技術予測(読み)ぎじゅつよそく(英語表記)technological forecasting

改訂新版 世界大百科事典 「技術予測」の意味・わかりやすい解説

技術予測 (ぎじゅつよそく)
technological forecasting

将来の技術の推移について,一定の手法によって見通しを立てること。私たちが将来に向けてある行動を起こそうと考えた場合,通常むやみに行動するのではなく,過去の経験や学問的・理論的知見を手掛りに,将来に対するなんらかの見通しを立てたうえで行動を起こす。このような見通しは数日先から数十年先までと種々のものが考えられるが,企業の将来計画・事業計画や,国の政策等においては,見通すべき期間も比較的長く,また同時に見通しの確かさが企業の浮沈や国民生活に少なからず影響を及ぼすこととなる。

 一方,現代社会においては,産業・経済のみならず社会生活,軍事等ほとんどすべての分野において,技術が非常に強い影響を及ぼしているので,計画を立てる場合には,将来の技術に対するなんらかの見通しが不可欠となる。この将来技術の見通しを技術予測と呼ぶ。これは,企業や国の計画に対して技術発展がどのようにかかわってくるかを予測するものであるが,同時にまた企業や国の計画を実現するためには,どのような技術が必要となるかを明確にするために用いられる場合もある。

 技術予測においては,その予測を単なる直観的判断や推測のみによることを避け,より合理的な方法・手法を取り入れようと努力がなされている。このためには,(1)予測で用いる種々のデータは信憑(しんぴよう)性が高く,かつ再現可能性をもつこと,(2)推論は現実的な発展傾向に基づき,かつ技術の発展メカニズムの内的な構造をより詳細に反映したものであること,(3)予測それ自体は目的ではなく,計画立案者や意思決定者にとってわかりやすいもの,追検証が可能なものであること,(4)単一の結論ではなく,計画立案に資するためいくつかの代替案提示およびそれぞれの代替案の予測される結果を提示すること,などが要求される。現実的には,これらの条件を満たした形で技術予測が行えるという恵まれた場合は多くなく,予測活動の避けられない限界として,不確実・不十分なデータのもとで予測が行われるのが実情である。

技術予測に用いられる方法は非常に数多く,1965年にOECD欧米を中心とした13ヵ国に対して実施した調査においても,約100種にのぼる手法があげられている。技術予測は現在においても確立された分野ではなく,それぞれの計画立案当事者がそれぞれの目的に応じて,さまざまの方法・手法をもって行っているのが実情である。また単一の方法・手法のみで予測が実施される例よりも,さまざまの方法・手法を適宜組み合わせ総合的な取組みを行うことが一般的である。これまでに数多く提案されている技術予測の方法を形態的にみた場合,(1)直観的手法,(2)探索的手法,(3)規範的手法の三つに分類される。

人間の直観力をそのまま利用する方法で,予測手法としては最も原始的ではあるが,物理現象のように内的メカニズムが解明されていない技術予測においては,優れた個人の直観力が他の方法のどれよりも的確に将来を見通す場合も少なくない。この範疇はんちゆう)の手法として一般的なものにブレーンストーミングbrain-stormingやデルファイ法delphi techniqueがある。また空想科学小説も直観的予測の一角をなすといえよう。

 このような直観的予測が手法として多用されるのは,これを単なる個人の予想に終わらせず,デルファイ法のように,(1)優れた個人・専門家が予測する,(2)その集約結果を専門家にフィードバックする,(3)集約結果を参照し再度予測を行う,というプロセスを何回か繰り返し予測の精度を向上する試みがなされている点にある。また結果的に専門家の意見が収斂(しゆうれん)されるので,合意形成の方法として用いられることもある。

世の中の事象には,なんらかの因果関係に基づき連続的に変化するものが多い。技術の分野でも,トランジスター,IC,LSI,超LSIというように,集積度パラメーターとして連続的発展を遂げているものが多い。このような場合に,過去の発展傾向等から将来を予測することができ,このような手法を傾向外挿法と呼んでいる。過去の発展傾向を分析するためには,発展にかかわるさまざまの要因について多変量解析法(回帰分析・相関分析・主成分分析等)等の数学的方法を用いる例も多い。また,トランジスターの出現から,IC,LSIの出現を予測することは比較的容易であるが,技術の不連続性を伴う技術予測においては,DC発電機からAGシンクロトロンへの発展を巨視的にみる包絡曲線法などが用いられる。探索的手法においては,いずれにせよ技術の包含するどのようなパラメーターに規則性・法則性を見いだすかという点が最も重要である。

規範的手法は,探索的手法とは逆に,将来到達すべき目標をまず明確にし,その目標を効果的に達成するためにどのような技術的課題が解決されなければならないか。またこれらの技術的課題の実現可能性からみて,目標設定が的確であるかを分析する方法である。代表的な手法に関連樹木法があり,これをより大がかりな方法としたアメリカ,ハネウェル社のPATTERN(Planning Assistance Through Technical Evaluation of Relevance Numbers)では,各構成要素間の相対的重要度を算出することができる。

技術予測では,直観的手法・探索的手法・規範的手法がさまざまに組み合わせて用いられるが,このような手法によって得られたさまざまの予測データの前後関係を分析・整理し,意思決定者に理解しやすい物語(シナリオ)の形にとりまとめる方法として,シナリオ・ライティング法がある。
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百科事典マイペディア 「技術予測」の意味・わかりやすい解説

技術予測【ぎじゅつよそく】

将来どのような技術が開発されるか,あるいは技術がどのように推移するかを予測すること。最近では技術の規模が著しく大きくなり,その範囲も極度に広がっている。そのため,技術の進歩の影響がはなはだしく複雑になり,従来は技術の対象として考えられなかった新しい分野まで技術の対象として考える必要が生じている。さらに技術の発達の結果,人間の欲求が質的に変化することも予測しなければならない。最近ではこうしたことを考慮して技術予測を行うので,予測方法は一層むずかしくなっている。最も広く使われるのはデルファイ法で,多くの専門家に対しアンケートによる広範な質問を行い,その回答をまとめ,次に回答を付して同じ質問を再び行い,これを繰り返してどのような結果がまとまるかを調べる方法である。これによって人間の欲求や社会的ニーズが将来どのように変化するかを調べ,これをもとに技術予測を行う。また技術開発が環境に与える影響も調査して技術予測を行うことも重要である。
→関連項目テクノロジー・アセスメント

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「技術予測」の意味・わかりやすい解説

技術予測
ぎじゅつよそく
technological forecasting

研究開発を行なうに当たっては対象となる技術を絞るほど効率は良くなるが,その場合,事業化に適しない技術を選択することのないようにしなくてはならない。そのためには技術的な側面のみに偏ることなく,選択肢の評価を行なう必要がある。日本では1社がある技術を開発しようとすると,参入する企業が相次ぎ,狭くて収益の上がらない市場で多くの企業が競争を繰り広げるということがよく見られる。このようなことを避けるために自社内で技術予測を体系的に行なうことが重要である。

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知恵蔵 「技術予測」の解説

技術予測

1970年代の初めに科学技術庁(当時)が始めた科学技術の将来像を探る調査。多数の技術課題について実現時期を専門家にアンケートし、回答者にその集計結果を知らせた上でもう一度実現時期を尋ねるというデルファイ法を用いる。ほぼ5年ごとに実施され、類を見ない大規模かつ継続的調査として世界的にも注目されている。2005年に第8回調査がまとまった。

(高橋真理子 朝日新聞記者 / 2007年)

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