大農論(読み)だいのうろん

改訂新版 世界大百科事典 「大農論」の意味・わかりやすい解説

大農論 (だいのうろん)

欧米の農法を導入し,畜力・機械を使用する大規模農業を日本に移植しようとする主張在来の零細分散的な日本農業の改良のために唱えられたもので,明治初期の殖産勧農政策の一部をなす発想である。具体的には広大な未開発地を有する北海道を管轄する開拓使の農事試験機関や札幌農学校などで実験や教育が行われた。この主張が現実に社会的な意味をもつにいたったのは,1880年代後半から90年代にかけてであり,1886年に北海道を視察した井上馨マックスフェスカがこれを主張したこと,88年札幌農学校教授佐藤昌介が《大農論》を著したことなどがそのきっかけとなった。佐藤は北海道においては30~60町歩の規模をもつ粗放経営が適当であるとした。華族政商・地主らに大規模な農業投資を促すことによってその活性化と結集をはかろうとする井上馨らの政治的意図と,北海道庁の設置(1886)とその資本導入策や日本鉄道(東北本線)の開通(1891)などによって,北海道,東北への資本誘導が進められる状況とが重なりあって,一時大農論は盛んに唱えられ,90年代には大農法による経営が実際に試みられた。具体的には,北海道における華族農場が代表的なものであり,札幌農学校の技術がこれを助けたが,農業機械の不適合,低廉な労働力調達の困難,市場条件の未整備などのためにとうてい採算を得るにいたらず,10年後にはいずれも小作制大農場に転換し,大農論の主張もまた影を潜めるにいたった。
北海道開拓
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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