改訂新版 世界大百科事典 「大気吸収」の意味・わかりやすい解説
大気吸収 (たいききゅうしゅう)
atmospheric absorption
太陽放射などが大気中を通過するときに受ける吸収をいう。太陽は,その表面の温度が約6000Kの黒体とみなしてもよいと考えられているが,そうだとすると黒体放射に関するプランクの放射則によって,太陽放射の波長は0.15μmから4μmにわたり,全エネルギーの約半分は0.38μmから0.77μmの可視光線の範囲に含まれ,エネルギー極大の波長は0.5μmの青緑色のはずである。ところが地球表面で観測される太陽スペクトルでは,エネルギー極大の波長は約0.6μmの黄色の部分にある。これは空気分子(主として酸素,窒素)による散乱(光散乱)によるものである。散乱光の強さに関しては,よく知られているレーリーの法則があって,入射光の波長の4乗に逆比例する。したがって地球大気を通過した太陽放射のうち,波長の短い青や紫の色の光は散乱を強く受けて別方向へ行ってしまうものが多く,最も強い色は黄色になるのである。
地球表面で受ける太陽放射のスペクトルの第2の特徴は,その中にたくさんの吸収線や吸収帯があることである。可視部に見られる多くの吸収線はいわゆるフラウンホーファー線で,これは太陽大気中での吸収によるものである。赤外部に見られるたくさんの吸収帯は,水蒸気によるものがいちばん強く,ほかに二酸化炭素,酸素,オゾンなどによるものもあるが,比較的弱い。
地表で受けた太陽スペクトルの第3の特徴は,波長の短い方の端が0.29μmで突然終わっていることである。これは成層圏のオゾンの吸収によるもので,このため日射の約5%が失われている。水蒸気による日射の吸収は,夏季の高温多湿時には日射エネルギー全体の約10%にもなり,オゾンの吸収よりも大きくなる。
→空 →地球放射 →日射
執筆者:畠山 久尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報