情報の創出、処理、伝達に携わる産業。具体的には電子工業と情報サービス業が中軸を担う。
電子工業は、電子機器を生産する工業であり、電子機器は、コンピュータなどの産業用電子機器、民生用電子機器、半導体を中心とする電子部品に3分類されている。一方、情報サービス業は、ソフトウェア業、情報処理・提供サービス業等から構成される。情報産業は元来、コンピュータの発明により産業基盤を拡大してきた。電子部品、コンピュータそのものの発達、ソフトウェアの拡充、通信手段の発達とともにデジタル化という潮流が、産業界、労働、行政に波及し、広く社会全般を変化させてきた。ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ(情報の内容)、放送、通信事業は、類似性と革新性をもち、国際的な規模での社会経済の変革を随伴してきた。
日本でのコンピュータ生産は、海外からの導入技術を基盤に、民需量産化路線により発展してきた。日立製作所はRCAと、三菱(みつびし)電機はTRW(現、ZF TRWオートモーティブ)と、東芝はゼネラル・エレクトリック(GE)と、沖電気工業はスペリーランド(現、ユニシス)と、日本電気(NEC)はハネウェルと、いずれも1960年代初頭、おもにアメリカ企業との提携を通してコンピュータ開発に乗り出している。一方、IC(集積回路)の開発は、アメリカのアポロ計画や1971年のマイクロコンピュータ開発等と連動して急速な発展を遂げ、生産の自動化やオフィスの効率化などに革新的な役割を果たすことになる。1962年(昭和37)にはNECがプレーナ(平坦化)技術を導入し、電子部品、IC生産を高度化している。他方で、1957年の「電子工業振興臨時措置法」(昭和32年法律第171号)公布以降、数次にわたる機械工業振興、情報産業振興に関する臨時特別措置法の制定にも支援され、1980年代には、日本のIC生産が世界をリードしていた。とりわけ、1976年に発足した半官半民の超LSI技術研究組合は、日本企業のメモリー分野での活躍に貢献している。また、日本国内のコンピュータ市場でIBMのシェアは低く抑えられ、富士通をはじめとする国産の大型機分野でのシェアが高まっていた。なお、21世紀を迎えるまでに100万人近いソフトウェア技術者が不足するといったソフトウェア・クライシスが指摘され、1988年には「頭脳立地法」(「地域産業の高度化に寄与する特定事業の集積の促進に関する法律」昭和63年法律第32号)の制定に至り、地方でのソフトウェア事業が拡大した。
[大西勝明 2020年3月18日]
しかし、1990年代、ポスト冷戦期には、バブル経済の崩壊や貿易摩擦の激化等、競争環境が深刻化している。アメリカは、国際競争力の再生を意図し、1991年(平成3)に第二次日米半導体協定を結び、外国製半導体に日本市場の20%以上を開放するという条件を要請し、さらに、情報スーパーハイウェー構想、その拡大版の世界情報基盤(GII:Global Information Infrastructure)構想を提唱している。また1996年には電気通信法を制定、翌1997年には世界貿易機関(WTO)での基本的な電気通信事業の自由化を、1998年には電気通信市場開放についての多国間合意にこぎつけ、情報通信の国際化のみならず情報通信と金融事業の世界的な覇権を目ざした施策を展開している。
さらに、この時期、韓国メーカーの飛躍や中国企業の台頭により、日本の優位は大きく揺らぐことになる。コンピュータ市場低迷のなかでパーソナルコンピュータ(パソコン)の生産額が最大となり、パソコンのMPU(マイクロプロセッサー・ユニットmicroprocessor unit)をインテル社、OS(基本ソフト)をマイクロソフト社のウィンドウズが過半のシェアを占めるウィンテル体制が確立している。他方、半導体のみならず、多角化を特徴とした日本企業の存立基盤が崩れ、巨額の赤字決算に陥っている。とくに、バブル経済の崩壊により金融機関の受けたダメージは大きかった。1991年の金融業務の国際的な第三次オンライン化の一巡化以降、予定されていた第四次オンライン化が挫折(ざせつ)している。1990年代初頭、情報サービス業において倒産が相次ぎ、最多の雇用調整助成金申請が行われ、ソフトウェア・クライシスとは異なる事態が生起している。そして、工業統計表(従業者4人以上の事業所)における電気機械器具製造業の従業者は、1991年の約198万人から1996年には約170万人へと約28万人以上減少した(2018年には約48万人)。日本の情報産業の衰退、アメリカの再生・強化、さらに韓国、中国、インドの躍進も続いている。そして、1994年にはアマゾン、1998年にはグーグルの創業があり、情報産業の新しい担い手が台頭してきた。
[大西勝明 2020年3月18日]
ブロードバンドからクラウドサービス(2006)の時代を迎え、情報産業は、ハード事業を縮小し、ソフトウェアやソリューション(問題解決型)事業、さらに情報の集積や解析業務を重視するという事業分野の改編にとどまらず、産業全体の動向に影響を与える中核的な役割を果たすことになる。情報技術、通信基盤が近代化され、IT(information technology=情報技術)やEC(electronic commerce=電子商取引)の拡充があり、IoT(モノのインターネット化)、産業用ロボット、AI(人工知能)が、戦略領域とされ、拡張している。技術基盤の充実、高速で高性能な新しい通信規格5Gの誕生や量子コンピュータの開発が21世紀を象徴している。デジタル化は、2進法を基盤とするが、アマゾンが発表したスーパーコンピュータを上回る性能の量子コンピュータは、2進法とは異なる論理で新たな可能性を開示している。コンピュータの発達とともにロボットの開発が進み、AI、機械学習の実用化も促進され、働き方や労働の業種間、職種間編成が変容している。いまや、生産、販売といった分野のみならず、リアルとバーチャルの融合を伴い、流通、金融、医療、農業といったあらゆる産業活動や地域展開などが情報化と連携し、再構築が進行している。そして政治、科学技術、軍事もが情報化を媒介に変革されている。たとえば、電気自動車生産の本格化等は、産業間融合を随伴している。この間、2004年にはフェイスブックの創業があり、2006年にはクラウドコンピューティングが定着し、2007年には、アップルが初代iPhone(アイフォーン)を発売するなど、インターネットを活用した新しい事業が続々登場した。GAFA(ガーファ)というのは、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという4社の頭文字をとったものであるが、プラットフォーマーとされ、巨額な売上高、営業利益、当期純利益を短期間に達成しており、比類のない株価時価総額を記録し、強大な支配力を誇示し、経済秩序を改編している。情報産業は、新たな企業の参画と一部企業の淘汰(とうた)を伴うデジタル化を通して、既存産業のリニューアル化とまったく新しい業態を誕生させ、経済秩序だけでなく人々の生活を根本から変革しつつある。
生産の自動化、オフィス・業務のオートメ化、電子商取引、物流のシステム化にとどまらず、フィンテックの拡充、スマートシティが具現化されている。加速する技術進歩が、社会や政治に大きな影響を与え、国際的な多岐にわたる急激な革新を引き起こしている。科学技術も、政治も軍事もが、情報産業と密接な関連をもって変化している。産業再編成が起き、新興国の展開や世界の政治、経済のあり方、国際的な覇権争いにも構造的な変化を招きつつある。
他方、セキュリティや働き方改革、そして、GAFAによる寡占化の進行への対処が、これからの国際的課題となっている。課税問題のほか、深刻な競争制限的行為に対しては公正取引委員会等により、その認定には困難を伴いつつも規制が検討され、プライバシー侵害については個人情報の保護、擁護が主張されている。日本でも、EUの動向をも参照して情報産業規制が具体化しつつある。
[大西勝明 2020年3月18日]
広義には物的財貨,サービスを供給する産業部門に対比させて,情報を生産,収集,蓄積,加工,提供する業務に関連する産業をいう。この場合にはマハルップF.Machlupのいう〈知識産業knowledge industry〉とほとんど同じ意味になる。狭義にはコンピューターと通信を結合して各種の情報サービスを行う産業部門をいう。この狭義の意味に加えて,コンピューターのハードウェア,ソフトウェア,それらの周辺関連サービス業まで,いいかえればコンピューター産業まで,さらにそれに加えて電気通信産業まで広げて三本柱とする場合も多い。情報産業ということばが日本で広く使われるようになったのは通産大臣の諮問機関の産業構造審議会に情報産業部会が設置された1968年以降といってよい。当時,アメリカでは企業経営に広くコンピューターが導入され,コンピューターを用いて情報処理サービスを行う情報処理企業が発展しつつあった。これに対し,日本はこの分野において大幅に立ち遅れていることを知った産業界,通産省が将来の日本経済発展の戦略的部門としてこの分野に着目したのが日本において情報産業という産業部門のとらえ方の始まりであり,また,実態としてこの分野の産業がその後,政府の支持と振興政策によって急速に発展することになる。いまや情報産業は省資源,無公害,知識集約型の高付加価値産業の典型として,高度成長期以降の日本の産業構造高度化の中核産業として位置づけられている。
一方,近年,一般および企業対象の情報提供サービス分野に急速に技術革新が浸透し,各種の新しい形態のメディアによるサービスが実用化されつつある。これらの多くは放送,新聞,出版,教育など狭義の情報産業には含まれない産業分野のなかから展開しつつある。しかも,これらの新しい形態のサービスは,情報の蓄積,加工,提供においてコンピューターおよび通信に依存する部分が大きく,いままでの狭義の情報産業との境界はしだいに不明確になり始めている。一方で既存の情報提供サービス産業はコンピューターの情報処理と通信の結合による新しいサービス形態を生み出しながら,みずからの業態を変えつつある。
情報産業が高度に発達した社会を高度情報化社会というならば,そのような社会では企業活動はもちろんのこと通常の日常生活,国および地方自治体の行政活動なども大きく情報産業に依存することになる。長期的にみるならば一種の産業革命のごときものとして位置づけられるような事態が生じる時代に入りつつあるのである。
→情報化社会
執筆者:後藤 和彦
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…活字やアナログ信号による〈オールド・メディア〉に対して,1980年代に一般化しはじめるディジタル信号による〈新しいメディア〉を指す。英語ではnew media,newmediaの両表記を使うが,日本語では〈ニュー・メディア〉から次第に〈ニューメディア〉の表記になった。ディジタル信号による新しい電子メディアの意味でこの語を最初に用いたのは,H.M.エンツェンスベルガーが早い。彼は,〈メディア論のための積木箱〉(《Kursbuch》1970年3月号)のなかで,〈neue Medien〉という言葉に特別の意味を込めた。…
※「情報産業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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