日本大百科全書(ニッポニカ) 「海洋開発」の意味・わかりやすい解説
海洋開発
かいようかいはつ
海洋を人間に役だてようとする人間の行動の総称。海洋がもっているスペース、エネルギー、海中・海底の資源を利用する全般的な行為である。ocean developmentの訳語で、海洋開発技術はocean technology, ocean engineeringなどといわれる。スペースとしての利用のみでなく、海底石油資源の開発、潮汐(ちょうせき)発電など、多目的でかつ産業的、工業的な語義に使われだしたのは1950~1960年代からで、宇宙開発という用語とほぼ時を同じくしている。
[半澤正男]
海洋開発の種類
海洋開発は、スペースとしての利用、海底鉱物資源の利用、海洋エネルギーの利用、海水の直接的利用に分類することができる。
[半澤正男]
スペースとしての海洋の利用
これには、海上、海中、海底の利用がある。
[半澤正男]
航路としての海上の利用
海を航路として利用した歴史はきわめて古く、丸木舟の時代にさかのぼる。当時の人類には海を「利用」する意識はなかったであろうから、これは現代人の結果的な判断による言い方にすぎない。しかし、古代人が植民地を求め、あるいは交易の目的で新航路の開拓に乗り出したころには、海洋の利用・開発という意識が芽生え始めていたであろう。現在、航路としての海洋スペースの利用で残されているのは、両極周辺域の氷海、とくに「北西航路」「北東航路」の実用化である。ソビエト連邦(ソ連)の原子力砕氷船レーニン号、アルクチカ号、シビリ号の北氷洋運航は実用化され、アメリカの潜水艦ノーチラス号、マンモスタンカーのマンハッタン号の実験航海も成功している。スウェーデンやアメリカで構想が発表されている半潜水式の大形バージ運搬船(float on/float off式)、ノルウェー、アメリカに構想のある半潜水型大型砕氷貨物船などの将来の運航は、海面直下のスペースの新しい利用といえよう。氷海運航については、日本でも国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所や民間会社においてすでに氷海再現水槽を完成し、研究を進めている。
[半澤正男]
スペースとしての海面の利用
もっとも大規模な海面の利用は干拓であって、オランダのゾイデル海干拓はその好例といえる。国土の狭いオランダでは、国の中央部に深く湾入するゾイデル海の干拓について、19世紀にすでに構想があり、計画が推進されていた。1918年、ゾイデル海干拓法が議会を通過し、1920年に工事が始められた。ウィーリンガー湖ポルダー(210平方キロメートル)の干拓がまず完成し、ついでこれと対岸を結ぶ閉切り堤防がつくられ、ゾイデル海は北海から分離してアイセル湖となった。その後、北東ポルダー、東フレボラントなどが完成したが、水質汚染など環境問題への配慮から、1991年干拓事業は中止された。オランダでは前記の事業のほか、1958年より、「デルタ・プラン」とよばれる、ライン河口の堤防建設、工業用地造成、淡水確保の大規模プロジェクトが開始された。この計画は1953年にオランダ南西部のゼーラント地方を襲った大規模な洪水で多くの犠牲者が出たのを契機としている。1960年代前半に一時暗礁に乗り上げたものの、1986年には最大難関といわれたスケルデダムの工事が終了し、1987年すべての防波堤が完成した。
同じように国土の狭い日本でも、八郎潟や児島(こじま)湾で土地造成のための干拓が行われた。しかし、直接的な意味での海面スペース利用例は海上空港である。長崎空港は大村湾の箕島(みしま)を利用して1972年(昭和47)に完成した海上空港で、空港建設の余地のない長崎市の空の玄関となっている。大阪湾の泉南(せんなん)沖に建設された関西国際空港は、1971年の航空審議会への諮問第15号によりスタートしたものだが、まったく島のない海上に建設する、純粋な海面スペースの利用といえよう。
1984年に操業を開始した関西電力御坊(ごぼう)火力発電は、これも島のない海洋に建設された世界最初の人工島方式発電所である。和歌山県御坊市沖合いに東西870メートル、南北400メートル、約35万平方メートルの「富島」を造成し、180万キロワットを発電している。環境問題や用地確保難で火力発電所の設置が困難になっている現在での新しい方向として注目される。
大規模な海面スペース利用として、ほかにも海上廃棄物処理場、貨物の沖合い荷役中継基地、海域公園(海中公園)、各種海上作業台(プラットホーム)などが考えられる。小規模な利用としては、生活・レクリエーションの場としての海上施設、海中展望台、海洋学・気象学の各種観測用ブイがある。1975年、沖縄国際海洋博覧会の政府出展海上施設「アクアポリス」はレクリエーション用の例であり、気象庁が1973年から2000年にかけて日本近海に展開した定置型の海洋気象ブイロボットは観測用の例である。
[半澤正男]
海上都市構想
本格的な海上都市marine cityは、いまだ建設されていないが、1981年神戸沖に完成したポートアイランド(436ヘクタール)や、前述の関西国際空港(1230ヘクタール)はその第一歩といえる。ハワイ、オアフ島沖にも同様な構想があったが経済的な問題により実現化されていない。海上都市建設には、その必然性、防災・廃棄物・公害対策など解決を要する問題も多く、都市工学者、海洋学者による今後の研究が期待される。
[半澤正男]
海底鉱物資源の利用
現状では石油が中心であるが、それ以外の海底鉱物資源として、石炭、マンガン(団塊、クラスト)、コバルト、砂白金、砂金、砂鉄、砂錫(さすず)、チタン鉱石、モナズ石、ジルコン、ルチル、ダイヤモンド、硫黄(いおう)、砂利、砂などがある。砂金、砂鉄などは浅海にあるが、品位が低かったり、調査が不完全なため、開発が進んでいない場合が多い。その他も開発のリスクと採算性が障害になって、開発は遅れがちである。
[半澤正男]
石油
海洋石油は大陸棚の海底から掘削する。歴史は比較的浅く、初期には海底炭田と同じように、陸上からの斜め掘りや、海岸の簡単な施設で採取していた。沖合いでの採取は、1938年、アメリカ、ルイジアナ州沖のメキシコ湾で、木製のプラットホームを構築したのが最初である。現在、陸上の既存の油田の埋蔵量には限界があり、油田の深度が増して平均で1500メートル、もっとも深いアメリカ、オクラホマ州では約1万メートルにも達し、探査・掘削の費用が巨額に上ることが問題になっている。一方、海底油田の開発は、海洋工学の進歩によって、陸上深層油田と比べて採算がとれるようになってきたことが、海底油田指向の大きな要因である。
1945年9月、アメリカの大統領トルーマンは「大陸棚宣言」で、大陸棚の地下および海床の天然資源に関する合衆国の権利を宣明した。大陸棚の地下資源の管轄権の主張に他の国々も追従し、これを契機として大陸棚での石油の探鉱・開発が本格化した。1948年にはルイジアナ沖で鉄製の固定式リグが使用され、開発は大きく前進する。海洋工学技術の進展も著しく、1950年代にはジャッキアップ型掘削装置、掘削船などの移動式掘削装置や、船位固定装置なども開発され、世界最大級のサウジアラビアのサファニア油田も発見されている。
1961年には半潜水型掘削装置が登場する。深海部掘削用海底坑口装置と相まって、固定式ジャッキアップ型では、採算面でも困難とされていた水深100メートル以上の海域での作業が可能になった。現在、日本の造船所などで、各種の石油掘削用プラットホームが建造されている。
2002年における全世界石油生産量は日産約7393.5万バレル(約1175.6万キロリットル)、全世界天然ガス生産量は2兆5276立方メートル(イギリスBP社の統計)であるが、そのうち20~28%が海底から生産されているといわれている。
稼行中の海底油田のなかで話題の多い北海油田の開発は、1959年オランダで巨大なフローニンゲン天然ガス田が発見されたことに始まる。地質学者はこのガス田が北海南部の海底まで延びていると考え、精密な探査の結果、広大な油田を発見した。
日本の海底油田開発事業は、海外で成果をあげている。日中共同事業の渤海(ぼっかい)石油開発は1981年(昭和56)1号~3号井(せい)の試掘に成功した。民間ベースのアブ・ダビ、タイ沖の石油・天然ガス開発も進行中である。サハリン石油開発事業のサハリン(樺太(からふと))沖プロジェクトも、天然ガス、石油ともに有望視されている。第二のサウジアラビアといわれているアラスカのボーフォート海は世界的に注目を集めており、いくつかの油田が生産を開始している。日本では1980年代当初、石油公団が「北極石油」構想をうちだし、1982年に北極石油株式会社が設立されたが、結局石油掘削は実現せず1999年(平成11)解散、北極石油開発は難航している。
[半澤正男]
石炭
世界の確認可採埋蔵量は9844.5億トンであるが、海底の埋蔵量はまとまった資料がない。日本においては、80年代当初、推定埋蔵量約200億トン、このうちの20%、約43億トンは海底に存在するといわれていた。しかし安価な輸入炭に押されて炭鉱の経営が厳しくなった関係で、日本では現在海底炭田の掘削は行われていない。海底炭田は海底油田の採掘とは異なり、海岸線に近い陸上の露頭から海底に掘り進む方法で、日本では明治の初期から採炭されていた。海外ではイギリス、カナダ、チリなどで海底炭田が稼働中である。
[半澤正男]
マンガン団塊
マンガン団塊(ノジュールnodule)は水深4000~6000メートルの海洋底に広く分布している。埋蔵量にはいろいろな推定があるが、太平洋の堆積(たいせき)層の表面に約1012億トン、全世界の海洋底の表層1メートルの範囲内に約3×1012億トンといわれている。マンガン団塊の採取は世界的に注目されているが、採算性、海洋法の制約などについて、技術的にも、国際・国内法からも問題を抱えている。
[半澤正男]
海洋エネルギーの利用
潮汐、波浪、海流、海水の鉛直方向の温度差など、海の潜在的にもっているエネルギーは、量的にも大きく、永続性もあり、普遍的であるが、開発は潮汐発電を除き緒についたばかりである。
[半澤正男]
潮汐発電
潮差(ちょうさ)の大きい所にダムを築き、発電所を設ける。潮汐の位置のエネルギー、運動のエネルギーを電気エネルギーに変換するシステムである。日本で潮差の大きいのは、有明海(ありあけかい)住ノ江の大潮差(だいちょうさ)4.9メートル、世界で最大の潮差を示すカナダ東岸ファンディ湾の奥では大潮差が20メートルに近い。世界最初の実用的潮汐発電所はフランス北西部サン・マロ湾のランス河口に建設された。大潮差が13.5メートルに達するもので、1961年から建設が始まり、1966年に公開運転を行い、1年間の試運転を経て翌1967年から稼働し、潮汐の往復流によって年間544ギガワット時を発電している。実験的な潮汐発電所としては、ロシアのバレンツ海沿岸のウラ河口、キスラヤ・グバにある。そのほか、イギリスのセバーン河口およびマーセイ河、中国の江厦、韓国の加露林(ガロリム)湾などに潮汐発電所が建設されている。
潮汐発電は、水力発電と同じく、一度建設すれば「燃料」が要らない利点があるが、経済性にはまだ問題が残る。また立地条件も、干満差だけでなく、湾口が狭くて貯水面積が大きいこと、地盤が強固であること、都市・工業地帯などの電力消費地に比較的近いことなどの条件を満たす必要がある。
[半澤正男]
波力発電
日本だけでも海岸線の総延長は3万2170キロメートルに上り、波力利用の潜在的可能性は大きい。日本周辺海岸における風浪とうねりの合計のエネルギー総量は435×1017ジュールになるという試算もある。しかし、波力から電気エネルギーを取り出すには条件も多く、利用できるのは海岸線の約30%、約8000万キロワットと推定される。
波力発電の方式は、次のように分けることができる。
(1)浮揚式 海上に浮かべて発電する。小型と大型があり、小型はさらに①波の運動によって油圧ポンプを動かすソルター方式、②円筒を縦に海中に浮かべ、波によって圧縮された空気でタービンを回転させる空気ピストン式に分けられる。空気ピストン式は日本で最初に実用化され、ブイなどの光源やテレメーターの電源として使用されている。出力は70ワット程度で、電力はバッテリーに蓄電しておいて使用する。
大型の浮揚式は原理的には②と同じで、波の荒い海岸の沖合いに、箱形の浮体を浮かべて発電する。この形式の発電装置は消波効果もある。海洋科学技術センター(現、海洋研究開発機構)の「海明(かいめい)」は、1979年(昭和54)8月に山形県鶴岡(つるおか)市由良(ゆら)海岸沖に設置され、アメリカ・イギリス・カナダ・アイルランドとの共同研究体制のもとで実験が行われた。
(2)海岸固定式 海岸に空気ピストンを固定する。設置場所の波力、空気ピストン室の容積にもよるが、幅1メートル当り25~60キロワットの波力の打ち寄せる海岸で5~15キロワットの発電が期待される。
[半澤正男]
海水温度差発電
海水温度差発電(ocean thermal energy conversion、OTEC(オテック))は、海水のもつ熱エネルギーを利用した発電方法である。海洋表層部の高水温、深層部の低水温の温度差を熱機関に適用してエネルギーを取り出す。熱帯地方にはこの温度差の大きい海域が多く、立地条件が整えば有望な海洋利用の発電方式だが、建設地が限定されるため発生電力を需要地までどう送るかなどの問題がある。
温度差発電の開発の歴史は古く、すでに19世紀の末からフランスなどで種々の考案がされ、1930年にフランスはキューバで温度差発電技術を初めて検証した。原理は、表層の温水と深層の低温水を循環させ、海水の蒸発器と凝縮器の間のタービンを水蒸気で回転させるものである。日本では1970年電機工業会に新発電方式総合調査委員会が設けられ、温度差発電の実用の可能性につき詳細な検討が行われたほか、各大学・研究所などでも研究が進んでいる。東京電力グループが中部太平洋のナウル共和国に建設した海水温度差発電所では1981年10月から約1年間実験運転が行われた。ナウルの海面水温は約30℃、500メートルの海中では7~8℃で、年間を通じ20℃以上の安定した温度差があり、実験プラントによって最大出力120キロワットの発電が得られた。また九州電力グループも沖縄で実験に成功している。さらに、佐賀大学のグループは、インド国立海洋技術研究所と共同で、インド南端に近いトゥーティコリンの東の沖合いに発電能力1000キロワット規模の発電実証プラントを建設し、その稼動実験が2003年に開始された。
[半澤正男]
海水の直接利用
水資源としての利用と、溶存鉱物資源の利用の二つの面がある。
[半澤正男]
水資源としての利用
水自体の利用は、さらに(1)海水のままでの利用と、(2)淡水化とに分かれる。(1)は工業用水としての利用で、90%以上は冷却用水である。この場合、温排水の自然環境への影響が考慮されねばならない。(2)淡水化は、上質の淡水の入手が困難な中近東石油産出国、西インド諸島などで、1960年代のなかばから急激に要求が増大した。都市上水の需要増加や、工業化に伴う工業用水の必要からである。現在、全世界で1万4000基近い海水淡水化プラントが稼働中といわれる。海水淡水化には蒸発法と膜法(逆浸透法)、冷凍法があり、大部分は蒸発法と膜法である。海水を蒸発させた蒸気はまったく塩分を含まないので、これを凝縮させれば蒸留水、つまり淡水となる。加熱の熱源としては蒸気を使用する。火力発電タービンの背圧蒸気がこの目的に適当なので、淡水化プラントは発電プラントと結合すれば効率がよい。この二重目的プラントは、燃料が入手しやすく安価な中近東で多く建設されている。熱源に太陽熱を使用する蒸発法の実験プラントは、1981年(昭和56)瀬戸内海の高見島(香川県)に完成し、運転されていた(上水道設置のため1992年で終了)。太陽熱の利用に有利で、しかも淡水に乏しい中近東などでの淡水化工程の方向として注目される。
膜法は、溶媒である水は通すが、塩分などの溶質を透過させない半透膜を使う方法である。透過排除特性の優れた含水性アセチルセルロース膜の開発によって急速に実用化されている。冷凍法は、海水を凍結させて淡水を氷として析出する方法である。
[半澤正男]
溶存鉱物資源の利用
塩の採取がもっともよく知られている。日本では太陽熱を利用する製塩が古くから行われ、塩田はかつて瀬戸内海などの風物詩の一つであった。しかし、日本専売公社(現、日本たばこ産業株式会社)が電気透析法を完成したことにより、1960年代の後半から塩田は姿を消してしまった。電気透析法は、電気透析で濃縮した鹹水(かんすい)を蒸気で加熱して水分を蒸発させ、塩を晶出させる方法である。この方法の開発で、日本は食用塩の自給が可能になった。海水から食塩をとった残りのにがり(苦汁)からは、冷却、濃縮、ガス放散などの過程を経て、カリウム、マグネシウム、臭素などを採取する。また、アルカリ(石灰乳)を使用して海水からマグネシア(酸化マグネシウム)を採取することも行われている。
海水1トン中に平均3ミリグラム含有されているウランの開発も実験段階に入っている。
[半澤正男]
海洋開発機器
海洋開発機器とは、海洋開発に使われる各種の機械、設備、測定器などの総称である。使用する場所が海上、海中、海底なので、激しい波浪や気象条件、水深10メートルごとに1気圧分ずつ増加する巨大な水圧、35psu(psuはpractical salinity unitの略、実用塩分単位)ほどの塩分などに耐える頑丈な構造と防食性が要求される。また、熱水鉱床に対応して、いままでは要らなかった耐高熱性も必要なことがある。従来は陸上用の機器を改良して使用することが多かったが、海洋開発の分野、空間が拡大されるにつれて、海洋専用の本格的機器が開発製作されるようになった。
[半澤正男]
海洋土木機器
海洋土木機器は、海洋構造物の施工のためのもっとも基本的な機器である。従来から防波堤、護岸の建設などに使用されてきたが、海底石油の開発等に関連して、高度の耐深・耐風・耐波浪特性が要求されている。
[半澤正男]
直接作業用機器
削土、掘削、運搬、基礎工事用の機器である。削土用浚渫(しゅんせつ)船には、バケット式、ポンプ式、ジェット式がある。
掘削用浚渫船には、グラブ式、ディッパー式がある。そのほかに船舶としては、砕石船、杭打ち船、ドリリング船、潜水式ボーリング船などがある。船舶以外の機器に海(水)中ブルドーザー、海(水)中トレンチャー、基礎工事用大口径掘削機などがある。
[半澤正男]
海洋工事作業台
海洋工事作業台(プラットホームplatform)は、用途と形状による2種の分類ができる。用途別では、探鉱・試掘に使用される移動式作業台と、おもに固定式の生産用作業台に分けられる。しかし厳密な区別ではなく、探鉱・試掘段階での作業台が、そのまま半永久的な作業基地に移行することも多い。
形状別では、掘削船などの浮上式作業台、半潜水式作業台、着底式作業台、ジャケット(櫓(やぐら))式作業台、甲板昇降式作業台などがあるが、この分類も、着底式で甲板昇降式などのように、二つにまたがる場合がある。
[半澤正男]
海洋土木作業支援機器
海洋土木作業支援機器のなかで、非自航型デッキバージは、大型のジャケットを搭載運搬し、遠く離れた目的地で荷卸しを行う一種の艀(はしけ)で、日本では1万5000トン級の大型のものも建造されている。また潜水バージの発達も著しい。そのほかクレーン船やフックアップ船、アメリカのグロマー・チャレンジャー号やジョイデス・レゾリューション号のような海中作業船、台船、引き船なども不可欠の支援機器である。
[半澤正男]
海中作業用機器
海中ロボットなどでもっとも重要なマニピュレーター(作業腕)は、陸上の産業用ロボットの進歩に伴い著しい発達を遂げている。
(1)無人海中作業機器(海中ロボット) 海上の作業船から降ろされ、海中や海底を自走して各種の作業を行う。また、海上の作業船あるいは浮体内の遠隔操作室(リモートコントロール・ルーム)から、海中テレビやソナーなどの表示によって制御する。海中海底各種作業用、科学調査用などがあり、作業用は海底落下物の回収や、海底油井のソケットスパナを動かす開閉用にも活用されている。
(2)有人海中作業機器(海中マニピュレーター) 日本の深海潜水調査船「しんかい2000」は、人間の乗る耐圧操縦観測室(コントロール・ルーム)の観測窓から目視観測ができるようになっている。コントロール・コンソール(制御盤)ではすべての機器の監視・操作が行われる。艇の外部には、油圧駆動によって海底の岩石・泥・生物などの資料・試料を採取するマニピュレーターがあり、とったものは左舷前部の採取物入れに収められる。作業は目視、強力な投光器、水中テレビ、前方障害物探知ソナーを活用して行われる。
[半澤正男]
潜水調査船
科学的調査や産業目的に使われる潜水船。第二次世界大戦以前に、日本でもサンゴ採取用の西村式豆潜水艇の開発があったが、世界的に注目を集めだしたのは1940年代後半以降である。1948年、フランスで在来のものとまったく原理の異なるバチスカーフ、FNRS-2が建造されてから、アメリカ、カナダ、ソ連(ロシア)、日本でも各種の潜水調査船がつくられて活動している。航行型式によって、潜水艇式の独立潜航型と、作業船を必要とする母船随伴型に分類される。また構造からは、高圧に耐えうる耐圧殻をもつドライタイプと、耐圧殻のないウェットタイプがある。中・深深度の科学調査や作業にはドライタイプ、浅深度やレジャーにはウェットタイプが用いられる。日本の「しんかい2000」は母船随伴型で、超高張力鋼NS90の耐圧殻をもつドライタイプである。「しんかい6500」も母船随伴型であるが、耐圧殻には海水に対してすぐれた耐食性(錆(さ)びにくい性質)をもつチタン合金が使用されている。
[半澤正男]
潜水用具
海中作業やレジャーに使用する潜水用具には次のようなものがある。
(1)素潜(すもぐ)り用 素潜りはスキンダイビングともいい、肺にある空気量だけで息の続く限り海中に潜る方法で、潜水時間は50~80秒、深度は35メートルくらいといわれている。潜水マスク(水中眼鏡)、足ひれ、潜水服(ウェットスーツ)、重錘帯、シュノーケルなどが使われる。シュノーケルは、顔を海面につけ体を水平に保ったまま呼吸するJ字型の通気管である。
(2)呼吸装置装着用具 呼吸するガスにより、「空気潜水」と、ヘリウム‐酸素、ヘリウム‐窒素‐酸素などの「混合ガス潜水」に分けられる。さらに使用機器により、スクーバ潜水(スキューバダイビング)、チャンバー潜水、ヘルメット潜水に分類される。また給気源から、ヘルメット潜水のように船上から呼吸ガスを送る送気潜水(他給気式潜水)、スクーバ潜水のように携帯するボンベから給気する自給気式潜水の区別もある。なお、潜水艇や鎧装(がいそう)式潜水器を用いる硬式潜水と、スクーバ潜水・ヘルメット潜水のような軟式潜水に大別することもある。
(3)ダイビング・チャンバー 船上と海中作業基地との潜水連絡、移動用である。潜水カプセル、水中エレベーター、ダイビングベルなどの型式がある。
[半澤正男]
海洋観測用機器
海洋開発には予備調査が不可欠である。したがって科学調査用の機器がこの分野でも使用されている。また、従来のように観測船、作業船からワイヤで海中・海底に降ろす機器に加えて、ブイにつけたワイヤの下を海底に定置し、必要な深度に測器を取り付けて長時間のデータを自動記録させ、超音波自動切り離し装置により得られたデータを回収する定置式観測機器の使用が増えている。ことに海中工事、海洋構造物の建設など、洋上の一固定点で長時間作業を行う際の環境予備調査には、定置式が多く使われている。観測機器も、海洋観測の周辺機器といえる深海潜水調査船のマニピュレーター、海中テレビ、海中カメラ、海中ステレオカメラ、投光器、前方障害物探知ソナー類も、深海底熱水鉱床の発見で、従来要求されていた耐圧・水密性、耐腐食性、耐電食性に加えて、耐熱性も求められるようになってきた。
[半澤正男]
海洋開発支援用機器
海(船)上基地と海中の潜水調査船や海中居住区を結ぶ水中通話機、海上基地と陸上を結ぶ人工衛星利用の通信装置など、海中・空中通信システムで開発の急がれる分野が多い。また、作業船の洋上固定点標定装置も急速な発達をみているが、なおいっそうの精度の向上、深度の増加、安定性が望まれている。
[半澤正男]
海底石油開発機器
現在、海洋開発の中心は海底石油の開発である。石油を例にして開発がどのように行われるかを述べよう。
[半澤正男]
探査
石油埋蔵の公算の大きい背斜構造の発見が目的である。地質調査と、磁気・重力測定、人工地震などによる物理調査があり、調査船、航空機により実施される。
[半澤正男]
試掘
背斜構造の海底地層が発見されると、その頂部を目標にボーリングが行われる。直接地層の性質を調べ、さらに深くボーリングして、石油ガスの噴出などの油徴(石油がにじみ出ている場所)があれば、それらの品位、埋蔵量などを調査し、生産計画をたてる。試掘には、掘削装置(掘削リグ)のある試掘作業船や、ジャッキアップ式、半潜水式など各種の作業台(プラットホーム)が用いられる。また、探査・試掘の際、固定点標定装置の精度・作業能力に負うところが大きい。
[半澤正男]
生産
生産が決定されると、かなり恒久的な生産設備をもった作業台を油田の上の海上に設ける。作業台は著しく巨大化しており、石油精製設備(ガス分離、油水分離、液化など)、石油貯蔵設備(タンカーに積み込むまでの一時貯蔵)、送油設備(パイプラインで送る場合の加圧ポンプなど)、船舶係留、資材貯蔵、動力発生、作業員居住などの設備、ヘリポートなどを備え、現場での原油生産・貯蔵ができるものがつくられている。
[半澤正男]
海洋開発の周辺
海洋開発と法
陸上における開発のように、海洋開発も法の規制を受けるのは当然である。ことに、公海の占める面積の大きい海洋では、国際関係の比重が大である。しかし、海洋の開発自体がまだ緒についたばかりなので、日本の国内法もまだ総合的、体系的に整備されたとはいえない。国際法も、数次にわたる国連の海洋法国際会議の末、1982年国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約)が採択され、1994年に発効した。海洋環境保全、とくに海洋汚染防止については世界的に関心が高まり、国内法、国際条約の整備が進んでいる。以下にそれらを列挙する。
[半澤正男]
海洋開発に関する国内法
(1)海洋鉱物資源開発に関する法律 (a)鉱業法、(b)石油及び可燃性天然ガス資源開発法
(2)生物資源開発に関する法律 (a)漁業法、(b)海洋水産資源開発促進法
(3)海洋スペースの開発に関する法律 (a)港湾法、(b)船舶法、(c)船舶安全法、(d)海上衝突予防法
(4)海洋環境保全に関する法律 (a)海洋汚染防止法、(b)環境基本法
[半澤正男]
国際海洋法
(1)第一次国連海洋法会議 国連国際法委員会が1951年より条約草案作成、1958年ジュネーブで86か国が参加して開催され、いわゆる海洋法四条約が採択された。
(2)第二次国連海洋法会議 1960年、88か国が参加してジュネーブで開催されたが、合意に至らなかった。
(3)海洋汚染防止条約 政府間海事協議機関IMCO(現、国際海事機関IMO)によって1973年開催された会議で合意をみた。国際的な科学調査は、政府間海洋会議(IOC)、ユネスコが推進にあたっている。
(4)第三次国連海洋法会議(第2会期) 1974年、137か国が参加してカラカスで開催されたが、合意に至らなかった。
(5)深海底鉱物資源に関する協定 1982年9月、海洋資源開発の先進国、アメリカ、イギリス、フランス、当時の西ドイツの4か国が「深海底鉱物資源の鉱区調整に関する相互国協定」に調印した。4か国の国家・企業が探査・開発しようとする海底鉱区を調整するのが目的である。国際的な合意の成立以前に4国が協定によって開発に踏み切ることは、将来、海洋法条約の参加国との間に鉱区の重複がおこったり、開発途上国の諸権利と抵触したりする可能性が大きく、紛争は避けられないといわれ、深海底開発についての国際関係は重大な局面を迎えた。
(6)第三次国連海洋法会議(第11会期) 1982年12月、国連海洋法条約採択、1994年発効。領海の幅、排他的経済水域(EEZ)の設定、大陸棚に対する沿岸国の権利、海洋生物資源等の保存・利用、深海底開発に関する秩序などを定めた。
[半澤正男]
日本の海洋開発
世界的に海洋開発の機運が盛んになった1960年代後半から、日本でも政治・行政面での対策が動きだした。
国の総合施策としての方針作成には、内閣総理大臣の諮問機関、海洋開発審議会(現、文部科学省科学技術・学術審議会海洋開発分科会)が設置され、1978年(昭和53)2月27日、「長期的展望にたつ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」の諮問がなされた。これに対して1979年8月15日に基本的構想についての第一次答申が、1980年1月22日には推進方策についての第二次答申が提出された。さらに、2002年(平成14)8月1日、持続可能な海洋利用の実現に向けて、21世紀初頭の日本における海洋政策のあり方について、2003年1月17日には海洋科学に関する新たな研究開発法人の設立についての答申が提出された。
現在、海洋開発推進の中心的官庁はないが、文部科学省研究開発局海洋地球課、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物資源課、国土交通省総合政策局海洋政策課などが海洋開発政策の企画立案にあたっている。
海洋開発の基本となる海洋調査機関には、気象庁(地球環境・海洋部、日本海海洋気象センター)、海上保安庁(海洋情報部、各管区海上保安本部海洋情報部)などがあり、つねに基礎海洋情報の収集にあたっている。海底、海洋地質の調査には、産業技術総合研究所地質調査総合センターがある。そのほか、東京大学の大気海洋研究所をはじめ各大学の地球物理学科、海洋学科や、気象庁気象研究所などの官庁の研究所においても、基礎的な調査・研究・観測が行われている。さらに石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の海洋資源調査船白嶺(はくれい)や、海洋研究開発機構(JAMSTEC(ジャムステック))などの活動もある。
また、「海――その望ましい未来」をメーンテーマとして開催された沖縄国際海洋博覧会(1975~1976)は、広く一般に海洋開発の意義と重要性を認識させた記憶さるべき行事であった。
[半澤正男]
海洋開発の将来
海洋の開発と保全とは、海に囲まれてしかも資源に乏しい日本にとって重要な課題である。日本の海洋開発は、海洋開発審議会の第二次答申にもあるように、国際的な200海里水域への沿岸管轄権拡大の趨勢(すうせい)に適切に対処し、社会・経済の維持発展に不可欠な海洋の資源・エネルギー・空間の利用を強力に推進し、かつ、これと一体としての環境保全に十分配慮しつつ、海洋調査を総合的・飛躍的に拡大することを大目的としている。答申にも、海洋の清浄な自然環境の保全が強調され、環境との整合性がつねに考慮されなければならないとされているのは、人類の、おそらく最後の資源の源泉であり、また楽園といえる海洋環境保全への意欲がうかがえる。その意味から、国際間の海洋開発の協調性が要求されているのも当然のことである。
われらの海、これを上手に開発利用し、人類の幸福に永遠に役だてていくか、あるいは目前の利益に拘泥して、この貴い処女地を汚染してしまうかは、海洋開発に携わる人のみでなく、全国民、全人類の心構えにかかっているといえよう。
[半澤正男]
『佐々木忠義監修『海洋開発』全6巻(1969~1971・海洋開発センター出版局)』▽『加藤一郎ほか著『海』(1972・東京大学出版会)』▽『藤井清光著『海洋開発――技術とその将来』(1974・東京大学出版会)』▽『通産省資源エネルギー庁海洋開発室・運輸省船舶局技術課編『海洋開発技術ハンドブック』(1975・朝倉書店)』▽『海洋工学ハンドブック編集委員会編『海洋工学ハンドブック』(1975・コロナ社)』▽『高野健三著『海のエネルギー』(1984・共立出版)』▽『『これからの海洋開発――21世紀に向けて』(1988・日本海洋開発建設協会、山海堂発売)』▽『藤井清光・田中彰一著『新時代の海の利用』(1990・東京大学出版会)』▽『川名吉一郎・鶴崎克也著『海洋開発のおはなし』(1993・日本規格協会)』▽『近藤健雄著『環境創造をめざす21世紀の海洋開発』(1994・清文社)』▽『寺本俊彦編著『研究者たちの海』(1994・成山堂書店)』▽『日本科学技術振興協会編『日本の海洋開発――無限の海洋資源に挑む科学技術』(1995・教育図書刊行会)』▽『国際海洋科学技術協会編、通商産業省監修『海洋開発と新素材』(1995・通産資料調査会)』▽『近藤俶郎編著、上原春男・木方靖二・宮崎武晃・谷野賢二著『海洋エネルギー利用技術』(1996・森北出版)』▽『堀田宏著『深海底からみた地球――「しんかい6500」がさぐる世界』(1997・有隣堂)』▽『吉田宏一郎監修、元綱数道・熊倉靖・高橋義明著『海洋工学の基礎知識』2訂版(1999・成山堂書店)』▽『海洋産業研究会編・刊『21世紀の海洋開発と海産研30年の歩み』(2000)』▽『柳哲雄著『海の科学――海洋学入門』第2版(2001・恒星社厚生閣)』▽『日本海洋開発建設協会海洋工事技術委員会編『世界の海洋土木技術』(2001・日本海洋開発建設協会、山海堂発売)』▽『政経調査会編・刊『我が国の海洋開発――科学技術創造立国への挑戦』改訂版(2001・政経文化研究会発売)』▽『関根義彦著『海洋環境アセスメント――数値モデルとその限界』(2002・成山堂書店)』▽『瀬川爾朗編『海底と宇宙に資源を求めて――海底資源学概論』(2002・講談社)』▽『近藤健雄監修『科学がつくる21世紀のくらし5 海洋開発――生活の資源をつくる』(2003・リブリオ出版)』▽『佐々木忠義著『海洋開発――探検から開発の時代へ』(講談社現代新書)』