改訂新版 世界大百科事典 「拡散被覆」の意味・わかりやすい解説
拡散被覆 (かくさんひふく)
diffusion coating
被処理材のまわりに金属粉末とハロゲン化物を充てんして密閉し,適当な時間,適当な温度に加熱保持することによって,表面に金属の拡散浸透層を生成させる処理法をいう。たとえば,炭素鋼を金属クロム粉末,アルミナ粉末(焼結防止剤),塩化アンモニウム粉末などといっしょに加熱して表面だけをステンレス化する方法などがある。処理の性質上,皮膜は素地金属と拡散する金属との合金となる。炭素鋼の表面に耐食性,耐摩耗性,耐熱性などを付与する目的で工業的に行われる拡散被覆としては,クロムを浸透させるクロマイジングchromizing,アルミニウムを浸透させるアルミナイジングaluminizing(登録商標としてはカロライジングcalorizingが有名),亜鉛を浸透させるシェラダイジングsheradizingがある。このほか,非金属であるケイ素を浸透させるシリコナイジングsiliconizingや,ホウ素を浸透させるボロナイジングboronizingなども実用化されている。技術的には古い歴史をもっており,当初は固相の接触による拡散と考えられていたが,近年の研究によると,化学蒸着(CVD)と同じで,気相化合物を媒介とした化学輸送機構によることが明らかとなった。すなわち,密閉容器内ではいったん金属ハロゲン化物の蒸気が生じ,これが被処理材表面で熱分解あるいは還元されて金属が析出し,拡散浸透して皮膜が形成される。拡散被覆法は,化学蒸着法の変形として展開されていくものと思われる。
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報