打上げ軌道(読み)うちあげきどう(その他表記)launch trajectory

改訂新版 世界大百科事典 「打上げ軌道」の意味・わかりやすい解説

打上げ軌道 (うちあげきどう)
launch trajectory

人工衛星を目的の最終軌道衛星軌道orbit)に投入するまでの軌道。人工衛星として半永久的に地球を周回するためには,衛星をある程度以上(通常200km以上)の高度に運搬し,さらにある速度以上(例えば高度200kmであれば約7.8km/s以上)に加速しなければならないが,この過程が打上げ軌道である。ロケットが必要とされるのはこの打上げの段階であり,いったん衛星軌道に投入されれば衛星は自動的に地球を周回する。衛星になるために必要な速度を1段ロケットで出すのは困難であるため,通常液体燃料であれば2段式,固体燃料であれば3ないし4段式のロケットが使用される。また惑星間飛行あるいは静止衛星のように高いエネルギーが必要とされる場合に,さらに上段にロケットが追加される。

 打上げ軌道は目的衛星軌道(近地点高度,遠地点高度,軌道傾斜角など)に応じて設計され,その軌道に沿うようにロケットの推力方向が制御される。目的衛星軌道になるべく大きな衛星を投入できるものでなければならないが,同時に空気力あるいはそれによる空力加熱に対してロケットの機体が耐えうるような配慮がなされねばならない。濃厚大気中を上昇する第1段では機体軸をほぼ空気流の方向に向け,機体に空気力による過大な荷重がかからないようにする。このような軌道は無揚力軌道zero lift trajectoryと呼ばれる。真空中を飛行する第2段以降では機体軸の方向(したがって推力の方向)を比較的自由に選べるので,燃料消費が最小となるような軌道制御が行われる。一般に,発射場では安全上の観点から打上げ方位が制限されており,各段ロケットの落下点とあわせて考慮されねばならない。スペースシャトルを例にとるとシャトルは主エンジン(SSME),2基の固体ブースター(SRB),軌道操縦装置用エンジン(OMS)からなり,SSMEとSRBを同時に点火して垂直に離陸する。5秒後に機軸を傾けて軌道をねかせはじめ,発射約2分後に使用済みのSRBを高度45kmで分離する。この後SSMEのみにより上昇を続け,約8分後にSSMEを停止,外部燃料タンクを分離,以後OMSを2回に分けて噴射することにより所定の軌道に入る。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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