精選版 日本国語大辞典 「不法行為」の意味・読み・例文・類語
ふほう‐こうい フハフカウヰ【不法行為】
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ある行為によって他人に生じた損害を賠償する責任が生ずる場合に、この行為、あるいはそのような損害賠償を生じさせる制度をいう。契約と並ぶもう一つの重要な債権債務の発生の原因である。
[淡路剛久]
不法行為を大別すると、故意または過失があることを要件とするにせよ、行為の態様を限定しないで一般的に適用されることが予定されているもの(民法709条)と、行為の態様が限定されているが、過失要件を緩和しているもの(同法714条~719条)とがある。前者を一般の不法行為などとよび、後者を特殊の不法行為などとよんでいる。
(1)一般の不法行為の成立要件は、損害が発生したこと、加害行為と損害との間に因果関係があること、加害者に故意または過失があること、被害者の権利を侵害したこと(または加害行為に違法性があること)、加害者に責任能力があること、である。これらのうちで、判例・学説上とくに問題になることが多いのは、因果関係、故意・過失および権利侵害(または違法性)である。
因果関係でとくに問題になるのは、その証明の困難をどうやって緩和するかであり、1970年代以降多発するようになった公害・薬害事件や医療過誤事件では、蓋然(がいぜん)性(可能性の程度)の理論、いちおうの推定、統計的証明、疫学的証明など事件に応じてさまざまな方法で原告が負担する証明責任を緩和してきた。最高裁判所は、1975年の判決において、一般論として、因果関係の証明は、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然(がいぜん)性を証明することであり、その判定は通常人が疑いを差しはさまない程度に真実性の確信をもちうることだとした。故意・過失のうち「故意」とは、一定の結果の発生を認識しながらあえてその行為をすることであり、「過失」とは、一定の結果の発生を認識すべきであるのに不注意でそれを認識しなかったこと、と学説上一般に説明されてきたが、近時、一定の行為をする義務あるいは行為をしない義務の違反に過失の定義を求める考え方が一般的である。判例上、「過失」は、結果の発生につき予見可能性があるのに、注意義務に違反して結果の発生を回避しなかった場合に認められている。なお、予見可能性は、危険な行為(たとえば、公害を発生せしめるような企業活動)に際しては研究調査義務のような予見義務を前提にする。「権利侵害」とは、かつては、具体的な何々権の侵害という狭い意味に理解されたが、その後、広く「違法性」の意味に解すべきだとされるようになった(違法性説)。この違法性説の下では、違法性の有無は、加害行為の態様と被侵害利益の種類・侵害の重大性との相関関係によって判断される(相関関係説)。しかし、このような違法性理論に対して、「権利」を広く解すれば足り、「違法性」に読み替える必要はないという説(権利拡大説)、過失だけで判断すべきとする説(新過失説)、違法性の要素を再構成して違法性要件を維持しようとする説(新違法性説)も有力に主張されるようになっている。
(2)特殊の不法行為には、責任無能力者(責任能力のない未成年者や精神上の障害により責任弁識能力を欠く者)の行為につき監督義務者が負う監督者責任(民法714条)、被用者が事業の執行につき他人に損害を加えた場合に使用者が負う使用者責任(同法715条)、土地工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があった場合に占有者または所有者が負う工作物責任(同法717条)、動物の占有者または保管者が負う動物責任(同法718条)、および、共同不法行為(同法719条)がある。これらの多くは、挙証責任を転換して過失責任と無過失責任の中間をいくもので、中間的責任とよばれるが、実際上は、使用者責任にその例がみられるように(使用者が責任を負う要件である「事業ノ執行ニ付キ」がきわめて広く解されており、また、使用者の免責の主張・立証はなかなか認められにくい)、無過失責任に近いものが多い。特別法には、自動車運行供用者の責任を定める「自動車損害賠償保障法」、鉱業権者の責任を定める「鉱業法」、原子力事業者の責任を定める「原子力損害の賠償に関する法律」、公害につき無過失責任を定める「大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」、製造物の責任を定める「製造物責任法」などがある。第一のものは挙証責任を転換した中間的責任であるが、運行供用者側の免責の要件は厳しく、なかなか認められにくいので、実際上無過失責任に近いものとなっている。そのほかのものは無過失責任である。
[淡路剛久]
不法行為に対しては損害賠償責任が発生する(民法709条)。損害賠償の算定方法には、交通事故訴訟を中心に発展してきた個別的算定方法と、公害・薬害訴訟を中心に発展してきた包括的算定方法とがある。個別的算定方法では、まず、財産的損害の賠償と、精神的損害の賠償(慰謝料)とに区別する。財産的損害は、さらに、入院治療費や葬儀費などの積極的損害と、逸失利益などの消極的損害とに分かれる。逸失利益は原則として収入の喪失によって算定されるが、無所得者は平均賃金によって算定される。慰謝料は、交通事故訴訟などでは定額化される傾向がある。包括的算定方法では、このように財産的損害と精神的損害とに分けないで、総体としての賠償額を定めるものである。損害賠償の方法は金銭賠償が原則である(同法722条1項・417条)が、名誉毀損(きそん)の場合には、謝罪広告などのような一種の原状回復も認められている(同法723条)。損害賠償請求は、損害および加害者を知ったときから3年(時効)、不法行為のときから20年(除斥期間か時効か考え方が分かれている)で消滅する(同法724条)。
[淡路剛久]
日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)によれば、不法行為によって生ずる債権の成立および効力の準拠法について、一般の不法行為、生産物責任、名誉または信用の毀損という三つの類型に分けたうえで(同法17条~19条)、最密接関係地法を適用する例外規定(同法20条)、当事者による事後的な準拠法の変更を認める規定(同法21条)、各種の不法行為の準拠法が外国法とされる場合に、その成立・効力に日本法を累積的に適用する規定(同法22条)が置かれている。
一般の不法行為の成立・効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地での結果の発生を通常予見できないときは、加害行為地法によるとされている(「法の適用に関する通則法」17条)。たとえば、A国でYが排出した汚染物質がB国に流れてB国の住民であるXが損害を被った場合には、その不法行為の準拠法は、B国でのそのような損害の発生がYの立場にある通常の者であれば予見できたかどうかにより、予見できたのであればB国法により、予見できなかったのであればA国法によるということになる。
生産物責任の準拠法については、『製造物責任』〔国際私法上の生産物責任(製造物責任)〕の項、名誉または信用の毀損による不法行為の準拠法については、『名誉毀損』〔国際私法上の名誉毀損・信用毀損〕の項をそれぞれ参照。
不法行為の準拠法はこのように一応定められているものの、それが確定的に準拠法とされるわけではなく、不法行為の当時に当事者が法を同じくする地に常居所を有していたとか、当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたといった事情などに照らして、明らかにより密接に関係する他の地があるときは、当該他の地の法によるとされている(「法の適用に関する通則法」20条)。これは、最密接関係地法の適用を確保しようとする立法意思の表れであるが、不法行為の準拠法が明確にはわからず、たとえば和解交渉の際に適用されるべき法について共通の認識が得られず、交渉が困難となるというデメリットがある。
不法行為の当事者は、不法行為後であれば、合意により不法行為の成立・効力の準拠法を変更することができる(「法の適用に関する通則法」21条本文)。ただし、その準拠法変更が第三者の利益を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない(同法21条但書)。不法行為債権も財産権であることから、実質法上、当事者による処分が認められるのと同様に、国際私法上も、第三者の権利を侵害しない限り、準拠法の変更を認めてよいとの考えに基づくものである。しかし、この変更は黙示的にも(明示しなくても)可能であり、たとえば、本来の準拠法がA国法であっても、和解交渉や訴訟において、両当事者がB国法を前提とする主張をしていると準拠法はB国法に変更されたとされる可能性があり、その変更によって不利益を被ることになる当事者から錯誤による変更であるとの主張が出てくるといった混乱も予想される。また、弁護士が代理しているとすれば、弁護過誤になるおそれもあることから、立法論としての批判もある。
不法行為は公益とのつながりが深いことから、外国法の適用が公序を害するおそれがあるとされ、外国法が準拠法とされ、不法行為の成立が認められるときであっても、日本法上も不法行為になるのでなければ損害賠償等の請求は認められず(「法の適用に関する通則法」22条1項)、また、日本法上も不法行為となるときであっても、日本法上認められる損害賠償等しか請求することはできない(同法22条2項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
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