核分裂生成物(読み)カクブンレツセイセイブツ(英語表記)fission product

デジタル大辞泉 「核分裂生成物」の意味・読み・例文・類語

かくぶんれつ‐せいせいぶつ【核分裂生成物】

核分裂過程で生成される核種総称最初分裂で生じる核種を核分裂片という。放射能をもつ放射性核種多くβ崩壊をはじめとする放射性崩壊を繰り返し、やがて安定した核種になる。

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改訂新版 世界大百科事典 「核分裂生成物」の意味・わかりやすい解説

核分裂生成物 (かくぶんれつせいせいぶつ)
fission product

ウラン235 235Uあるいは他の核分裂性核種原子核は本質的に不安定であり,これに中性子とくに熱中性子が衝突すると吸収され,一部は安定なウラン236 236Uとなるが大半の原子核は分裂し,それぞれから二つ,ときに三つの原子核ができる。これを核分裂生成物と呼ぶ。235Uの分裂では質量数70から160あたりまでの原子核ができ,そのうち質量数95付近と138付近のところが最も生成確率が高い。核分裂生成物のほとんどすべてが放射能をもち,平均3回の放射性崩壊により安定な原子核となる。原水爆実験による放射性降下物,いわゆる死の灰の主体はこの放射性の核分裂生成物である。核分裂エネルギー1Mtあたり半減期27.7年のストロンチウム90 90Srが10万キュリー(1キュリー=3.7×1010ベクレル),30.0年のセシウム137 137Csが16万キュリー,8.05日のヨウ素131 131Iは1億キュリーが生じ,爆発が大気中で行われればその全量が環境中に放出される。原子力発電所等の原子炉の運転でも大量の核分裂生成物が生ずる。電気出力110万kWの加圧水型原子炉が300日の連続運転の後に停止した場合,その時点炉内の核分裂生成物の全量は140億キュリーに達する。ただしこれは急激に減衰し,1ヵ月後には約10億キュリー,1年後には1.5億キュリーとなる。この核分裂生成物の多くは燃料棒中に内蔵され,一部の放射性希ガスハロゲンは燃料要素外に出るがそのほとんどすべては原子炉内に保持される。ただし事故時には一部が環境中に放出されることがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「核分裂生成物」の意味・わかりやすい解説

核分裂生成物
かくぶんれつせいせいぶつ
nuclear fission products; FP

核分裂反応の結果生じる数種類の原子核をさす。核分裂反応によって直接できる一次生成物 (核分裂片 fission fragment) と,一次生成物がさらに放射性崩壊を起こしてできる二次生成物がある。ウラン 235の熱中性子による核分裂では,40種以上の分裂の仕方が知られていて,分裂生成物として 200以上の核種が見つかっている。一次生成物は質量数 72から 158の範囲に分布し,97と 138付近の核を生成する確率が最も高い。核分裂生成物は安定核に比べて中性子過剰の大きなものが多く,β放射性物質を多く含む。寿命の長いβ放射性核種はトレーサーそのほかに利用される。そのおもなものに,ジルコニウム 95,ニオブ 95,イットリウム 91,セリウム 141,セリウム 144,バリウム 140,セシウム 137ストロンチウム 90などがある。

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化学辞典 第2版 「核分裂生成物」の解説

核分裂生成物
カクブンレツセイセイブツ
fission product

核分裂によって生成される原子核を核分裂生成物という.235U の分裂における第一分裂生成物として確かめられている核種は,60種類以上であり,その質量数の範囲は72から158までにわたっている.熱中性子による核分裂の場合の核分裂生成率は,質量数に対して95と140付近をピークとする双凸形の分布をしている.これらはβ線とγ線を放出して崩壊するので原子番号は時間が経つと変化するが,質量数は変化しない.こうして生成された核分裂生成物のうち,85Kr,90Sr,137Cs,147Pm などの有用な元素は分離,回収して放射線源,放電管用電子源などに利用されている.[別用語参照]核分裂片

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の核分裂生成物の言及

【核燃料サイクル】より


[使用済燃料の利用形態による違い]
 原子炉で一度用いた核燃料(これを使用済燃料という)には,なおエネルギーとして利用できる物質(UとプルトニウムPu)が残っている。そのような有用な物質が含まれているにもかかわらずいったん原子炉の中から取り出す必要があるのは,エネルギー生産に伴って発生した燃えかす(これを核分裂生成物という)がたまりすぎているからである。核燃料サイクルは,使用済燃料に残存するU,Puをふたたび利用するかどうかで基本的に異なってくる。…

【原子力】より

…ふつう,天然に存在する元素のうちでは,ウラン,特にウラン235235Uという同位体が最も核分裂しやすい。235Uが中性子と衝突して核分裂を起こすと,核分裂生成物とよばれる,ウランよりずっと軽い物質と,2~3個の中性子とができる。と同時に,膨大なエネルギーが発生する。…

※「核分裂生成物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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