日本大百科全書(ニッポニカ) 「戦略産業」の意味・わかりやすい解説
戦略産業
せんりゃくさんぎょう
strategic industry
一国の産業政策を策定するうえで、経済全体の生産力拡大に寄与し、その発展のもつ波及効果が大きく、雇用水準の上昇、輸出の増大、技術進歩に大きな効果を期待できる産業を戦略産業とよび、産業政策上の重点産業としての位置が与えられる。1955年(昭和30)以後の高度成長期を通じて基幹産業を中心に本格的な重化学工業化を推進した日本経済は、これと並行して石油化学、自動車、電子工業などの新興産業を戦略産業として育成・発展させた。60年代後半には、コンピュータ工業が、在来技術とエレクトロニクス技術の結合によるシステム工学を発展させ、産業のシステム化を推進する重要な戦略産業として注目されるようになった。73年の石油危機以降、エネルギー多消費型の鉄鋼・石油化学工業などが構造的不況に陥るなかで、80年代には、「ハイテク産業」high-technology industryが技術革新を進め、産業構造の高度化を促進し、新たな国際分業の再編に対応するための戦略産業の役割を担うに至った。このハイテク産業には、半導体、コンピュータ、情報・通信機器、OA(オフィス・オートメーション)、ロボット、光通信、航空・宇宙、新素材、バイオテクノロジーなどが含まれ、いずれも民需ベースで年率二桁(けた)以上の成長力を示している。市場規模も1980年の10兆4880億円(同年の国民総生産GNPの4.4%)から85年には27兆1200億円とGNPの10%を超え、5年後にはGNPの16%、10年後には22%もの水準に達するものと予想されている。このため、先端(ハイテク)技術のハード面の開発に加えて、これらを駆使するためのソフト部門の開発、さらには研究開発、デザイン、企画、宣伝など新たな付加価値源の開発によって経済のソフト化を推進することも日本経済の差し迫った戦略課題となっている。
[殿村晋一]