険率を示し、トリグリセリド値も同じく150ミリグラム以上では動脈硬化が増強される。動脈硬化の進展に対しては、血管壁へのコレステロール沈着が重要な因子となっている。しかし、高コレステロール血症があっても長命であったり、血管壁にそれほど異常がみられないことがある。
血中に存在するコレステロールには、次のような種類がある。一つはLDLコレステロールで、腸で吸収されたコレステロールや肝臓で合成されたコレステロールを臓器や組織に運ぶが、余分なコレステロールを血管壁に沈着させる。一方、HDLコレステロールは末梢から余分のコレステロールを集めて肝臓へ運ぶ働きがあり、動脈硬化の進展予防の働きがあるといわれている。また、動脈硬化の進展に対して、止血機構に関係する血小板が大きな働きをすることがわかっており、障害を受けた動脈壁に血小板が粘着、凝集することが引き金となって動脈硬化が増強される。
動脈硬化症は、その進展防止がもっとも重要であり、前述した危険因子の除去に努めるべきである。脂質異常症の治療には、動物性脂肪の制限と、コレステロールを多く含む食品の制限を行い、また1日摂取総カロリーを減らし、適度の運動をすることが重要である。それでも脂質異常症が改善されない場合には、プラバスタチン、シンバスタチンなどの治療薬が用いられる。このほか、高血圧症や糖尿病の治療をはじめ、適正体重(BMI値19~24)を保つこと、喫煙の制限もたいせつである。なお、BMI(body mass index)とは、やせ・肥満の程度の指標であり、BMI値=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められる。BMI値の標準は22であり、25以上は「肥満」18.5未満は「やせ」とされている(日本肥満学会基準)。これらによって動脈硬化性の病気を予防することが期待できるが、一度発病したものについては治癒することがむずかしいといわれており、若いころからの対策が必要である。
[木村和文]
『岡田昌義編著『動脈硬化症と静脈疾患――診断と治療の最前線』(2002・医学図書出版)』▽『柏木厚典編『糖尿病と動脈硬化』(2005・文光堂)』▽『中島康秀監修、太崎博美編『動脈硬化 最新の基礎と臨床』(2006・永井書店)』▽『齋藤康・山田信博編『動脈硬化診療マニュアル』(2006・南江堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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