デジタル大辞泉 「ケルビン」の意味・読み・例文・類語
ケルビン(kelvin)
[補説]1ケルビンは1.380649×10-23ジュールの熱エネルギーの変化に等しい。
イギリスの物理学者。北アイルランドのベルファストで6月26日に生まれる。本来の名はウィリアム・トムソン。父ジェームズ・トムソンJames Thomson(1786―1849)は同地の工学教授であったが、まもなくスコットランドのグラスゴー大学に転じ、数学の教授となった。ウィリアムは、兄のジェームズJames Thomson(1822―1892)とともに同大学に入学(1834)、続いてケンブリッジ大学で数学や物理を学び、1845年に卒業した。それと前後して二度にわたりヨーロッパ大陸に遊学、フーリエの数理的な熱伝導論、ラプラスの天体力学、クラペイロンが祖述したカルノーの熱理論、精密測定を重視したルニョーの実験物理学などから深い影響を受けた。
1846年グラスゴー大学の自然哲学(今日いう物理的科学)の教授に就任、以後53年間この地位を占めた。ルニョーの研究室の先例に倣って、学生の参加できる実験室を設け、また精密計測器の開発や製造に意欲をもち続けたが、前者はイギリス圏で最初の施設として多大の成果をもたらし、後者は鋭感検流計、象限電位計、抵抗測定用ダブルブリッジ、電流天秤(てんびん)、羅針盤(コンパス)などの製品を生んで、巨額の収入をもたらした。
理論の方面では、修学中からフーリエ級数などを論じ、熱伝導現象と電気的な力の作用との類推を考察するなどの早熟ぶりをみせたが、1848年に至って、カルノーの原理とルニョーの実験値とに基づく熱力学温度目盛を提案し、現今の国際単位系の基本単位の一つである「熱力学温度の単位、ケルビン」にその名を残すことになった。一方、その前年の学会でジュールの報告(のちに熱力学第一法則とよばれるものの一部分)を聞いて早速その重要性を認め、以後、長く協力してジュール‐トムソン効果などの成果を得た。さらに1851年には、「生命のない物体を用い周囲の最低温度以下に物体を冷やすことによって力学的な仕事を得ることは不可能である」と述べ、翌1852年には「力学的エネルギーは散逸の傾向をもつ」と述べて、熱理論のもう一つの重要な面(のちにいう熱力学第二法則の、ある局面)を明らかにした。
物理学のその他の分野でも、静電気学の鏡像の方法、連続弾性体(エーテル)のひずみとしての電磁場の理論(ただし、その正しい展開にはマクスウェルの、より新しい発想が必要であった)、ライデン瓶からの放電が振動現象であることの指摘、電荷は一定の微小要素よりなるとする説、渦をモデルとする原子論、電磁気単位、電気通信(理論および海底電信の実用化)と、多彩な貢献をした。海底通信の功により1892年に男爵位を受け、小川の名ケルビンと隠棲(いんせい)地の名ラーグスをとってBaron Kelvin of Largsと名のった。1904年、推されてグラスゴー大学学長に就任した。1907年12月17日ラーグスで没し、ウェストミンスター寺院に葬られた。
[高田誠二]
『ダビド・マクドナルド著、原島鮮訳『ファラデー、マクスウェル、ケルビン』(1978・河出書房新社)』
イギリスの物理学者。アイルランドのベルファストの生れ。本名はウィリアム・トムソンWilliam Thomson。1892年,彼の業績に対してバロンの爵位が贈られケルビン卿と名のった。父はグラスゴー大学の数学教授を務めた人で,兄ジェームズ・トムソンJames Thomson(1822-92)も同大学の工学の教授となり,圧力による水の氷点降下,水の三重点などの物理学上の発見で知られる。ウィリアムは10歳でグラスゴー大学の入学を許可され,のちにケンブリッジ大学で学んだ。この間すでにフーリエ展開,熱および電気に関する10編ほどの論文を発表している。ケンブリッジ大学卒業(1845)後,パリのルニョーHenri Victor Regnault(1810-78)の下で実験の指導を受け,実験に関する能力を啓発されるとともに,B.クラペイロンの論文を通してS.カルノーの熱機関の研究を知る機会を得た。1846年,弱冠22歳でグラスゴー大学の物理学教授となり,1904年には同大学の総長に推された。
彼の研究領域はきわめて多岐にわたり,熱力学,電気磁気学をはじめ,当時の古典物理学のほぼ全分野に及ぶ。発表論文数は600を超える。熱力学に関しては,R. クラウジウス,W.ランキンと並んで熱力学の開拓者の一人である。カルノーの研究に注目し,カルノーの原理とルニョーの実験結果に基づいて,1848年絶対温度目盛を導入,のちに彼の名にちなみその単位はケルビンと名づけられた。また,1847年のJ.P.ジュールの熱の仕事当量に関する論文の重要性を高く評価し,熱と仕事の同等性の見地からカルノー理論の一般化を試み,51年独自に熱力学第2法則を定式化した。同年トムソン効果の名で知られる熱電気の研究を行い,翌年にはジュールとともにジュール=トムソンの実験として有名な細孔栓の実験を行ってジュール=トムソン効果を発見した。電気磁気学に関しては,電気伝導,鏡像法,電気放電の振動性などの理論的業績に加えて,55年以降始めた海底電信の研究との関連で電気信号の理論的研究,実験装置,機器の開発を行った。66年には大西洋電信会社に招かれて海底電線の敷設を指導,完成させたが,この間受信装置のための鏡式電流計,サイフォンレコーダーを発明した。また,電気諸単位の完成に努力し,単位測定用の絶対電気計,象限電気計,電気ばかりなどを考案した。航海技術に関しても,羅針盤の改良,ジャイロコンパスの発明で知られる。ほかに,潮汐,地球の年齢の推算などの地球物理学的研究,渦の運動に関する流体力学の研究があり,後者を応用した渦動原子モデルなどによって古典的な原子構造論を展開し,原子論にも深い関心を示した。ケルビンは電磁現象をエーテルの力学的構造から導こうと試みるなど,基本的には機械論的自然観の立場にあった。多くの物理学者が彼の指導,影響を受けたが,日本の物理学者田中館愛橘もケルビンの下で教えを受けた。
執筆者:井上 隆義
温度の単位。厳密には熱力学温度(絶対温度ともいう)の単位。記号はK。国際単位系の基本単位の一つで,水の三重点の熱力学温度の1/273.16と定義される。温度測定の基準を定めようとするとき,液体の膨張などの個別的物性を利用して温度目盛を決めても,普遍的な基準は得られない。そこで,可逆サイクルという理想的な熱機関の効率(これは個別的物性に左右されず,高低二つの熱源の温度だけで決まる)を尺度として温度を表すことにし,そのような温度を熱力学温度と呼ぶ。一方,純粋な水の氷,液体の水,水蒸気の三つの相が同時に存在する場所の温度は,きわめて安定しているので,これを基本の温度定点とし,その数値をセルシウス度を使ってきたという伝統尊重の立場から273.16Kと定める。この定め方を別の形で表したのが,上記の定義文である。今日,セルシウス度(℃)その他の内容はすべてケルビンから導き出される。絶対温度の考えを導入したケルビンLord Kelvinに由来する。
執筆者:高田 誠二
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(今井秀孝 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問 / 2008年)
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…なお,効率ηは1を超えることはありえないから絶対温度には下限すなわち絶対0度が存在する。このような絶対温度の概念は1848年にW.トムソン(ケルビン)によって導入された。理想的な熱機関とは可逆的に働く熱機関で,カルノーサイクルに代表される。…
…電気盆をきっかけにして,静電誘導を利用する多くの起電機が発明されたが,その中では,イギリスの技術者のJ.ウィムズハーストが,1882年ごろつくった回転運動を利用して連続的に電荷を集めるようにした起電機がとくに有名である。(2)水滴起電機 ケルビンが1867年に発明したもの。図2に示すように,ノズルを出た水滴が金属円筒A,A′の中を通って,金属容器B,B′まで落下する。…
…熱力学的温度ともいい,また1848年にケルビン(W.トムソン)によって導入されたことからケルビン温度とも呼ばれる。熱力学の第1,第2法則に基づいて理想的な熱機関の効率により定義される温度。…
…なお,効率ηは1を超えることはありえないから絶対温度には下限すなわち絶対0度が存在する。このような絶対温度の概念は1848年にW.トムソン(ケルビン)によって導入された。理想的な熱機関とは可逆的に働く熱機関で,カルノーサイクルに代表される。…
…熱力学的温度ともいい,また1848年にケルビン(W.トムソン)によって導入されたことからケルビン温度とも呼ばれる。熱力学の第1,第2法則に基づいて理想的な熱機関の効率により定義される温度。…
…この生成熱量あるいは吸収熱量は流れる電流に比例し,その比例定数は二つの金属によって決まる。一方,トムソン効果Thomson effectは,長さ方向に不均一な温度に保たれた金属線に電流を流すとき,ペルチエ効果と同様に熱の生成あるいは吸収が起こる現象で,W.トムソン(ケルビン)によって発見された。これら二つの効果はともに電流の流れる向きが逆になると,熱の生成,吸収が逆転する。…
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