翻訳|satellite
惑星などの周囲をその引力のもとに運動する天体をいう。現在のところ、太陽系では水星と金星には発見されていないが、その他の惑星はすべて衛星をもっている。一般に母惑星に比べ、直径は数十分の1から数千分の1、質量も数千分の1以下であるが、地球の衛星(月)は例外であって、直径は地球の約4分の1、質量は81分の1である。なお20世紀以降、地球を周回する人工衛星が多数つくられたが、ここでは天然の衛星について述べる。「人工衛星」については、その項目を参照されたい。
[大脇直明]
月を除き、他の惑星にも衛星があることを初めて発見したのはガリレイで、1610年に木星の4個(イオ、ユーロパ、ガニメデ、カリスト)を観測した。今日ガリレオ衛星とよばれるものである。その後、17世紀後半にオランダのホイヘンスが土星の衛星(チタン)を発見し、さらにパリ天文台のカッシーニが同じく土星に4個の衛星(イアペトス、レア、ディオネ、テチス)を発見した。19世紀にはアメリカのホールが火星に2個の衛星(デイモス、フォボス)を発見したが、この150年ほど前に刊行された『ガリバー旅行記』に、すでに火星の2衛星について詳細に述べられていたというのは有名な話である。以後、地上からの観測により相次いで各惑星に衛星が発見され、未発見の惑星は水星と金星のみとなった。さらに1970年代以降は、惑星探査機によって外惑星に新しい衛星の存在が確認された。おそらくこれらの惑星には微小な衛星がまだ存在し、これからも発見される可能性があろう。
衛星は、その運動に関して古来天体力学の重要な研究対象であったが、1980年代以降の宇宙探査などにより、衛星の大きさ、形状、物理的・化学的性質や諸現象が明らかとなり、衛星自体の成因や進化のみならず、母惑星の、ひいては太陽系のさまざまな諸問題を明らかにする手掛りを与えつつある。
[大脇直明]
(1)一般に衛星の離心率(軌道離心率。円錐曲線の形を決める定数で、0だと円、0より大きく1より小さいと楕円(だえん)、1と等しいと放物線、1より大きいと双曲線となる)は小さい(海王星第2衛星ネレイドなどは例外)。
(2)母惑星の赤道面(天体を赤道で輪切りにしたときの平面)に対する衛星軌道面(衛星が惑星を周回するときに描く円の平面)の傾斜角は90度より小さい。すなわち、母惑星の自転方向と同じ方向に公転する(順行)ものが多い。ただし、木星・土星・海王星にはそれぞれ例外がある。
(3)公転周期(天体が他の天体を周回するのに要する時間。この場合は惑星の周りを衛星が周回するのに要する時間)は一般に母惑星の自転周期(いずれも対恒星)より長い(例外は火星の第1衛星および木星の第15、第16衛星)。
[大脇直明]
(1)火星の第1衛星フォボスは、前項(3)のように公転周期は火星自転周期より短い。
(2)木星では、4個のいわゆるガリレオ衛星は、対赤道面傾斜角も離心率も小さく、そのかわり、木星の他の衛星に比べ大形である。第3衛星ガニメデは太陽系中最大である。また、第1衛星イオ、第2衛星ユーロパ、第3衛星ガニメデの公転周期の比は1:2:4という有理数比で、それぞれの平均運動をn1、n2、n3とするとき、n1-3n2+2n3=0という関係があり、3衛星の運行に特別な状況となって現れる。外側の第8衛星パシファエ、第9衛星シノペ、第11衛星カルメ、第12衛星アナンケなどは軌道傾斜が90度より大きい(木星自転の方向に対し逆行する)。ガリレオ衛星では大気、氷、水、岩石圏の存在が明らかになってきた。
(3)土星では、母惑星から中ごろの距離にあるものが大形で、第6衛星チタンは太陽系第2の大きさである。第9衛星フェーベは逆行で離心率も大きい。木星、土星とも外側のものに逆行があるのは興味深い事実である。なお、土星の衛星系にはティティウス‐ボーデの法則に似た近似関係があり、第2衛星エンケラドゥスの軌道長半径を4とすると、各衛星の長半径は4+2nで表される(nは衛星番号、第1衛星ミマスはn=-∞とし、第11衛星エピメテウスと環は除く)。ミマスと第3衛星テチスとの公転周期は約1:2、エンケラドゥスと第4衛星ディオネも1:2、チタンと第7衛星ヒペリオンは3:4で、天体力学上、重要な問題を提供する。チタンには大気、氷、水、岩石圏がみいだされている。また第8衛星イアペトスは振幅が1等に及ぶ変光(明るさが変化すること)をし、諸衛星の変光中最大である。たぶん不均一な表面の自転によるものであろう。土星には、このほか多くの微小衛星が存在するようである。
(4)天王星の衛星軌道面は、すべて天王星赤道面に対しほぼ平行であるが、天王星の赤道面は、天王星公転軌道面(天王星が太陽の周りを公転するときに描く円の平面)に対して97度9分傾いているので、衛星軌道面は天王星公転軌道面に対してほぼ直角である。衛星の大きさは外側のものが大きい。
(5)海王星では、内側の第1衛星トリトンが逆行で、大きさも大きいが、外側の第2衛星ネレイドは順行で、大きさはトリトンの8分の1にすぎない。そのかわり離心率は0.75と異常に大きく(太陽系内で彗星(すいせい)と一部の小惑星を除いて最大)、著しく細長い軌道をもつ。ちなみに月の離心率は0.0549である。このように衛星の運動および衛星自体にはいろいろ興味ある事実があり、これらは、衛星はもちろん、惑星や太陽系についての諸問題を解明する重要な手掛りとなる。
なお、土星に環のあることは、すでに17世紀、ホイヘンスにより発見されているが、1970年代以降、木星、天王星、海王星にも環のあることがわかった。これらの、小惑星帯より外側の惑星に関し、環の存在やその特性は衛星の特性とともに重要な課題を提供するものである。
[大脇直明]
『ロン・ミラー、ウィリアム・K・ハートマン著、小尾信彌監修『太陽系35の惑星と衛星』(1982・旺文社)』▽『アイザック・アシモフ著、小原隆博訳『わたしたちの太陽系』(1989・福武書店)』▽『小森長生著『現代の惑星学』(1992・東海大学出版会)』▽『和田昭夫著『太陽系――恒星とギャラクシー』(1995・近代文芸社)』▽『アレクセイ・アレクサンドロヴィチ・マラークシェフ著、押手敬・小森長生・青木斌訳『太陽系の起源と進化――地球誕生の謎をさぐる』(1997・東海大学出版会)』▽『松井孝典・永原裕子・藤原顕他著『岩波講座 地球惑星科学12 比較惑星学』(1997・岩波書店)』▽『斉藤国治著『星の古記録』(岩波新書)』▽『中冨信夫著『太陽系グランドツアー――ボイジャー1・2号の旅』(新潮文庫)』▽『小森長生著『太陽系を翔ける』(新日本出版社・新日本新書)』
惑星のまわりを公転する比較的小さい天体。現在約50個が知られているが,今後さらに増える可能性がある。地球の月も衛星であり,衛星のことを単に月moonということもある。月以外の衛星はすべて望遠鏡を使って発見された。最初に発見されたのは木星の4個の衛星で,発見者にちなんでガリレオ衛星と呼ばれている。1610年G.ガリレイはその規則正しい運動を観測して,そこに太陽系の縮図を見つけ,これが地動説をとる支えになったといわれる。このように衛星はそれぞれ特定の発見者があり,観測が進んで軌道が決定すると番号と名まえが与えられる。しかし,近年,惑星探査機によって発見された小衛星は,地球からは観測できないものも多く,その取扱いをどうするかは今後の課題である。
水星と金星は衛星をもたない。地球と冥王星は母惑星に比し,例外的に大きな衛星を1個だけもっている。火星は不規則な形をした小衛星を2個もっている。木星,土星,天王星は多数の衛星をもっており,海王星も既発見の衛星の数は少ないが,未発見のものがある可能性がある。大多数の衛星はその母惑星の赤道面に沿う平面のあたりを,ほとんど円に近い軌道を描いて母惑星の公転と同じ向きに公転している。もちろん例外もある。木星の外側の4個は逆行衛星であり,軌道半径がほぼ等しく,離心率が大きいという特徴を有する。その約半分の軌道半径をもつ4個の衛星もグループを作っており,逆行はしていないがやはり離心率が大きい。土星のもっとも外側の衛星も逆行衛星であり,離心率が大きい。天王星の衛星は母惑星の赤道面が98度も傾いているため,惑星軌道面に対しては大きな傾き角をもつ。海王星の内側の大きな衛星トリトンは逆行しており,外側の小さな衛星ネレイドは順行ではあるが,0.75というとびぬけて大きな離心率をもっている。一説によれば,冥王星はもと海王星の衛星であり,なんらかの異変によって海王星から逃げ出した。こう考えると冥王星が大きな離心率をもって海王星の軌道の内側まで入り込んでくることや,海王星衛星の不思議なふるまいが説明できるという。その冥王星自体が衛星をもつことが知られたのは1978年で,軌道面は天王星と似て傾きが大きい。
衛星間の相互作用は天体力学的に興味あるものが多い。木星のガリレオ衛星のうち内側の3個の公転周期は1:2:4にきわめて近い。土星のミマスとテチス,エンケラドスとディオーネもそれぞれ1:2にきわめて近い。これらの衛星の間の摂動はかなり大きいことが知られている。惑星探査機ボエジャー1,2号は土星の小衛星を多数発見したが,その中にテチスとディオーネのラグランジュ点にあるものがそれぞれ2個および1個含まれている。ラグランジュ点は天体力学の三体問題に出てくる平衡点で,そのうち正三角形解と呼ばれる点が安定なことは,木星に対する小惑星のトロヤ群の実例が知られていた。
衛星の半径や質量とそれから求められる平均密度はよくきまっていないものも多いが,半径が水星より大きいものが2個,月より大きいものが2個ある。質量はどれも水星より小さいが,上記の4個は月よりは大きい。平均密度はよくきまらないものを除くと1.1~3.6g/cm3に入っており,1に近いものはほとんど氷でできていると考えられる。氷といってもH2OだけではなくNH3やCH4の固体を含んだすい星と同じような組成をもっている可能性がある。表面の地形はクレーターが一般的であるが,クレーターの数や大きさはそれぞれ特徴がある。氷原で覆われたユーロパのような衛星もあれば,一部が外からふってきた黒い物質で覆われているヤペタスのような衛星もある。したがってアルベドも数%~数十%とばらついている。もっとも特徴ある衛星は火山のある木星のイオと大気のある土星のチタンである。
執筆者:田中 済
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(土佐誠 東北大学教授 / 2007年)
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