定常過程(読み)ていじょうかてい(英語表記)stationary stochastic process

改訂新版 世界大百科事典 「定常過程」の意味・わかりやすい解説

定常過程 (ていじょうかてい)
stationary stochastic process

時間の進むにつれて変化していく偶然現象を記述する確率過程の中で,その同時分布が時間のずれに対して不変なものを定常過程という。その例としてよく知られているものに太陽の黒点総量がある。t年における総量をXt)とする。これに対し,独立で同じ分布をもつ確率変数の列{Yt)}を用いて,方程式Xt)-kXt-1)+Xt-2)=Yt)(|k|<2)を得る試みがあったが,このように定差をとって独立な列になおす方法は定常過程の研究の一手法となった。そのように表される定常過程は自己回帰過程と呼ばれる。もし{Xt)}が自己回帰過程なら{Yt)}を用いた移動平均表現,が得られる。一般の定常過程は,任意の有限個の時点t1t2,……,tnに対し(Xt1),Xt2),……,Xtn))の分布と時間をhだけずらしたときの(Xt1h),Xt2h),……,Xtnh))の分布とが同じであるような{Xt)}である。そのとき,平均値EXt))は一定mをとり,共分散E{(Xth)-m)(Xt)-m)}はhのみの関数γ(h)となる。後者は,

       (dFは[-π,π]上の測度) 

スペクトル分解される。dFスペクトル測度という。dF(λ)=f(λ)dλとかけて,ならXt)は移動平均表現をもち,現時点までの観測値の線形関数を用いて未来の値をよりよく推定する線形予報の問題は容易に解決される。Xt)の平均値が一定で,共分散が時間の差のみの関数であることを条件とする弱定常過程があるが,線形予報の問題は定常過程とまったく同様に扱われる。またtを連続変数にしたときの定常過程に対しても,議論は並行的に進められる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「定常過程」の意味・わかりやすい解説

定常過程
ていじょうかてい

時間の経過に伴って変動するが、定常状態にあるような偶然現象のモデルである。数学的にいえば確率過程の一種であって、「定常」には強い意味と弱い意味の二通りある。確率過程{Xt}において、任意のt1、t2、……、tn、sに対してn次元確率変数(,,……,)の確率分布がn次元確率変数
 (,,……,)
の確率分布と一致する場合に、{Xt}を強定常過程という。一方、確率変数Xtの平均値E(Xt)がtに無関係であり、任意のu、vに対してE(Xu+t・Xv+t)もtに無関係である場合に、確率過程{Xt}を弱定常過程という。{Xt}が強定常過程でE()が有限であれば、{Xt}は弱定常過程である。弱定常過程においては共分散関数
 ρ(t)=E((Xs-m)(Xs+t-m)),m=E(Xt)
が重要な役割を演ずる。

古屋 茂]

『河田龍夫著『定常確率過程』(『共立講座 現代の数学32』1985・共立出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「定常過程」の意味・わかりやすい解説

定常過程
ていじょうかてい

時系列」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の定常過程の言及

【確率過程】より

…時刻0からtまでの間に起きるある種の交通事故の件数をXt(ω)とするとき,{Xt(ω)}がポアソン過程とみなされる場合がある。 確率過程のうち,ガウス過程,定常過程,加法過程,マルコフ過程,拡散過程,マルチンゲールなどはもっともよく研究されている。
[ガウス過程]
 {Xt(ω)}を確率過程とする。…

※「定常過程」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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