損益相殺(読み)そんえきそうさい

改訂新版 世界大百科事典 「損益相殺」の意味・わかりやすい解説

損益相殺 (そんえきそうさい)

不法行為債務不履行による損害賠償算定にあたって,被害者または債権者が損害をこうむった反面,その損害に関連して利益をも得ている場合における損害賠償額の調整方法。被害者または債権者が受けた利益額を損害賠償額から控除する。民法の条文上認められているものではないが,損害賠償が現実にこうむった損害の回復を目的としているものであることから,学説・判例上異論なく承認されている。たとえば,不法行為によって建物が焼失した場合,被害者に支払われた火災保険金額を,加害者から被害者に支払われる損害賠償額から控除することになる。もっともこの場合には,保険会社が被害者の権利を,支払済みの保険金額の範囲で代位行使することとなり(商法662条),加害者の負担が軽減されるわけではない。なお,不法行為による生命侵害の場合における生命保険金の支払は,火災保険等の損害保険と異なり,生命保険契約における保険料支払の対価と考えられ,損害の回復を目的としていないという理由で,この対象とはされていない。損害賠償額の調整方法である点で,過失相殺(民法418条,722条)と同一の機能を有する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「損益相殺」の意味・わかりやすい解説

損益相殺
そんえきそうさい

債務不履行や不法行為で損害を被った者が、その反面、同じ原因で利益を受けている場合には、損害賠償額のなかからこの利益を控除しなければならない、とする法原則。たとえば、生命侵害の場合、被害者は得るはずであった収入を失うが、被害者自身の生活費の支出を免れるから、賠償額のなかからこの部分を控除しなければならない。しかし、幼児が不法行為により死亡した場合には、親は養育費の支出を免れるが、これは幼児の損害賠償を算定する際に控除してはならない、というのが判例である。

淡路剛久

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