いくつかの反応が連続しておこり、その反応生成物のうちの一つがふたたび反応体の中に組み込まれていき、何度も生成・消滅を繰り返しながら進行する反応をいう。
[山崎 昶]
この概念を提出したのはドイツのボーデンシュタイン(1913)であるが、のち1918年にネルンストが塩素爆鳴気(水素と塩素の混合気体)の光化学反応において確証した。 にその反応過程を示す。この場合、光吸収によって塩素原子が生じる(図の式(1))が、これが水素分子と反応して塩化水素と水素原子を生じる(図の式(2))。水素原子が塩素分子と反応すると塩化水素と塩素原子になる(図の式(3))が、この塩素原子がふたたび水素分子と反応する。
このようにして生成した塩素原子はふたたび反応系の一員として用いられる。これを連鎖連絡体という。連鎖成長という。やがて成分が使い尽くされると、連鎖連絡体は消滅し、反応は終結する。この過程を連鎖停止という(図の式(4))。
の例では塩素原子、水素原子ともに連鎖連絡体である。連鎖反応がこのようにおこることをこのような比較的簡単なサイクルの繰り返しのほかに、連鎖から枝分れが生じて、一つの連鎖連絡体から二つ以上の連鎖連絡体の生成がおこることがある。このような場合は反応は加速度的に進行する。爆発などの反応がそうである。重合反応では活性点が個々の反応のたびに末端基に移動して鎖状の重合体が生じることがあるが、これも一種の連鎖反応であり連鎖重合とよばれる。
[山崎 昶]
物理現象にも連鎖的であるものが少なくないが、核分裂の連鎖反応など原子力に関係した場合にとくによく用いられる。ウラン235は速い中性子を吸収して分裂するが、このとき速い中性子を2個ないし3個放出する。ウラン235の存在量が適当であれば、この際に放出される中性子のうち少なくとも1個は別のウラン235の原子核に吸収され分裂を繰り返す。こうして連鎖反応の条件が保たれ核分裂反応が継続する。当然、連鎖反応の条件は物質系によって異なる。ウラン235やプルトニウム239が一定量固まれば連鎖反応が進行する。この量の最小値を臨界量という。この場合、連鎖反応は核爆発で100万分の数秒で終わる。軽い原子核を原子核内のクーロンの斥力(反発力)を超えるエネルギーで衝突させると、融合して新しい原子核を形成してエネルギーを放出する。この際に放出されたエネルギーがガスの高温状態を維持することができ、原子核の衝突が進行すれば核融合連鎖反応が実現する。このときの連鎖反応は超高温ガス(プラズマ)の密度、温度と維持時間に対する条件、すなわちローソン条件で与えられる。ジュウテロン(D、重陽子)、トリチウム(T、三重陽子)→α(アルファ)粒子+中性子の核融合連鎖反応の場合では、ローソン条件は温度が4000万℃以上で、密度と維持時間の積は1014sec/cm3以上である。現在の技術では、短時間プラズマの温度と密度の条件を実現できるが、長時間継続させることや、発生した中性子による容器の放射化・脆化(ぜいか)などの問題解決がむずかしく、連鎖反応を実現させる見通しがたっていない。
[田中 一・加藤幾芳]
塩素と水素の混合物に光をあてると,塩素分子Cl2が光を吸収して解離し,塩素ラジカルCl・を生じて反応が開始され,次の反応段階(素反応過程),
Cl・+H2─→HCl+H・
H・+Cl2─→HCl+Cl・
を経て反応は急速に進む。この例のように,いくつかの引き続いて起こる反応段階を含み,ある反応段階の生成物が次の反応段階で再び反応に入り,生成・消滅を繰り返しながら,全体の反応が進行するような反応を連鎖反応という。連鎖反応で繰り返し生成・消滅し,引き続く反応段階を連結する反応中間体(上記のH・,Cl・)を連鎖担体chain carrierと呼び,この中間体が十分反応性に富み,次の反応を引き続き起こさせうることが,連鎖反応が起こる条件となる。連鎖反応は,開始,成長,停止からなり,連鎖が開始されてから停止するまで,連鎖が平均して何回繰り返されるかを示す数を連鎖の長さという。塩素と水素の反応では連鎖の長さは104~106に達する。水素と酸素の2:1の混合気体は爆鳴気detonating gasと呼ばれ,点火により反応は爆発的に進行する。この反応は次のような経路で進む典型的な連鎖反応である。
塩素-水素の場合と異なり,連鎖の成長のときに相次いで活性な中間体がつくられ,それらの濃度が急速に増大していく。これが激しい爆発を起こす理由である。連鎖反応が盛んに起こっているとき,温度も高くなり,ほとんどの分子が活性化されているので,連鎖を停止させるためには,活性中間体の再結合により放出されるエネルギーを効果的に除くための第三物体(冷却した器壁など)の存在が必要である。
核分裂反応では,分裂に伴っていくつかの中性子が放出され,この中性子が他の原子核にあたってつぎつぎと核分裂をひき起こしていく。これが核分裂の連鎖反応で,これを持続的にかつ制御可能な方法で行わせることにより,原子力の利用が可能となった。
→核分裂
執筆者:妹尾 学
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一つの反応が次の反応を引き起こし,その反応がまた次の反応の原因となるというように連続して起こる反応.爆発反応も重合反応もその例に入る.核爆発はその特別な例である.連鎖反応の反応熱が連鎖の原因になっているときをエネルギー連鎖,反応の生成物が連鎖伝達体になるときを物質連鎖という.また,塩素爆鳴気の反応のようにCl・とH・が反応ごとに交互に生成して連鎖伝達体となり,伝達体の数が増えないときを非分岐型といい,酸水素爆鳴気のように,連鎖伝達体の数が次のような反応で増加するときを分岐型という([別用語参照]連鎖分岐).
H・ + O2 → HO・ + O
O + H2 → H・ + HO・
ビニル化合物のラジカル重合は,ラジカル末端が次々に単量体と反応して成長する連鎖反応であるが,重合体の数平均重合度は,成長反応と連鎖停止および連鎖移動反応の和との比として表される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…E.フェルミは1個のウラン核の分裂で平均2.5個の中性子が放出されることを確かめ,それらの中性子がまわりのウランを核分裂させれば連鎖的に反応が持続しうることを指摘した。そしてフェルミの指導のもとにシカゴ大学につくられた最初の原子炉で,42年12月核分裂の連鎖反応が初めて成功し,原子力利用の第1歩が踏み出された。その利用は現在,原子炉,原子爆弾,放射性同位元素の生産など多岐にわたっている。…
…核分裂性物質を構成要素の一部として有し,核分裂連鎖反応を制御しながら持続的に行わせる装置をいう。発生する熱エネルギーや放射線,あるいは中性子による核反応により生成される各種物質を得るために使用される。…
…このうち,233U,235U,239Puは熱中性子(気体分子の熱運動エネルギー0.03eV程度のエネルギーをもつ遅い中性子)による分裂の確率はとくに大きく,238Uと232Thは速い中性子のみ有効である。
[連鎖反応]
原子核が中性子を吸収して分裂し,その際放出される中性子によって次々と別の原子核が連鎖的に分裂を起こすことを(核分裂)連鎖反応chain reactionという。ここでは熱中性子による235Uの核分裂連鎖反応を説明する。…
… X・+R-H―→X-H+R・ ……(26) 生じたR・がラジカルX・の発生源X2と直接反応してX・を生じるならば,最初に一度X・が生じればつぎつぎと式(26)(27)に示す反応が反復して起こることになる。 R・+X-X―→R-X+X・ ……(27) このような反応の経過を連鎖反応chain reactionという。多くの場合,式(27)とは別の機構で最初のX・が生じる。…
…すなわち,この場合には反応中間体のH,Clが一定濃度に達せず急激に増大するので,反応速度は一定の定常値を示さず,時間とともに増大して,爆発的に反応が進むことになる。このような反応を連鎖反応といい,連鎖が開始されてから停止するまで,平均して何回連鎖がくり返されるかを示す数を連鎖の長さという。水素‐塩素の反応では連鎖の長さは104~106に達する。…
… X・+R-H―→X-H+R・ ……(26) 生じたR・がラジカルX・の発生源X2と直接反応してX・を生じるならば,最初に一度X・が生じればつぎつぎと式(26)(27)に示す反応が反復して起こることになる。 R・+X-X―→R-X+X・ ……(27) このような反応の経過を連鎖反応chain reactionという。多くの場合,式(27)とは別の機構で最初のX・が生じる。…
※「連鎖反応」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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