広義には女性解放(男女差別を除去し、男女平等を達成し、女性の能力の全面的な開花とその発展を実現すること)を目ざす運動をいう。しかし、とくに1960年代後半におけるウーマン・リブを中心とする性差別撤廃を目ざす運動の展開以降、これらの運動は「新しい型の女性解放運動」あるいは「第二次女性解放運動」とよばれ、女性の参政権の獲得をおもな目的とした「第一次女性解放運動」とも、一般に「婦人解放運動」と名づけられていた労働者階級を中心とする女性運動(婦人運動)とも区別して考えられるようになった。この狭義の「女性解放運動」の思想的淵源(えんげん)は、各国のブルジョア民主主義革命に起源をもち、中産階級の女性による男女平等諸要求を掲げた女性運動に求められる。
ウーマン・リブ勃興(ぼっこう)の直接的な契機は、アメリカの女性解放運動家ベティ・フリーダンが、その著書『女らしさの神話』The Feminine Mystique(1963。邦題『新しい女性の創造』)において、一見幸福にみえる白人中産階級の主婦に潜む不満と不安の実態をえぐり、押し付けられた女らしさを告発、家庭という強制収容所からの解放を呼びかけ、大きな反響を得たことに求められる。フリーダンは1966年全米女性機構National Organization for Women(NOW(ナウ))を結成、初代会長に就任した。そして「男女平等の権利に関する合衆国憲法第27条修正案」の批准促進、雇用、教育、マス・メディアなどにおける女性の平等を目ざす運動などに取り組んだ。
1970年代後半、ラディカルな行動を前面に出していたウーマン・リブが、主体的な意識変革を求める学習活動などに重点を置くに至った段階で、女性学が登場する。女性学は、心理学、社会学、文学、哲学、史学などの人文・社会科学系の学問が、男性の視角で構築された学問=男性学であったという視点にたって、これらの学問領域を女性の視角から再構築することを志向する。それは、同時に、旧来のアカデミズムの殻を破り、かつ学際的な性格をもつ学問の構築という点でも特徴をもつ。同じく、70年代後半、欧米のマルクス主義研究者を中心に、マルクス主義とフェミニズムの関係の追究、統一の試みに向けての動きが活発化し、家事労働の経済学的な位置づけや、資本主義社会における家族と個人の問題などについての研究が展開された。さらに、女性学研究発展のプロセスにおいて、ジェンダー論gender theoryが登場する。生物学的・解剖学的性差を意味するセックスと、社会的・文化的に形成された性差を意味するジェンダーを峻別(しゅんべつ)し、男女両性の関係性を追究するジェンダー論の展開は、女性解放運動の理論的背景をより豊かにするとともに、両性の人間的解放という目的に向けて従来の女性(婦人)解放運動との合流を進める契機ともなった。また、男女差別を前提にする社会通念を弾劾するとともに、男女両性の意識改革を迫り、性差別意識を拡大再生産するマス・メディアや教育の変革を目ざす女性解放運動は、第三世界の人々をも巻き込み、グローバルな規模で展開されつつある。
[布施晶子]
『ベティ・フリーダン著、三浦富美子訳『新しい女性の創造』(1970・大和書房)』▽『一番ケ瀬康子編『入門女性解放論』(1975・亜紀書房)』▽『田中寿美子編『女性解放の思想と行動』戦前編・戦後編(1975・時事通信社)』▽『ジョー・フリーマン著、奥田暁子・鈴木みどり訳『女性解放の政治学』(1978・未来社)』▽『水田珠枝著『女性解放思想史』(1979・筑摩書房)』▽『目黒依子著『女役割――性支配の分析』(1980・垣内出版)』▽『ロバート・W・コンネル著、森重雄・菊地栄治・加藤隆雄・越智康詞訳『ジェンダーと権力――セクシュアリティの社会学』(1993・三交社)』▽『大沢真理著『企業中心社会を超えて――現代日本を「ジェンダー」で読む』(1993・時事通信社)』▽『関啓子・木本喜美子編『ジェンダーから世界を読む』(1996・明石書店)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…近代になって医学が急速に発達し,生殖のメカニズムがある程度明らかになってきた段階でも,女性は結婚して家庭に入り,子を産み育てるのが使命だとする通念は依然として強かった。また避妊の普及運動が,危険な妊娠と出産からの解放という点から女性解放運動と結びつき,労働運動など社会運動とともに進められたことから,多くの国々で禁圧された。一方,前述のように先進諸国では帝国主義の段階にあって富国強兵策をとり,人口増加による国力の充実を図ったため,避妊はこれに反するものとして禁止された。…
※「女性解放運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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