損害賠償の額を定めるにあたり,加害者に全面的に負担させるのではなく,被害者にも過失があればこれを斟酌して損害の公平な分担を図る制度をいう。不法行為だけでなく債務不履行にも適用されるが,交通事故のように事故の態様が定型化できる場合にはそれに対応した標準的な過失相殺率により事故処理がなされ,実務上も重要な役割を担う制度である。
過失相殺では,公平の理念にもとづいて賠償額が減額されるわけであるから,被害者の過失も,加害者としての過失と較べて,注意義務違反の程度が軽いものでもよく,また,責任能力が具わっている必要はない(事理を弁識するに足る知能,〈事理弁識能力〉で足りる)。このように同じ過失といっても,ここで問題とされる過失は過失相殺の制度趣旨にもとづいて付与された特別の意味合いをもつ〈過失〉であるが,これによっても幼児のように事理弁識能力も具わっていないときは,過失相殺を行うことはできない。過失相殺の指導理念である公平ということの内実が問われてくるのはこのような局面からであり,それにたいする解答として提示されたものが,被害者〈側〉の過失という法文からは離れる解釈操作である。被害者自身については〈過失〉を問うことができないとしても,被害者本人と身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係にある者の過失があればこれを斟酌することができるとされるのは,損害賠償額の公平な調整を目ざすのであればこれも過失相殺の許容範囲内にあると考えてよいからである。
判例はさらに,被害者の素因(特異体質や既往症など)のように,そもそも過失という範疇ではとらえることのできない被害者側の事情についても,過失相殺の類推という手法で一定の場合にこれを斟酌することができる,との考え方を明らかにした。他人との緊密な接触がますます必要とされる今の社会では,損害の発生,拡大(たとえば,治療が遅れたために後遺症が残ったこと)に被害者もかかわりがあった,という事態が増大することは容易に想定することができる。それだけに損害賠償額の調整は,この問題を抜きにしては損害賠償法について語りえないほど重要になっているのであるが,民法が明文で用意している制度としては,過失相殺しかない。過失相殺の類推というのは,過失相殺という法定の制度が同種の利益状況に借用される場合である。条文にもとづく形で処理することが説得力をますという実務的感覚から産み出される手法であるが,このような借用の許容範囲を画するものは,不可避的に生ずる損害のリスク配分はどのように行うべきか,という損害賠償法の理念にかかわる問題であるといって過言ではない。
→債務不履行 →損害賠償 →不法行為
執筆者:藤岡 康宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
債務不履行や不法行為において、債権者あるいは被害者にも過失がある場合に、これを考慮に入れて賠償責任あるいは賠償額を定める制度をいう。この過失相殺は、公平の観念から認められたものである。
過失相殺における過失については、注意義務を前提としない、単なる不注意でよいとするのが有力説の見解である。過失相殺の効果については、債務不履行と不法行為では異なる(民法418条・722条)。
債務不履行では、金額を減ずることができるだけでなく、賠償責任を否定する(賠償責任なしとする)こともでき、また債権者の過失はつねに考慮しなければならない(民法418条)のに対し、不法行為の場合には、賠償責任を否定することはできず、また過失を考慮することができるにとどまる(民法722条2項)。しかし、学説のなかには、両者を同じように解しようとするものもある。
[淡路剛久]
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