化学辞典 第2版 「天然原子炉」の解説
天然原子炉
テンネンゲンシロ
natural atomic pile, natural nuclear reactor
ウラン鉱床において,ウランの核分裂連鎖反応が自然に起こり臨界に達する現象をいう.1942年,シカゴ大学でE. Fermi(フェルミ)が世界最初の原子炉をつくり,ウランの核分裂連鎖反応を起こすことに成功したが,その後,1956年にアーカンソー大学の黒田和夫が天然原子炉を予言した.黒田はフェルミの原子炉理論を用いて,地球上で自然に存在するウランが核分裂連続反応を起こして臨界に達する可能性を計算した.その結果,235U の存在率が約3% である現在より格段に高い20億年前ならば,中性子の減速材になる水が適当量共存するなどの条件がそろえば,臨界に達したことがあるはずであること,すなわち,地球上に天然原子炉が存在しえたと予言した.しかし,当時はこの予言を裏づけるものはなかったが,1972年にフランス原子力庁が,アフリカのガボン共和国のオクロ鉱山に6基の天然原子炉が存在していたことを発見したと発表した.オクロ鉱山のウラン鉱石を分析したところ,235U の量がいちじるしく低く,核分裂によって生成するネオジウムの安定同位体が多量に検出されることなどから,約20億年前にオクロ鉱山の6か所でウランの核分裂連鎖反応が臨界に達し,50 t 以上のウランが反応して1.0×1011 kW h のエネルギーが放出されたことが明らかになり,黒田の予言が正しかったことが証明された.このように,天然原子炉の存在がオクロ鉱山で発見されたことから,天然原子炉の現象をオクロ現象(Oklo phenomenon)とよぶようになった.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報