歌舞伎劇のうち、市川団十郎の「家の芸」18種。天保(てんぽう)年間(1830~44)、7世団十郎が初世以来家に伝わってきた当り狂言(または当り芸)を制定したもので、『不破(ふわ)』『鳴神(なるかみ)』『暫(しばらく)』『不動(ふどう)』『嫐(うわなり)』『象引(ぞうひき)』『勧進帳(かんじんちょう)』『助六(すけろく)』『押戻(おしもどし)』『外郎売(ういろううり)』『矢の根』『関羽(かんう)』『景清(かげきよ)』『七つ面』『毛抜(けぬき)』『解脱(げだつ)』『蛇柳(じゃやなぎ)』『鎌髭(かまひげ)』がその内容。いずれも家の芸である荒事(あらごと)を基本にしているのが特色である。これらのうち、『勧進帳』は初世が演じた題材をもとに、7世が再創造したもの。また、『暫』『矢の根』『助六』『鳴神』『毛抜』のほかは、『外郎売』や『押戻』のように他の作品の一部として伝わったものや、名ばかりで何も残っていなかったものが多かったが、明治以降、2世市川左団次や市川三升(さんしょう)(10世団十郎)によって復活されている。
なお、三升屋二三治(みますやにそうじ)の『戯場書留(ぎじょうかきとめ)』によれば、7世団十郎の制定した以前に「歌舞伎狂言十八番」ということばがあったが、これは市川家に限らず江戸歌舞伎の当り狂言を選んだものである。一般に得意芸のことを「十八番」というのは、「歌舞伎十八番」を家の芸、転じて当り狂言と解したことから生まれたといってよい。
[松井俊諭]
『郡司正勝他編著『図説日本の古典20 歌舞伎十八番』(1979・集英社)』
7世市川団十郎が制定した18の演目をいう。7世団十郎は,1832年(天保3)3月に長男の海老蔵に8世団十郎を襲名させ,自身は海老蔵を名のると発表したときに配った刷り物に,初めて〈歌舞妓狂言組十八番〉と題して18種の名目を掲げた。その後,40年の《勧進帳》初演に際し〈歌舞伎十八番の内〉と口上看板に明記した〈十八番〉を〈おはこ〉と呼び,得意芸の意にもつかわれるようになったが,なぜ18の数に決めたかは明らかでない。団十郎の制定以前に,歌舞伎界では特別の演目を〈十八番〉と呼んでいたという説,また〈十八界〉〈十八般〉のごとき総称・代表の意によるものとの説,荒事の主人公の年齢との関係などと,まだ解釈は定まらない。ともあれ7世団十郎は《勧進帳》のほかに《不破》《鳴神》《暫》《不動》《嫐》(うわなり)》《象引》《助六》《押戻》《外郎売(ういろううり)》《矢の根》《関羽》《景清》《七つ面》《毛抜》《解脱》《蛇柳(じややなぎ)》《鎌髭》を〈歌舞伎十八番〉と定めた。これらの作はすべて荒事芸をよくした市川家の初世,2世および4世によって初演された作品から選ばれている。7世が〈歌舞伎十八番〉と明記して上演したものは多くないが,その子9世団十郎をはじめ2世市川左団次,10世団十郎(三升),前進座などによって復活上演という形で多くの作品が舞台にかけられて今日に至っている。7世団十郎による制定の意図は,自分自身の権威づけ,尚古癖による復古運動,能摂取による典雅化などを図ったものとみられる。意図のすべてがかなえられたとはいえないが,古風な様式の伝承に役立ったことは認められる。この制定がきっかけとなり,その他の〈家の芸〉の選定を促したことは,歌舞伎の当代性を考える上でも意義は大きい。
執筆者:鳥越 文蔵
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(山本健一 演劇評論家 / 2007年)
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