改訂新版 世界大百科事典 「大師信仰」の意味・わかりやすい解説
大師信仰 (だいししんこう)
弘法大師,元三(がんざん)大師,善導大師など各宗派の祖や高僧に対する信仰をさすが,大師信仰として一括されるのは,これらの基底にオオイコ(大子)として神の子や遊行の神が村に現れるとする信仰があるとされるからである。この傾向はとくに弘法大師に強い。
弘法大師(空海)は真言宗の祖であるわけだが,伝記については,まだ不明の部分がある。とくに修行時代は不明なので,古くから弘法大師が各地に現れて,奇跡を行ったとする伝説は多い。弘法大師が杖で地面を突くと水が湧き出すという弘法清水伝説,逆に村人がいじわるをしたため水が出なくなる水無瀬川伝説,また杖をたてるとそれが1年に3度実のなる栗の木になる三度栗伝説などがある。また旅姿の大師をばかにしたので悪いことが起こったとする型の伝説も多い。その一つに鯖大師伝説がある。行商人に大師が鯖を1匹請うが,行商人は与えない。そこで,〈大坂や八坂坂中鯖一つ大師にくれで馬の腹病む〉の呪文をとなえて,立ち去る。すると馬が腹痛を起こしたので,以後鯖を片手に持つ大師像をまつったとする伝説である。この伝説は山の神の供物として鯖をそなえる起源譚にもなっていて,この主が行基になっている所も多い。要するに,このような遊行姿の僧がいろいろな呪術や奇跡を行うとする伝説が,大師伝説の基底にある。暮の11月23日に大師講と称し,小豆粥やだんごを作って,大師が村に来るのを歓待するとか,大師が来て麦やソバをもたらしたとする伝説も多い。
元三大師は角大師ともいわれるが,天台の僧良源のことで,正月の3日に生まれたからこの名がついたとされる。祈禱をよくするため,民間に厄よけ,疫病よけとして信仰される。一方,聖徳太子もタイシとして信仰されている。このように高僧をタイシとして信仰するのは,神の子が村に遊行する客人(まれびと)信仰の一つとも,また,聖(ひじり)などの遊行の僧がそれを利用して信仰をひろめていった痕跡ともとれる。
→大師講
執筆者:坂本 要
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