定格をはずれ,見た目本位の奇抜さをねらった演技や演出をいう。そうした芝居を〈ケレン物〉,演じる役者を〈ケレン師〉といい,邪道と考えられて非難された時期もあったが,芝居の流れの必然から行われる場合には,歌舞伎の演出の一特色ともなっている。初期の若衆歌舞伎時代に見世物芸との提携がなされて以来,元禄歌舞伎をはじめ,いつの時代にも写生的な演技の一方に,この種の演技・演出が行われてきた。《東海道四谷怪談》における〈仏壇返し〉〈提灯抜け〉〈戸板返し〉,《義経千本桜》河連法眼館の場の〈階段の打返し〉〈高欄渡り〉〈欄間抜け〉などといった演出は,幽霊や狐の演技として効果をあげている。とくに大道具に見世物的な仕掛物を見せる意図が強く,それに役者の演技としての〈綱渡り〉や〈宙乗り〉などが加わってケレン芝居が生まれる。衣装の〈ぶっ返り〉や〈引抜き〉,鬘(かつら)の〈がったり〉などという仕掛けもその演出の一端をになう。歌舞伎にとっては〈見せる〉という,大切な要素を受け持つものである。
→早替り
執筆者:織田 紘二
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歌舞伎(かぶき)演出用語。一般に観客の意表をつくことを目的とし、スピードとスリルを重んじる演技、演出をいう。俳優が文楽(ぶんらく)の人形を模して動く「人形振り」、短時間のうちに多くの役を替わってみせる「早替り」、舞台で本物の水を使う「本水(ほんみず)」などや、「宙乗り」をはじめ軽業(かるわざ)的な演技と大道具の手のこんだ仕掛け物を使う演出がこれにあたる。江戸末期、太平に飽いて刺激を求める観客の嗜好(しこう)に応じて発達した。本来は義太夫節(ぎだゆうぶし)の用語で、たとえば竹本座系の太夫が豊竹座(とよたけざ)系の流儀で語るというように、他流の節で語るのを「外連(けれん)」とよんだのが最初である。したがって、正統でない芸という意味があり、いくらか軽侮の意をこめて使われてきたが、反面、歌舞伎は本質的にそういう要素を含んだ演劇であるという見方もあって、近年3世市川猿之助はとくにこれを強調し、「けれん」とよばれる演出を多く用いて注目されている。
[松井俊諭]
(山本健一 演劇評論家 / 2007年)
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…(5)組立て 中子を主型に取り付け,上型と下型とを重ね合わせる工程。複雑な鋳物になると,何種類もの中子を使い,それを組み合わせて鋳型を作製するため,中子と中子の間,中子と主型の間で肉厚を確保しなければならないところには,〈けれん〉と呼ばれる型持ちが用いられる。(6)鋳込金属の溶解 よい溶湯にすることは鋳物製造の第一条件である。…
…著名な怪談物には《東海道四谷怪談》,《彩入御伽艸(いろえいりおとぎぞうし)》(小幡小平次),《実成金菊月(みのりよしこがねのきくづき)》(皿屋敷),《東山桜荘子(ひがしやまさくらそうし)》(佐倉宗吾)などがある。怪談物の眼目の一つにはケレン(トリック)の演出があり,観客の意表をつく仕掛物や早替りの技術が発達した。また夏狂言との関連で本水(ほんみず)や宙乗りもしばしば用いられる。…
※「ケレン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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