大動脈炎症候群(読み)ダイドウミャクエンショウコウグン(その他表記)Aortitis syndrome

デジタル大辞泉 「大動脈炎症候群」の意味・読み・例文・類語

だいどうみゃくえん‐しょうこうぐん〔‐シヤウコウグン〕【大動脈炎症候群】

高安動脈炎旧称。平成27年(2015)の難病法施行に伴い改称

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家庭医学館 「大動脈炎症候群」の解説

だいどうみゃくえんしょうこうぐんたかやすどうみゃくえんみゃくなしびょう【大動脈炎症候群(高安動脈炎/脈なし病) Aortitis Syndrome】

[どんな病気か]
 動脈の壁が慢性的な炎症によって厚くなり、動脈内径が細くなって血液の流れ(血流)が悪くなる病気です。動脈壁がふくらんで動脈瘤(どうみゃくりゅう)ができる場合も一部でみられます。
 炎症がおこるのは、大型の動脈にかぎられ、心臓に接続する動脈本幹(どうみゃくほんかん)(大動脈)と、そこから出て脳や腎臓(じんぞう)などの臓器に至るまでの主分枝(しゅぶんし)にみられます。手足や臓器内部の中・小動脈にはおこりません。ただし、肺動脈にかぎっては、中・小動脈枝にもおこります。
 なぜ炎症がおこるかについては、まだわかっていません。発病は15~20歳の若い人に多く、男女別では女性に男性の8倍も多くみられます。また、日本人を含め東洋人に多くみられます。
 炎症は、動脈に一様におこるのではなく、部分的におこり、おこる部位も患者さんによって異なります。このため、血行障害(けっこうしょうがい)をおこす臓器もそれぞれちがい、同じ病気でも患者さんによって異なった状態になります。
[症状]
 発病初期には、動脈炎による発熱貧血などがみられます。6か月以上経過すると動脈血行障害による症状が出てきます。疲れやすい、動悸(どうき)、めまいのほか、頸部動脈(けいぶどうみゃく)の血行障害では、まぶしい、目がかすむ、耳鳴(みみな)りがするなどの症状がみられます。検査すると、頸部の血管に雑音が聞こえ、脈拍の微弱化もみられます。重くなると、視力が低下し、ひどい場合、失明(しつめい)することもあります。
 手に行く動脈(鎖骨下動脈(さこつかどうみゃく))が障害されると、手が冷たく、だるくなり、仕事をすると手が疲れやすくなります。手の脈も触れにくくなり、左右で血圧の差が出ます。手と足で血圧差が出ることもあります。これらの場合は、強い障害をおこすことはなく、日常生活を制限する必要はありません。
 腎臓へ行く動脈(腎動脈(じんどうみゃく))が障害されると、重度の高血圧となり、若い人でもしばしば脳出血(のうしゅっけつ)をおこします。
 腸へ行く動脈(腸間膜動脈(ちょうかんまくどうみゃく))が障害されると、一時的に下痢(げり)、体重減少をおこすことがあります。この場合は、腸の動脈間に自然にバイパス(迂回路(うかいろ))ができるため、症状は一時的で、やがて消えてしまいます。
 心臓の出口と大動脈の接続部には大動脈弁(だいどうみゃくべん)がありますが、この部位が障害されると弁膜症(べんまくしょう)になり、聴診すると雑音が聞こえます。軽症のことが多く、日常生活に支障はありませんが、重度の弁膜症となることが4%程度の少数例でみられます。このときの症状は、呼吸困難、浮腫(ふしゅ)、胸痛(きょうつう)、倦怠感(けんたいかん)などの心不全(しんふぜん)の症状がみられるため、日常生活を強く制限しなければなりません。
 また、この部位には、心臓自身に血液を送る冠動脈(かんどうみゃく)がありますが、この動脈の出口が細くなると、狭心症(きょうしんしょう)や心筋梗塞(しんきんこうそく)を発病します。
 肺動脈が障害されると、一時的にせきやたんが出ます。さらに、まれですが、障害が片方の肺全体を越えて広範囲におよぶことがあります。こうなると、呼吸困難のために労作困難となり、慢性呼吸不全(まんせいこきゅうふぜん)になることがあります。
 動脈障害部位は患者さんによって異なるため、症状も患者さんによってちがいます。また、前述した症状が1人の人にみな出るわけではありません。
[検査と診断]
 動脈炎の炎症の状態は、血液の赤沈(せきちん)やCRP(C反応たんぱく)陽性などの炎症反応と前述した症状を合わせて判定されます。
 しばらくは強い反応がみられ、少しずつ軽くなっていきますが、数年から数十年かかるのがふつうです。このため、いったん発病したら、ときどき血液検査を受ける必要があります。
 動脈障害部位は、血管雑音や脈拍、血圧の部位差によっておおよそ推定できるのですが、正確にはX線による血管造影検査によって、障害された動脈の狭窄や拡張の型、その程度、障害の範囲が確認されます(CTやMRIも使われますが、まだ血管造影ほど正確ではありません)。動脈障害と血行障害のある臓器が判定されたら、治療法が決められます。
 合併症の診断は各臓器で異なります。頭部については、眼科検査が行なわれ、眼部の血行障害が目安にされます。
 心臓については、弁膜症は心エコー図で、狭心症は運動負荷心電図検査や心筋シンチグラムで判定されます。
 腎臓については、血液と尿の検査に加え、レニンアルドステロンなどのホルモン検査のほか、レノグラム放射性同位元素(ほうしゃせいどういげんそ)による腎機能検査)などを行なったうえで判定されます。
 肺については、シンチグラムで判定しますが、高度の場合は呼吸機能検査を加えて判定します。
[治療]
 動脈に高度の炎症反応がみられ、炎症による症状がある場合は、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬が使われます。最初は比較的大量で使用され、数か月後に減量され、その後は少量が数年間使用されます。いつ中止するかは、患者さんの状態で決まります。
 血行障害による疾患で、もっとも多いのは高血圧です。本態性高血圧(ほんたいせいこうけつあつ)よりも血圧が動揺する傾向があります。ふつうの高血圧と同様、降圧薬(こうあつやく)が継続して使用されます。
 弁膜症、狭心症、心不全はそれぞれの疾患について定められた治療が行なわれます。ただし、重症の場合や、薬の効果が十分でない場合は外科手術が行なわれます。
 腎動脈が障害されると経過が悪くなることが多いので、早期に血行再建手術やPTRA(経皮経管腎動脈形成術(けいひけいかんじんどうみゃくけいせいじゅつ))が行なわれます。

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六訂版 家庭医学大全科 「大動脈炎症候群」の解説

大動脈炎症候群
だいどうみゃくえんしょうこうぐん
Aortitis syndrome
(循環器の病気)

どんな病気か

 大動脈およびその主要な分枝に生じる原因不明の血管炎で、炎症の結果、血管の狭窄(きょうさく)、閉塞、拡張を来し、血流障害が生じます。手首の動脈の脈が触れないことがよくあり、脈なし病とも呼ばれています。また、最初の報告者の名前をとって、高安病(たかやすびょう)とも呼ばれています。

 現在、患者さんの約9割は女性で、20~40歳にかけて発症のピークが認められます。世界中で日本が最も患者数が多いといわれていますが、インド、中国などのアジア諸国でもみられます。

 特定疾患であり、医療費は公費負担助成の対象です。

原因は何か

 原因は不明ですが、自己免疫機序(仕組み)が関係しているという説が有力です。遺伝はしません。

症状の現れ方

 最初の急性期は、発熱、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、体重減少などの症状から始まることもありますが、発症が潜在性で気づかないことも多く、健康診断で“脈なし”を指摘されて初めて診断されることがしばしばあります。その後、動脈の狭窄や閉塞の進行とともに、めまい、立ちくらみ、失神、腕が疲れやすいなど、さまざまな症状が現れてきます。

 まれに、脳梗塞(のうこうそく)や失明などが起こることもあります。冠動脈の狭窄や大動脈弁閉鎖不全により、狭心症(きょうしんしょう)や心不全が生じることもあります。腎動脈や大動脈の狭窄により高血圧を来すこともあります。

検査と診断

 腕の動脈に狭窄があると、血圧に左右差が生じます。狭窄による血管雑音が頸部(けいぶ)鎖骨上窩(さこつじょうか)などで聞かれます。

 血液検査では炎症反応(CRP、赤沈)が陽性になります。X線検査では大動脈の拡大や石灰化が認められます。CT、MRIや血管造影検査では狭窄や閉塞などの病変部位や程度がわかり、本症の診断に最も有用です。心臓合併症の有無は、心エコーや心臓カテーテル検査により調べます。

治療の方法

 急性期には炎症を抑える副腎皮質ステロイド薬が用いられます。CRP、赤沈を指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して投与量を加減しながら、継続的あるいは間欠的に投与します。場合によっては、免疫抑制薬が併用されます。慢性期には血栓予防のため、抗血小板薬や抗凝固薬を用います。

 外科的治療は、特定の血管病変に起因することが明らかな症状があり、かつ内科的治療が困難と考えられる場合に考慮されます。頸動脈狭窄による脳虚血(のうきょけつ)症状、腎動脈や大動脈の狭窄による高血圧や、大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)などが主な手術対象になります。

病気の経過

 本症はある程度までは進みますが、通常、そのあとは極めて慢性の経過をとり、多くは長期の生存が可能です。しかし、脳への血流障害や心臓の合併症を生じた場合、あるいは高血圧が合併する場合は、厳重な管理が必要になります。また、血管炎が再燃することもあります。

池田 宇一

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大動脈炎症候群」の意味・わかりやすい解説

大動脈炎症候群
だいどうみゃくえんしょうこうぐん
aortitic syndrome

大動脈,肺動脈などに生じる原因不明の炎症。脈拍がふれにくくなるので,脈なし病とも呼ばれる。血管が狭くなったりふさがれたりするため,その先の組織で血流や血圧の低下が起るほか,炎症に伴う発熱や貧血などが見られる。原因はよくわかっていない。 1908年に日本の眼科医が初めて報告したもので,日本やアジアの若い女性に多い。治療薬には血管拡張剤やステロイド剤が有効で,予後は比較的よいが,脳血管障害や心不全が死因となる場合が多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大動脈炎症候群」の意味・わかりやすい解説

大動脈炎症候群
だいどうみゃくえんしょうこうぐん

高安動脈炎

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の大動脈炎症候群の言及

【血管雑音】より

…また,大きな動脈瘤の場合には,拡張期にも雑音を聴取できることがある。閉塞性動脈硬化症や大動脈炎症候群(高安病)でも,血管に限局的な狭窄がある場合,その部位で収縮期雑音が聴取される。前者では,頸動脈,大腿動脈,腸骨動脈などが好発部位で,大動脈で聴取されることもある。…

【高安病】より

…脈無病あるいは大動脈炎症候群ともいう。炎症のために動脈の狭窄や閉塞を起こす疾患。…

※「大動脈炎症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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