もっとも普遍的には、特定の経済的、政治的、社会的、文化的な要求や目標を達成するために、一定期間持続的あるいは一時的に展開される人々の集合行動のことをいう。しかし実際には、以下のような四つの限定を付されて使われることが多い。第一に、階級的利害に基づく集合行動すなわち狭義の意味での社会運動と同義なものとして大衆運動を考える場合がある。第二に、階級的利害に基づく集合行動を除いたその他の集合行動を意味することがある。第三に、社会主義運動の文脈において政党と大衆組織の区別と関連が問題とされる場合のように、政党から区別された大衆組織の運動を大衆運動とよぶことがある。そして第四に、大衆社会成立以降の、直接階級的利害を反映した運動だけではなく、それをも含んだ人々の広範な集合行動を大衆運動とよぶことが考えられる。どの考え方もそれなりの根拠をもつが、現在では第四の定義がもっとも一般的であろう。
[矢澤修次郎]
大衆運動が派生し重要な意味をもつようになるためには、次のような社会・政治構造上の変化が不可欠である。なによりもまず、人々を狭い血縁、地縁、個別的人間関係に縛り付けている共同体が崩壊し、都市社会が形成されて、人々がマス(大衆、量)としてその社会を機能的に構成するようにならなければならない。次に、その都市社会、大衆社会において、有効な統治のためにも、よりよい生活の実現のためにも、日常生活の隅々に至るまであらゆるものが政治化し、経済はいうまでもなく、社会福祉、社会環境、教育、文化に至るまでいっさいのものが政治争点化することが可能でなければならない。したがってまた、人々が階層、職業、性、世代などの属性に従ってその争点に向かって大きく結合していくことを可能にするような、交通・コミュニケーション手段、公共圏の拡大などの条件が整っている必要がある。そして最後に、これまでの近代市民社会の政治的枠組みが根本的に修正を迫られた政治構造上の変化を指摘しておかなければならない。近代市民社会の政治は、「教養と財産」をもった市民が、政党を媒介しながら議会で理性的な討論を闘わせる形で行われた。しかし、圧倒的な大衆が政治に登場するようになると、もはや従来の議会政治は機能不全に陥り、政党と議会は根底的な転換を迫られ、実際それらには多くの改良が施されたが、それでもなお充足のための回路を欠いた大衆の要求を実現せんとして大衆運動が登場し、政治の世界を著しく拡大したのである。
[矢澤修次郎]
大衆運動の構造上の特質については、以下の4点のみを指摘するにとどめたい。第一は、大衆運動を終始一貫して担い、それによって生活をたてている専従者と、大多数の大衆の間には構造的な断絶が生じやすく、前者の後者に対する支配が発生しやすいということである。第二は、運動において大衆を結集せしめる核はイデオロギーにほかならないが、その当のイデオロギーは、ややもすると大衆をそのカプセルの中に閉じ込めて、動的に展開する現実についていけなくしてしまい、結果としてその運動にブレーキをかける可能性をもっているということである。第三は、大衆運動は政党運動ときわめて微妙な関係にたたざるをえないということである。というのは、政党はつねに大衆運動を自らの支配下に置こうとし、運動がそれを嫌って政党とまったく断絶してしまうと、今度は、運動の凝集性、有効性が損なわれる可能性が待ち受けているからである。そして第四は、大衆運動が、大衆の日常的要求を充足するという積極的な面と、大衆の非日常的な情念、情動を解放するという非日常的な面の二側面をもっているということである。これら四つの問題点をうまく解決したとき、大衆運動はその力をもっともよく発揮するであろう。
[矢澤修次郎]
歴史的にみた場合、ブルジョア市民社会の解体以降最初に現れた主要な大衆運動は労働運動であった。労働運動は、産業社会の展開とともに広がりをみせ、かつまた社会主義の形成においても重要な役割を果たした。続いて両大戦間期には、いくつかの国々においてファシズム下の大衆運動が成立した。それは、急激な社会変動のなかで生活基盤を失った中産階級などをおもな担い手としたものであり、大衆の非合理的情動をうまく組織化したところに特徴があろう。第二次世界大戦後は、ふたたび労働運動が大衆運動の中軸を形成したが、資本主義の高度化、「豊かな社会」の出現のなかで、運動の課題(人権、福祉、公害、環境、エコロジー、文化など)、運動の主体(若者、女性、ホワイトカラー、プロフェッショナル、老人など)の両面で新しい変化がおこり、新しい社会運動とよばれるものが出現した。また20世紀末以降は、人類の直面する重要問題はすべて地球社会のレベルでしか解決できないという事態を踏まえて、グローバル社会運動が台頭してきている。これらの運動は、政治・経済的運動というよりもむしろ価値の変革運動、社会運営のコードの変革運動の様相を呈している。この点で住民運動、市民運動の重要性が増大している。もちろん政治的には、政治運動、労働運動とそれらの運動との連関が今日的課題として重要であろう。
[矢澤修次郎]
『W・コーンハウザー著、辻村明訳『大衆社会の政治』(1961・東京創元社)』▽『K・マンハイム著、福武直訳『変革期における人間と社会』(1962・みすず書房)』▽『E・ホッファー著、高根正昭訳『大衆運動』(1969・紀伊國屋書店)』▽『A・メルッチ著、山之内靖・貴堂嘉之・宮崎かすみ訳『現在に生きる遊牧民(ノマド)――新しい公共空間の創出に向けて』(1997・岩波書店)』
不特定多数の人びとが共通の目的を達成するために,一体となって行う活動の総称。大衆運動は,大衆が政治過程においてもつ比重が増大するにともなって現れた運動形態で,19世紀後半以後に出現したものである。産業革命の進行と政治参加の拡大は,一方では議会政治の機能を複雑なものにし,他方では議会という場以外での政治的存在を認めてきた。すなわち,社会的政治的変化は,閉鎖的社会から個人を解放する一方で,個人の自由な集団組織を生みだし,政党を中心として機能を果たしていた議会政治を変化させ,国民を統合するためには議会外での活動をも重視せざるを得なくしたのである。
大衆運動には二つの側面がある。第1に,その非合理的側面が強調されて,市民政治に対するマイナスのものとして説かれた。G.ル・ボン,オルテガ・イ・ガセット,C.G.ユングらの批判的学説がそれである。ナチズムは象徴やイデオロギーを効果的に大衆に訴えて,大衆運動の非合理性を利用した例である。第2は,人びとが集合行動によってみずからの意思を表現するものであることを積極的に評価するものである。大衆運動は社会の分化によってさまざまな状況におかれた人びとが,その共通の利害・関心のもとに自発的に集合し活動する,ゆるい連帯感に結ばれた継続的運動でもある。したがって,個々人の利害・関心のあり方は決して生活のすべてではないので,個人生活の全体を拘束することはできないが,逆に,ある点での共通性を見いだすことができれば,階層・階級をこえて多くの人びとを吸収することができる。このため,大衆運動における指導者(リーダー)のもつ役割は大きい。指導者は強い結束力のもとに中核組織を築き,社会状況を的確にとらえながら,運動体の結束状況を踏まえ,共通の利害・関心を総括した形での目標を提示していかなければならない。そして,その目標は広い支持を得なければならないことから,ある程度の抽象化を免れえない性格をもつ。この意味で,大衆運動は〈市民運動〉と大きく重なっている。
→市民運動
執筆者:今 防人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…斜面を構成している岩石,岩屑,土砂などが,流水や氷河,風,波などの働きによらず,もっぱら重力に引きずられて斜面下方に移動する現象の総称。地表や地表付近では,風化作用によって岩石がもとの塊から分離し細片化して動きやすくなっている。とくに岩屑や土砂の間隙や岩石の割れ目が水や氷に満たされると,内部摩擦が減少して緩斜面でも斜面物質の移動が起こる。この場合の水や氷は潤滑材の作用をしているだけで,それが流動して物質を運搬しているのではない。…
…
[現代社会の政治運動]
現代社会の政治の大衆化は,新しい型の政治運動をつくりだした。その第1は,大衆運動である。大衆的参政権の実現は,労働者や青年を中心とする大衆の量的な運動の力によって,政党運動を補うという形態を編み出した。…
※「大衆運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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