嫐打物(読み)うわなりうちもの

改訂新版 世界大百科事典 「嫐打物」の意味・わかりやすい解説

嫐打物 (うわなりうちもの)

歌舞伎人形浄瑠璃の演出の一系統。〈うわなり〉とは後妻,次妻の意,転じて嫉妬の意味に用いられた。離別された先妻が親類知人の女性を集めて後妻(うわなり)のところに乱入するという後妻打ち江戸初期まで行われた。名称は同じだが,歌舞伎,人形浄瑠璃の〈嫐打物〉はこれを直接脚色したものではなく,主として怨霊による嫉妬の演出の系統をさす。歌舞伎では,江戸で1699年(元禄12)3月江戸中村座の《一心五界玉》に演ぜられたものが最初とされ,歌舞伎十八番の《嫐》の初演とされているが,これは市川団十郎家でこの系統の役を演じた最古の記録というにすぎない。怨霊による嫉妬の演出は江戸でもその前年3月同座の《関東小禄》にも仕組まれている。京坂では1677年(延宝5)京の都万太夫座の近松門左衛門作《藤壺の怨霊》が古い作とされるが確実でない。歌舞伎での〈うわなり〉〈うわなり打ち〉の用語は1688年(元禄1)刊《野郎役者風流鏡》今村久右衛門の条〈うはなりのめいじん〉,93年刊《古今四場居色競百人一首》玉川千之丞の条〈うはなりのかいさん〉,1702年江戸山村座の《鬼城女山入(おにがじようおんなやまいり)》に〈うはなりうち〉その他が見え,怨霊・嫉妬の演技・演出と同意に用いられている。おもに元禄期を中心に女方により展開,大成されたものであり,実体は所作事風でケレンの要素も強かったようである。以後,08年(宝永5)江戸市村座の《浮鵺頼政(うわなりぬえよりまさ)》等,大名題(おおなだい)や劇中舞踊の外題(げだい)に〈うわなり〉の語を用いた作品も少なくない。浄瑠璃では1673年(延宝1)の井上播磨掾《花山院后諍(かざんのいんきさきあらそい)》,その改作77年の宇治嘉太夫《殿上のうはなり討》,近松門左衛門作で竹本筑後掾《弘徽殿鵜羽産家(こきでんうのはのうぶや)》等が知られている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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