改訂新版 世界大百科事典 「恒星進化論」の意味・わかりやすい解説
恒星進化論 (こうせいしんかろん)
theory of stellar evolution
恒星が進化するという考えは19世紀からあって,ケルビンとヘルムホルツの収縮説と呼ばれていた。すなわち,星は光としてエネルギーを失うにつれて,自分自身の重力(万有引力)によって収縮し,半径の大きい巨星から,半径の小さい矮星(わいせい)へと変わっていくというのである。しかし20世紀前半から恒星内部構造論が展開されるようになり,1940年ころになって,恒星のエネルギー源は原子核反応によるものであることがわかるに至り,恒星進化の道筋は,むしろ矮星から巨星へという方向に書き換えられることになった。恒星は星間ガスから原始星として生まれ,まずは収縮する。しかし水素がヘリウムに核融合する段階になると,星は主系列矮星に落ち着く。星の中心部で水素が消費されつくした後,星の中心部は収縮するが,外層は逆に膨張し,星は巨星になるということが,50年ころからしだいに明らかにされてきたのである。50年代後半から,星団の星の明るさや色(表面温度)の分布に関する光電測光観測が盛んになり,恒星進化の理論はそれらの観測と詳しく比較された。60年代後半からは,星の内部構造と進化は大型コンピューターを駆使して詳しく研究されるようになった。最近では,恒星の中心部で炭素,酸素,……,鉄が合成され,ついには超新星爆発に至るまでの進化過程が定量的に明らかにされている。星の質量によっては,進化の途中で白色矮星になったり,また近接連星系では,進化の途中に二つの星の間に物質交換が起こってX線星などの特異な星になったり,新星爆発が起こったりする。これらのようすも理論的に解明され,最近の高度な観測によって発見された特異な天体現象を説明するものとなっている。星の進化の過程は同時に元素合成の過程でもある。宇宙の中の元素組成比が現在見られるような値になっている必然性は,すでに1958年に元素起源論としてその大筋は理解されていたが,最近では,より詳しい恒星進化論と高度な観測を基礎にして,元素起源論が展開されている。
→恒星
執筆者:杉本 大一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報