日本映画。1947年(昭和22)松竹作品。吉村公三郎(よしむらこうざぶろう)監督。新藤兼人(しんどうかねと)の脚本は吉村とは初顔合わせだが、チェーホフの『桜の園』を下敷きに、近代劇的構成で巧みにまとめあげた。戦後の占領軍政策の下、没落して行く名門華族の姿を描く。安城家の当主、忠彦(滝沢修)は、ついに屋敷を手放すことにする。長男正彦(森雅之)、長女昭子(逢初夢子(あいぞめゆめこ)、1915― )、末娘の敦子(原節子)とともに、安城家最後の舞踏会が開かれ、そこでさまざまな人物が軋轢(あつれき)と葛藤を演じる。閉塞(へいそく)的な屋敷内に蠢(うごめ)く思惑を秘めた複数の人物を、前景から後景へと縦の構図に収め、会話劇で緊張を持続する。ピアノを弾く正彦のニヒルな偽悪性と敦子のけなげな真率さが、忠彦をいっそう苦悩させる。肖像画を見上げる忠彦が拳銃自殺しようとするのを敦子が猛然と走って忠彦に飛びつき、拳銃は床を滑走する。この瞬間の敦子=原節子の敏捷(びんしょう)さのなかに、没落してゆく華族の崩壊と再生を託しているかのようである。キネマ旬報ベスト・テン第1位。
[坂尻昌平]