炭素鋼(読み)タンソコウ(英語表記)carbon steel

翻訳|carbon steel

デジタル大辞泉 「炭素鋼」の意味・読み・例文・類語

たんそ‐こう〔‐カウ〕【炭素鋼】

2パーセント以下炭素を含有する鉄。加工が容易で、プレス成形用薄板や各種工具に用いられる。その含有量が高いほど鋼は硬くなるがもろくなる。一般的に広く使用されることから、普通鋼ともいう。→特殊鋼

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精選版 日本国語大辞典 「炭素鋼」の意味・読み・例文・類語

たんそ‐こう‥カウ【炭素鋼】

  1. 〘 名詞 〙 炭素含有量が二パーセント以下の鋼。その含有量が高いほど鋼は硬くなるが、反面もろくもなる。炭素含有量により、極軟鋼・軟鋼・半軟鋼・半硬鋼・硬鋼・最硬鋼に、また、用途により、構造用炭素鋼・炭素工具鋼・ばね鋼・刃物鋼・ピアノ線材などに分けられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「炭素鋼」の意味・わかりやすい解説

炭素鋼
たんそこう
carbon steel

鉄と炭素を主成分とし,ケイ素マンガンおよび不純物リン硫黄,銅をわずかに含む鉄鋼材料。性質はだいたい炭素量で決る。常温の炭素鋼の標準組織成分は軟らかい地鉄フェライト (α-Fe) と硬い炭化物セメンタイト ( Fe3C ) で,炭素が少ければフェライトが多くて軟らかく,炭素が多ければセメンタイトが多くて硬い。炭素量はおよそ2%以内で,これより炭素の多いものは遊離黒鉛が析出して鋳鉄になる。炭素 0.8%は,高温で安定な均一固溶体オーステナイト (γ-Fe) がフェライトとセメンタイトに共析する組成で,全面が共析組織パーライトになる (→鉄鋼の変態 ) 。これを共析鋼といい,これより炭素の少いものを亜共析鋼,多いものを過共析鋼という。この組織名称とは別に硬さによる実用区分として,極軟鋼,軟鋼,半硬鋼,硬鋼,極硬鋼の別がある。炭素鋼は 800~900℃付近からの焼入れによって著しく硬化するが,これは高温のオーステナイト固溶体が急冷のため共析できず,非平衡組織のマルテンサイトになるためである。鋼の組織成分フェライトのブリネル硬さ HB は 50~100で,セメンタイトは HB 約 820であるが,両者の合成するパーライトは HB 225程度,マルテンサイトの HB は炭素量にもよるがおよそ 600~750に達する。炭素量が多いほど焼きは入りやすい。しかしマルテンサイトはもろいので,焼戻ししてマルテンサイトを軟化させ,靭性を増してから使用する。炭素鋼は安価で,しかも炭素量,熱処理によって幅広く性質が変化するから,金属材料中最も広く使われる。炭素鋼の機械的性質を改善するため少量のニッケルクロムモリブデンなどを添加した低合金鋼は炭素鋼と同じ用途に用いられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭素鋼」の意味・わかりやすい解説

炭素鋼
たんそこう
carbon steel

鉄と炭素の合金で、炭素含有量が2%以下のものをいう。鉄鉱石溶鉱炉高炉)でコークスを燃焼させて生じる一酸化炭素により鉄に還元されるが、これは約4.5%の炭素を含み、銑鉄(せんてつ)とよばれる。これを転炉に入れて酸素を吹き込み、鉄中の炭素を一酸化炭素として酸化除去して鋼とし、余分に入った酸素を除くためにマンガンやケイ素の鉄合金(脱酸剤)を適量添加したのちに固める。このようにして得られる炭素鋼はその炭素含有量によって次のように分類される。純鉄(0.03%以下)、極(ごく)軟鋼(0.03~0.12%)、軟鋼(0.13~0.20%)、半軟鋼(0.21~0.35%)、半硬鋼(0.36~0.50%)、硬鋼(0.51~0.80%)、最硬鋼(0.81~2.0%)。近年はこのように細分割してよぶことはまれであり、半硬鋼までを機械構造用炭素鋼、硬鋼と最硬鋼とをあわせて炭素工具鋼に分類したり、あるいは純鉄および極軟鋼を極低(ごくてい)炭素鋼、軟鋼を低炭素鋼、半軟鋼と半硬鋼とを中炭素鋼、硬鋼と最硬鋼とを高炭素鋼とよぶことが多い。炭素含有量が高いほど鋼は硬くなるがもろくなる。極軟鋼はプレス成形用薄板に、軟鋼は溶接が可能で、大形構造物用に、半軟鋼と半硬鋼とは車軸などの機械構造部材に、硬鋼と最硬鋼は各種工具や刃物などに用いられる。

[須藤 一]

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改訂新版 世界大百科事典 「炭素鋼」の意味・わかりやすい解説

炭素鋼 (たんそこう)
carbon steel

普通鋼ともいう。おもな合金元素として炭素を約2%以下の割合で含む鋼で,製鋼のさいにやむをえず入る不純物の微量元素以外は含まないものをいう。この微量元素は炭素,ケイ素,マンガン,リン,硫黄の5元素で,炭素とマンガンの量で炭素鋼の特性がほぼ決まる。
(はがね)
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百科事典マイペディア 「炭素鋼」の意味・わかりやすい解説

炭素鋼【たんそこう】

普通鋼とも。元素を人為的に添加していない鋼。製鋼過程でどうしても入ってくる不純物の微量元素は,炭素,ケイ素,マンガン,リン,硫黄だが,鋼の性質は炭素とマンガンの量でほぼ決まる。
→関連項目クロム鋼特殊鋼軟鋼

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化学辞典 第2版 「炭素鋼」の解説

炭素鋼
タンソコウ
carbon steel

約2質量% 以下の炭素を含むFeとCの合金.ただし,炭素鋼中には,通常,脱酸剤として添加されたSi,Mn,および不純物元素であるP,Sが含まれている.熱処理温度を適切に選定することにより,オーステナイト単相組織に制御可能であることが,炭素鋼の条件である.Fe-Fe3C系状態図によると,オーステナイト中の最大炭素固溶量は,2.14質量% であることがわかる.“約2質量% 以下”とは,オーステナイト単相組織に制御可能な炭素量という意味である.

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世界大百科事典(旧版)内の炭素鋼の言及

【製鉄・製鋼】より

…ニッケルNi,クロムCr,タングステンW,あるいはモリブデンMoなどはもとより,普通元素に属するものでも,特殊な性質を付与する目的である濃度範囲をこえて加えた場合,たとえばケイ素鋼板のSi,耐摩耗鋳鋼のMnなどはもちろん合金元素とみなされる。合金元素を含む鋼を合金鋼,合金元素を添加していない鋼を普通鋼または炭素鋼という。特殊鋼は合金鋼とふつう同意義に使われるが,その定義は国により異なる場合がある。…

【特殊鋼】より

…このうち鋼の材質を支配しているのは炭素であり,他の四つの元素は鉱石からの製銑製鋼の過程で必然的に混入する不純物である。炭素が主役を演ずるという意味で普通鋼のことを炭素鋼ともいうが,特殊鋼の場合は一般には合金鋼と呼ばれる。鋼材に使用目的に適合した性能を与えるためには,まず成分を調整する必要がある。…

【鋼】より

…鋼は種々の方法で分類される。炭素鋼と合金鋼,普通鋼と特殊鋼は主として化学成分による分類であるが,製造法,形状の相違による分類などもある(表参照)。化学成分による分類について簡単に説明する。…

※「炭素鋼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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