改訂新版 世界大百科事典 「抵抗材料」の意味・わかりやすい解説
抵抗材料 (ていこうざいりょう)
electric resistance material
抵抗に用いられる材料。物質にある電圧Eをかけると,ある一定の電流Iが流れるが,このときの電流の流れにくさはE/Iで表すことができる。この値を電気抵抗という。一定の電気抵抗を示す素子は〈抵抗〉と呼ばれ,現代の花形であるエレクトロニクスを支える縁の下の力持ち役を果たしている。抵抗の材料には種々の合金あるいは炭素が用いられている。金属中で電流を担っているのは原子から原子へと自由に動きまわっている伝導電子である。もし金属が一つの完全な結晶であり,伝導電子と衝突してその運動の方向を変化させるもの(散乱体)が存在しなければ電気抵抗は0になるが,実際には不純物原子,結晶構造の乱れ(格子欠陥),界面,結晶格子の熱振動などの散乱体が存在し,有限の電気抵抗が生じる。一般に,金属の抵抗材料では合金化,薄膜化などを通して散乱要因を積極的に導入し,一定の形状の抵抗体に対する電気抵抗(電気抵抗率)を大きくすべく努めている。金属の抵抗率の温度係数は通常は正の値であるが,抵抗率がきわめて大きくなるとほぼ0になり,さらには負の値になることが知られている。このため,抵抗体を温度係数が0に近くなるような抵抗率に調整して使用することが多い。薄膜抵抗素子は形状的要因も加わって抵抗値を大きくすることが容易なので,現在実用に供されている抵抗素子の主流となっている。合金を材料とする抵抗素子は表に示すように薄膜,線状,薄板のものがあり,いずれも他の材料のものより精度,安定性,温度係数など諸特性に優れている。なかでも高価ではあるが薄板のものはすべての特性に優れており,理想的な抵抗素子といえよう。現在最も多量に生産されているのは炭素を原料にした抵抗素子である。これはきわめて安価ではあるが,合金のものと比較して雑音が一けた以上も多く,他の特性もかなり劣っている。このほかに,SnO2を主体とした金属酸化物,金属粉末とガラス粉末を有機物バインダーで固めたメタルグレーズ,タンタルなどの窒化物の薄膜,サーメットと呼ばれるCr-SiO2のような金属と無機物の混合薄膜を材料としたものなど,多種類の抵抗材料がそれぞれの特徴を生かして使用されている。
執筆者:七尾 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報