1930年代初め,ソ連邦での社会主義リアリズム論の台頭とともに,その対概念としてゴーリキーらによって使われはじめた文芸用語。広義には19~20世紀の写実主義文学全般について用いられ,ディケンズ,バルザック,フローベール,マーク・トウェーン,ドライサーらの文学が社会の矛盾をつき,現実批判の機能を果たしたことが強調された。しかし,批判的リアリズムを方法的自覚にまで高めたのは19世紀ロシア文学であった。そこではゴーゴリ,ツルゲーネフ,ゴンチャロフ,トルストイ,チェーホフらの文学が,専制政治と農奴制ロシアの否定面をあばいて体制への抗議を呼びさまし,〈余計者〉という独自の文学的形象を生み出した。ベリンスキー,チェルヌイシェフスキーらの批評活動がこれに呼応し,〈現実に判決を下す文学〉というドブロリューボフの言葉はこの方法を要約したものといえる。ただ,この用語は文学の社会性を一面的に強調するうらみがあり,たとえばドストエフスキーの文学には,この方法によっては迫りにくい。
執筆者:江川 卓
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…同規約では,〈社会主義リアリズム〉とは,〈現実をその革命的発展において,真実に,歴史的具体性をもって描く〉方法であり,その際,〈現実の芸術的描写の真実さと歴史的具体性とは,勤労者を社会主義の精神において思想的に改造し教育する課題と結びつかなければならない〉とされた。この定式は,1932年4月,文学団体再編成についての共産党中央委員会決議後,作家同盟準備委員会でのゴーリキー,ルナチャルスキー,キルポーチンValerii Yakovlevich Kirpotin(1898‐1980),ファジェーエフらの討論を経てまとめられたもので,討論の過程では,社会主義リアリズムとは,〈社会主義が現実化した時代のリアリズムである〉,〈19世紀ロシア文学の方法とされた“批判的リアリズム”が,現実の欠陥,矛盾をあばきながら,その批判を未来への明るい展望と結びつけられなかったのとは異なり,革命的に発展する現実そのものの中に未来社会への歴史的必然性を見いだす新しい質のリアリズムである〉,その意味でこれは〈革命的ロマンティシズムをも内包する〉と強調された。実作面でこの方法に道を開いた作品としては,ゴーリキーの諸作品,とくに《母》(1906),ファジェーエフの《壊滅》(1927),N.A.オストロフスキーの《鋼鉄はいかに鍛えられたか》(1932‐34)などが挙げられた。…
※「批判的リアリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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