改訂新版 世界大百科事典 「放射分析」の意味・わかりやすい解説
放射分析 (ほうしゃぶんせき)
radiometric analysis
放射性同位体を試薬または指示薬として利用して,放射能を測定することにより非放射性物質を分析する方法をいう。分析対象である非放射性の元素に,放射性核種を含む化学種を化学量論的に結合させて,放射能測定により,その当量関係から目的の非放射性元素を定量する場合が多いが,放射性核種を含む試薬を,単に指示薬として使うこともある。これとよく似た用語に放射化分析と放射化学分析がある。前者は非放射性物質を照射して放射化し,放射能を測定して分析する方法であり,後者は放射性の試料中の放射性物質を放射能測定によって分析する方法であって,それぞれ放射分析とは区別される。
放射分析の一例として沈殿反応を利用する方法があげられる。例えば,溶液中のCrO42⁻を定量したいとき,110mAgを含む硝酸銀溶液を過剰に加え,Ag2CrO4の沈殿と上澄み液を分離し,どちらかの相の110mAgを測定してCrO42⁻の量を定量することができる。この方法によれば10⁻6g程度の微量の定量も可能である。
放射性同位元素で標識した標準溶液を用いて沈殿滴定を行う放射滴定も放射分析の一例である。例えば,試薬溶液中のBa2⁺を分析しようとするとき,35Sを含む硫酸ソーダ標準液を一定量ずつ加え,そのつどBaSO4の沈殿からこし分けた上澄み液の放射能を測定する。BaSO4の沈殿の生成が終わる当量点以後では,上澄み液中の放射能がしだいに増すことから正確に当量点を求めることができ,Ba2⁺の量を知ることができる。この放射能滴定には,試料中あるいは試料と試薬双方に放射性同位元素を加えるなど,種々の組合せが考えられる。
執筆者:石榑 顕吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報