歌舞伎十八番(読み)カブキジュウハチバン

デジタル大辞泉 「歌舞伎十八番」の意味・読み・例文・類語

かぶき‐じゅうはちばん〔‐ジフハチバン〕【歌舞伎十八番】

歌舞伎18種のこと。普通は江戸歌舞伎の市川家の当たり狂言をさす。7世市川団十郎が天保初年ごろ選定荒事あらごと芸に特色をもつ。不破ふわ鳴神なるかみしばらく不動うわなり象引ぞうひき勧進帳助六押戻おしもどし外郎売ういろううり矢の根関羽景清かげきよ七つめん毛抜解脱げだつ蛇柳じゃやなぎ鎌髭かまひげの18種。

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精選版 日本国語大辞典 「歌舞伎十八番」の意味・読み・例文・類語

かぶき‐じゅうはちばん‥ジフハチバン【歌舞伎十八番】

  1. 〘 名詞 〙 歌舞伎劇十八種に与えられた称呼。ふつうは、江戸歌舞伎の市川家の当たり狂言、すなわち、七世団十郎が天保初年ごろに選定した不破鳴神、暫、不動、嫐(うわなり)象引、勧進帳、助六、押戻、外郎(ういろう)売、矢の根、関羽、景清、七つ面、毛抜、解脱蛇柳(じゃやなぎ)鎌髭(かまひげ)の十八種をさすが、古くから歌舞伎の十八番という言い方はあった。また、九世団十郎が選定した新歌舞伎十八番もある。
    1. [初出の実例]「俳優七世の孫市川三升〈略〉摺ものをものして呈配す。これを閲するに、歌舞妓十八番の家の芸てふ古き狂言を記せり」(出典:随筆・寿十八番歌舞妓狂言考(1848)序)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歌舞伎十八番」の意味・わかりやすい解説

歌舞伎十八番
かぶきじゅうはちばん

歌舞伎劇のうち、市川団十郎の「家の芸」18種。天保(てんぽう)年間(1830~44)、7世団十郎が初世以来家に伝わってきた当り狂言(または当り芸)を制定したもので、『不破(ふわ)』『鳴神(なるかみ)』『暫(しばらく)』『不動(ふどう)』『嫐(うわなり)』『象引(ぞうひき)』『勧進帳(かんじんちょう)』『助六(すけろく)』『押戻(おしもどし)』『外郎売(ういろううり)』『矢の根』『関羽(かんう)』『景清(かげきよ)』『七つ面』『毛抜(けぬき)』『解脱(げだつ)』『蛇柳(じゃやなぎ)』『鎌髭(かまひげ)』がその内容。いずれも家の芸である荒事(あらごと)を基本にしているのが特色である。これらのうち、『勧進帳』は初世が演じた題材をもとに、7世が再創造したもの。また、『暫』『矢の根』『助六』『鳴神』『毛抜』のほかは、『外郎売』や『押戻』のように他の作品の一部として伝わったものや、名ばかりで何も残っていなかったものが多かったが、明治以降、2世市川左団次や市川三升(さんしょう)(10世団十郎)によって復活されている。

 なお、三升屋二三治(みますやにそうじ)の『戯場書留(ぎじょうかきとめ)』によれば、7世団十郎の制定した以前に「歌舞伎狂言十八番」ということばがあったが、これは市川家に限らず江戸歌舞伎の当り狂言を選んだものである。一般に得意芸のことを「十八番」というのは、「歌舞伎十八番」を家の芸、転じて当り狂言と解したことから生まれたといってよい。

[松井俊諭]

『郡司正勝他編著『図説日本の古典20 歌舞伎十八番』(1979・集英社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「歌舞伎十八番」の意味・わかりやすい解説

歌舞伎十八番 (かぶきじゅうはちばん)

7世市川団十郎が制定した18の演目をいう。7世団十郎は,1832年(天保3)3月に長男の海老蔵に8世団十郎を襲名させ,自身は海老蔵を名のると発表したときに配った刷り物に,初めて〈歌舞妓狂言組十八番〉と題して18種の名目を掲げた。その後,40年の《勧進帳》初演に際し〈歌舞伎十八番の内〉と口上看板に明記した〈十八番〉を〈おはこ〉と呼び,得意芸の意にもつかわれるようになったが,なぜ18の数に決めたかは明らかでない。団十郎の制定以前に,歌舞伎界では特別の演目を〈十八番〉と呼んでいたという説,また〈十八界〉〈十八般〉のごとき総称・代表の意によるものとの説,荒事の主人公の年齢との関係などと,まだ解釈は定まらない。ともあれ7世団十郎は《勧進帳》のほかに《不破》《鳴神》《暫》《不動》《嫐》(うわなり)》《象引》《助六》《押戻》《外郎売(ういろううり)》《矢の根》《関羽》《景清》《七つ面》《毛抜》《解脱》《蛇柳(じややなぎ)》《鎌髭》を〈歌舞伎十八番〉と定めた。これらの作はすべて荒事芸をよくした市川家の初世,2世および4世によって初演された作品から選ばれている。7世が〈歌舞伎十八番〉と明記して上演したものは多くないが,その子9世団十郎をはじめ2世市川左団次,10世団十郎(三升),前進座などによって復活上演という形で多くの作品が舞台にかけられて今日に至っている。7世団十郎による制定の意図は,自分自身の権威づけ,尚古癖による復古運動,能摂取による典雅化などを図ったものとみられる。意図のすべてがかなえられたとはいえないが,古風な様式伝承に役立ったことは認められる。この制定がきっかけとなり,その他の〈家の芸〉の選定を促したことは,歌舞伎の当代性を考える上でも意義は大きい。
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百科事典マイペディア 「歌舞伎十八番」の意味・わかりやすい解説

歌舞伎十八番【かぶきじゅうはちばん】

歌舞伎劇のうち市川團十郎家の当り芸18種の総称で7世団十郎が制定。《不破(ふわ)》《鳴神(なるかみ)》《毛抜》《(しばらく)》《不動》《うわなり》《象引(ぞうびき)》《助六》《外郎売(ういろううり)》《矢の根》《押戻し》《景清》《関羽(かんう)》《七つ面》《解脱(げだつ)》《蛇柳(じゃやなぎ)》《鎌髭(かまひげ)》《勧進帳》。俳優の得意を十八番(おはこ)というのは,これから出た。
→関連項目新歌舞伎十八番新古演劇十種前進座

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歌舞伎十八番」の意味・わかりやすい解説

歌舞伎十八番
かぶきじゅうはちばん

本来十八番は数よりも「おはこ」(お得意のもの)の意であるが,「歌舞伎十八番」の語は,7世市川団十郎が,天保11(1840)年に『勧進帳』初演の際,その口上看板に表記したのに始まる。その後十八番の数にひかれて,市川家代々のあたり狂言 18種目を 7世が選定した。この狂言 18種目『関羽(かんう)』『押戻(おしもどし)』『』『七つ面』『象引』『蛇柳(じゃやなぎ)』『鳴神』『矢の根』『助六』『嫐(うわなり)』『鎌髭』『外郎売(ういろううり)』『不動』『毛抜』『不破』『解脱』『勧進帳』『景清』のなかには,すでに 5世の頃より絶えていたものも多く含まれていたが,7世,8世,9世,10世の団十郎らによって復活上演された。すべて市川家専有の荒事を中心とした代表的な作品の総括で,他家でこれを演じる場合は,市川家に断わるのが慣例となっている。また,9世市川団十郎による新歌舞伎十八番もある。

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知恵蔵 「歌舞伎十八番」の解説

歌舞伎十八番

7代目市川團十郎が制定した市川家の歌舞伎十八番物を指すが、それ以前から歌舞伎全体の中の人気演目を指す言葉としてあった。7代目市川團十郎は天保年間に「江戸市川流・歌舞伎狂言組十八番」として制定。「不破、鳴神(なるかみ)、暫(しばらく)、不動、嫐(うわなり)、象引、勧進帳、助六、外郎売(ういろううり)、押戻、矢の根、関羽、景清、七つ面、毛抜、解脱、蛇柳、鎌髭」の十八番。市川團十郎家の芸である荒事(あらごと)の十八番は、多くの人に親しまれた。中でもスーパーマンのような力を示した「暫」は荒事芸の代表作。荒事は、稚気満々で演ずべしとされる。9代目團十郎の薫陶を受けた6代目菊五郎は荒事について教わった言葉として「子供の心持になってし、それで始終丸く見える様に心がけて、見得(みえ)やただ立っている時でも必ず全身に力を込めて両足の親指を上げているのだ」と伝えている。

(山本健一 演劇評論家 / 2007年)

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旺文社日本史事典 三訂版 「歌舞伎十八番」の解説

歌舞伎十八番
かぶきじゅうはちばん

歌舞伎の当たり狂言十八種
1840年,7世市川団十郎が市川家の当たり狂言を18種選定したことに始まる。不破 (ふわ) ・鳴神 (なるかみ) ・暫 (しばらく) ・不動・嫐 (うわなり) ・象引・勧進帳・助六・押戻・外郎売 (ういろううり) ・矢の根・関羽 (かんう) ・景清 (かげきよ) ・七つ面・毛抜・解脱 (げだつ) ・蛇柳 (じややなぎ) ・鎌髭 (かまひげ) の18種をいう。

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とっさの日本語便利帳 「歌舞伎十八番」の解説

歌舞伎十八番

市川団十郎が代々得意とし、家の芸とした荒事一八種。七代目が選定。「不破」「鳴神(なるかみ)」「暫」「不動」「嫐(うわなり)」「象引」「勧進帳」「助六」「押戻」「外郎売(ういろううり)」「矢の根」「関羽」「景清」「七つ面」「毛抜」「解脱」「蛇柳」「鎌髭」。

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