改訂新版 世界大百科事典 「大学は出たけれど」の意味・わかりやすい解説
大学は出たけれど (だいがくはでたけれど)
小津安二郎監督の1929年度松竹蒲田作品で,黒白スタンダードの無声映画。清水宏監督が自作のための題材を小津に譲って撮らせたといわれる。脚本は荒牧芳郎で初めての組合せ。撮影は常連の茂原英雄。高田稔,田中絹代という当時の大スターの出演も戦前の小津映画には珍しい。大学を卒業しても就職が困難だった昭和初期の世相を反映し,若夫婦の東京での生活が皮肉っぽく描かれ,《落第はしたけれど》(1930),《生れてはみたけれど》(1932)とともに生活苦三部作をなす。もっとも失業中の夫が妻に週刊誌《サンデー毎日》の表紙を示し,毎日がサンデー(日曜日)で出勤のあてがないと自嘲するギャグなど,作品そのものの調子はかならずしも暗くはない。シナリオではラストに豪雨と快晴とのコントラストを示し,ハッピーエンドでしめくくっているのだが,プリントの完全版は失われ,約10分の断片が現存するのみで,ラストシーンは見られず,その視覚的効果を確かめる手だてはない。
執筆者:蓮實 重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報