改訂新版 世界大百科事典 「天体測光」の意味・わかりやすい解説
天体測光 (てんたいそっこう)
celestial photometry
天体からの光の量を正確に測定すること。実際には,波長別の色フィルター(U紫外,B青,V黄)や,より透過幅の狭い干渉フィルターを使い,それぞれの波長域での光量を等級として求め,それら全体の物理的意味づけを行う。近代的天体測光には,望遠鏡で星野写真をとり,写真乾板上の星像の黒みと直径をあわせたものを光度計で測定して等級を決める写真測光と,望遠鏡に光電子増倍管をつけ,受けた星の光を電流に変え増幅して電流計に記録させて等級を測る光電測光とがある。写真測光と光電測光の精度は,それぞれ±0.05等,±0.01等くらいで光電測光のほうがはるかに高精度である。ちなみに,肉眼だけで観測する実視測光の精度は±0.2等くらいである。写真測光は光電測光より精度は落ちるが,1枚の乾板に一度に多くの星をうつし記録にとれるという長所があるので,多くの星の掃天観測に適している。光電測光は,一度に一つの星のみの測光であるがその高精度のため,天体の精密なU,B,V等級の決定や変光星などの微小変光のようすまでも詳しく観測するのに適している。変光星などの発見は,まず写真測光により得られた何枚もの乾板上の同じ星の星像を比較して行われる。そして発見された変光星の精密な光度変化は光電測光によって行うという順序になる。天体測光を行う場合,もっとも注意を要するのは,地球大気による光の吸収量の補正である。星を天頂近くで観測したときと地平線近くで観測したときとでは大気吸収量が違うので,当然測った光量は違う。そこで天体測光によって決定された天体の等級や色指数(色別等級差U-B,B-Vなど)は,この地球大気の吸収量を補正し,地球大気外で測定したとしたときの値に還元された値でなければならない。そのためには,目的星の測光のたび,その前後に万国共通の測光標準星というのをいくつか選んで観測する。測光標準星はふつう地球大気外で測光したU,B,Vの3色での等級がよく知られた星が選ばれている。つまり,標準星も観測し,その観測値からその夜の地球大気の吸収量の補正値を知ることができるのである。写真測光では種々の分光乾板を各種色フィルター(U紫外,B青,G緑,V黄,R赤,I赤外など)と組み合わせて行われている。U,B,Vの光電測光では,アンチモン・セシウム(SbCs)光電面の光電子増倍管を使うが,ヒ化ガリウムGaAsの光電面をもった増倍管を使えば波長9300Åまでの感度をもつので,赤色域の測光ができる。波長域1~3μmの赤外光電測光には硫化鉛PbS,より長波長の3~5μmの波長域にはアンチモン・インジウムInSbなどの光導電セルが用いられる。
→標準星
執筆者:北村 正利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報