農林水産業を第1次産業,製造業,建設業等を第2次産業とすれば,これらを除く産業がすべて第3次産業に属する。サービス業は,この第3次産業にほぼ等しく,サービス,すなわち物のように手にとったり触れたりできない対象を提供する産業であり,きわめて多様な業種から成る。サービス業の提供するサービスを購入する側,つまり需要主体別に分類すると,次の三つに大別される。
第1は対事業所サービス業で,卸売業,倉庫業,貨物運送業,修理業など,生産物の流通,保管,修理のように生産物と強いかかわりをもつサービス業と,銀行・信託業,証券・商品取引業,リース・レンタル業,調査・情報サービス,広告業など,生産物とのかかわりはあまりなく,独自のサービスを提供するサービス業とに分かれる。第2は対個人サービス業で,これもいろいろな商品の小売業,飲食店など,もっぱら物を提供するサービス業と,保険業,旅客運送業,ホテル・旅館,理美容,医療,教育,映画,遊園地などサービスのみを提供するサービス業に分かれる。第3は,社会福祉,社会保険といった公共サービスにかかわるものである。
産業別に就業者数の比率をみると,日本の第3次産業の就業比率は,1945年以前は30%未満であったが,60年に38%,70年47%と年々上昇し,75年には52%と過半数を超し,上昇傾向は止まらない。産業別の国内総生産(名目値)の比率も同様に上昇しており,1946年に35%だったものが70年に51%と過半を超し,その後も着々と増加している。
こうした傾向は〈経済のサービス化〉と呼ばれているが,日本だけの現象ではない。17世紀にW.ペティは〈農業よりも製造業によるほうが,さらに製造業よりも商業によるほうが利得がはるかに多い〉と述べた。この発言に注目したコーリン・クラークとS.S.クズネッツは,各国における諸統計を駆使した結果,所得水準の上昇とともに第3次産業の比重が高まるという産業構造の変化の傾向を実証した(ペティの法則)。
このように経済に占めるサービス業の比重が増大する要因は,次の諸点である。
第1は,主として対事業所サービス業に関する要因で,生産部門における変化である。産業発展の初期段階では,知識労働はそれほど大きな比重を占めるものではなく,直接生産工程に多くの労働力を投入する人海戦術をとるが,やがて各種の専用機,NC機械,マシニングセンター,ロボットなどの自動化機械や,コンピューターによる工程管理が導入され,機械が直接労働に代わっていく。それと同時に生産管理,在庫管理,機械の設計,あるいは製品の開発のための市場調査,企画などの間接部門に知識労働の役割が高まってくる。こうして知識労働,つまりサービス労働が広がるにつれて,それらの知識労働は専門化し,同時に社会的分業の輪が広がることとなり,直接物の生産にたずさわらない技術サービス,製品企画,販売,企画などの代行業が増え,市場規模を拡大する。対事業所サービスは,こうして進展していく。
第2は,おもに対個人サービス業に関する要因で,消費の質の変化に対応する。経済発展とともに,家計における高所得化が進み,飲食費をはじめとする生活における基礎的・必需的支出のウェイトは低下する一方,教養・娯楽費,交際費などの非日常的・選択的支出の比重が高まる。〈衣食足りて礼節を知る〉の言葉どおり,生活の維持というような基本的欲求が満たされればより高度な生活をしたいと願うのは,人間として当然な消費パターンであろう。こうして変化する家計消費は,ゆとりを生み,飲食,住居,理美容,クリーニング,保育,老人ホームなどの従来からある対個人サービスに加えて,余暇を生かすためのホビー,スポーツ,学習,家事省力化のための外食,そうざい,宅配,便利屋(よろず引受業),合理的な生活のためのレンタル,通信販売,不動産や求人の仲介,といった多彩なサービス業務に向かい,対個人サービス業の市場規模を大きくしている。
このようにして成長を続けているサービス業であるが,個別の産業をみると,きわめて多数の業種から成り立っているだけに,一様に成長しているわけではなく,つねに新旧交代が激しく続いている。たとえば,生産額によってサービス業中の各産業の伸びをみると,1965-70年における高い伸びを示したのは,小売業,飲食業,廃棄物処理業,リース・レンタル業,不動産業などであるが,10年後の75-79年では,保険,教育,福祉,飲食,運転,放送,広告等で,様変りしていることがわかる。
この間には石油危機のような経済社会の急激な変化があったので,成長業種と衰退業種の対照が加速されたとみられるが,さらに新旧交代は同じ業種の内部でも進行している。たとえば,飲食店は古くからあるサービス業であるが,昭和40年代後半ころから目だって伸びてきた〈ファミリー・レストラン〉と呼ばれる一群の企業は,街並みを変え,人々の外食習慣にも大きな影響を与えた。その結果,従来からある大衆相手の食堂,レストランの売上げを奪い,飲食店市場を変貌させた。
このようなサービス産業の新旧交代,新陳代謝は,あらゆる業種で,しかもつねに進んでいる。その変化を促す最大の力は,産業化,企業化,あるいは近代化と呼ばれる現象である。サービス業は一般に,生業的・家業的な経営にとどまっていることが多いが,売上高はもちろん,資本金,従業員等が巨大化している。それをもたらすものは,(1)店舗のチェーン化,(2)製造と販売の分離,(3)サービスの標準化,(4)従業員の教育訓練システムの確立,(5)マネジメント・システムの確立,(6)客層の的の絞込み,(7)他産業で開発された革新的科学技術の導入,といった方策である。いずれも,コストダウンを実現し,従来と同一水準のサービスによっても低価格を可能とするため,売上げの飛躍的な拡大をもたらすことができる。
サービス業は,このように新旧交代を繰り返しながら,全体として規模を拡大してきたが,注目すべき点はその成長スピードは決して高くはなく,きわめて緩慢であったということである。特定の業種が急激に伸びたり,特定の企業が急速に業容を拡大することはあっても,全体としては意外に高くない伸びであったということである。今後も,所得水準の上昇,余暇の増大といった個人消費の変化に対応する対個人サービス業と,省力化,専門化といった企業経営における要請にこたえる対事業所サービス業とは,ともに新旧交代を繰り返しながら徐々に成長し,変貌を遂げていくとみられる。
執筆者:岡田 康司
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