彼様（読み）あのさん

精選版 日本国語大辞典

あの‐さん【彼様】

1. 〘 代名詞詞 〙 ( 「あのさま（彼様）」の変化した語 )
2. ① ＝あのさま（彼様）
   1. [初出の実例]「あのさんに腹切らせ、恩を受た四郎二郎、いづくの浦で聞付てもよもや生きてはゐられまい」(出典：浄瑠璃・傾城反魂香（1708頃）中)
3. ② 対称。近世、主として遊里で用いられた。
   1. [初出の実例]「あのさんがた、二階へ御上りなされませ」(出典：洒落本・恵世物語（1782）そのあと)

か‐の‐さま【彼様】

1. 〘 代名詞詞 〙 ( 「さま」は接尾語 )
2. ① 他称。他者に対してかるい敬意をもっていう語（遠称）。あのおかた。例のおかた。
   1. [初出の実例]「頼ふだる人は、いつもかのさまへ行くおりは、酒をくれらるるが」(出典：狂言記・抜殻（1660）)
3. ② 他称。親しみの気持をもって愛人をいう語。
   1. [初出の実例]「取りや違へてよの人にやるな、花のかの様の手に渡せ」(出典：歌謡・業平躍歌（1681か）一五)

あの‐さま【彼様】

1. 〘 代名詞詞 〙 ( 「さま」は接尾語 ) 近世語。他称。話し手、聞き手両者から離れた人を指し示す（遠称）。主として遊女が客をさしていった。
   1. [初出の実例]「『是々(これこれ)そちが深い馴染(なじみ)の客といふはどれぢゃ』『あの様(サマ)でござんす』」(出典：歌舞伎・景政雷問答（1700）三)

あれ‐さま【彼様】

1. 〘 代名詞詞 〙 ( 「われさま」の変化した語 ) 近世語。対称。対等程度の人に対して用いられた庶民階級の語。ありさま。われさま。
   1. [初出の実例]「渡辺の武つな、さかたの公平殿とは、あれさまにて候ぞ」(出典：浄瑠璃・公平化生論（1664）四)

あの‐よう‥ヤウ【彼様】

1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙 あのとおり。ああいう。
   1. [初出の実例]「世上にはぢひな人が御ざる。あのやうな人があればこそ、〈略〉行脚のものがたびがなれ」(出典：虎明本狂言・薩摩守（室町末‐近世初）)

あれ‐よう‥ヤウ【彼様】

1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙 物事の内容や状態があそこに示されたようであるさま。あのよう。
   1. [初出の実例]「あれやうなる者は、〈略〉強暴の者を得るぢゃぞ」(出典：土井本周易抄（1477）六)

出典　精選版 日本国語大辞典