改訂新版 世界大百科事典 「恒星内部構造論」の意味・わかりやすい解説
恒星内部構造論 (こうせいないぶこうぞうろん)
theory of stellar structure
theory of internal constitution of the stars
恒星の内部深くでは,物質がどのような温度や密度の状態にあり,そこでどのような反応が起こっており,その結果として,恒星はどのような性質を示すかを明らかにしようとする理論。恒星の内部構造を初めて定量的に取り扱ったのは,レーンH.LaneやエムデンR.Emdenで,19世紀の終りから20世紀初頭のことであった。彼らは恒星の内部における温度や圧力の分布を計算し,恒星が自分自身の重みにもかかわらず,つぶれてしまわないほどの高温,高圧になっていることを示した。その後1920年ころになって,A.S.エディントンは,恒星の内部における熱エネルギーの流れを論じ,恒星の光度(明るさ)を説明し,26年有名な《恒星内部構造論》を出版した。しかし星の光のエネルギー源は何であるかがわかったのは,30年代に入って原子核の物理が一応明らかになってからである。すなわち,38-39年になって,ベーテH.A.BetheやワイツゼッカーC.F.von Weizsäckerは,主系列星という大多数の星(太陽もその一つ)の内部にある1000万Kという高温の下では,水素がヘリウムに転換される原子核反応が起こっており,それが星の放射するエネルギーを供給していることを定量的に示したのである。その後,主系列星だけでなく,地球の公転軌道の大きさほどにまで膨れ上がった赤色巨星の内部構造や,逆に太陽ほどの質量があるにもかかわらず地球くらいの大きさしかない白色矮星(わいせい)や,地上の山ほどの大きさしかない中性子星の内部構造,さらに,どこまでも崩壊していくブラックホールのまわりの空間の構造なども解明された。これらの星の内部では,物質密度は地球大気の値よりも低いものから,1cm3あたり1015gという超高密度まで,温度は1000K以下から1010Kという超高温までにわたっている。恒星内部が極限状態における物質の実験室だといわれるゆえんである。恒星内部構造論は恒星進化論の基礎となるものである。
執筆者:杉本 大一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報