日本大百科全書(ニッポニカ) 「妻方居住婚」の意味・わかりやすい解説
妻方居住婚
つまかたきょじゅうこん
夫婦が婚姻後、夫が妻の側の居住地に移り住む居住形態。かつては妻の母との同居を指標とする「母方居住」matrilocal residenceの名称も用いられたが、のちに夫婦間の移動方向を指標とするほうがより適切との説が支持され、「夫方居住(おっとかたきょじゅう)」virilocal residenceと対(つい)をなす「妻方居住」uxorilocal residenceが学術用語として広く用いられている。母権制と母系制が混同されていた時期には、結婚後に男が妻方へ移り、妻およびその女性親族の経済的・政治的優位の下で生活するという社会のイメージが描かれていた。そこでは母方居住は、母系制と結び付けられてとらえられていた。母系制研究が進むにつれ、母系制がかならずしも母方居住と結び付くわけではないことが明らかになり、居住規制は社会構造上重要な意味を有する独立した分析概念として、その位置づけが明確化した。妻方居住においては父系ラインによる集団成員権や財産権の継承はむずかしく、父系制社会においての妻方居住は、例外的な招婿婚(しょうせいこん)の場合や、結婚後、永久的な夫方居住に移行する前の一時的状態として、あるいは定期的に夫方居住と交互に行われる特殊な居住規制においてみられる。招婿婚以外の後二者の場合、妻方居住は、いずれも夫と妻のそれぞれの生得的家族間の経済的利害関係あるいは感情関係の調整として機能している。一方、母系制社会の婚姻後の居住形態も多様であり、そこにおいても財産の管理運営権は男性が掌握するのが常であるため、永久的な妻方居住はけっして多くない。
[横山廣子]