重篤な救急患者に高度な医療を提供する医療機関。救急医療体制は、初期、二次、三次救急医療機関の機能分担に基づき構築されている。三次救急医療機関とは、二次では対応できない複数の診療科領域にわたる重篤な救急患者に対し、高度な医療を総合的に提供する医療機関であり、それを救命救急センターという。おおむね人口100万人に1か所を目標に整備されており、2019年(平成31)4月の時点で290か所である。高度救命救急センターは、救命救急センターに収容される患者のうち、とくに広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特殊疾病患者を受け入れる施設とされており42か所整備されているが、位置づけが曖昧(あいまい)であるとの指摘もあり(平成26年救急医療体制等のあり方に関する検討会報告書)、その要件の見直しが検討されている。
厚生労働省が定めた救急医療対策事業実施要綱によると、救命救急センターは、休日夜間急患センター、在宅当番医制等の初期救急医療施設、病院群輪番制等の第二次救急医療施設、および救急患者の搬送機関との円滑な連携体制のもとに、重篤救急患者の医療を確保することを目的としている。
救命救急センターの運営方針は下記の4点である。
(1)原則として、重症および複数の診療科領域にわたるすべての重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる。
(2)初期救急医療施設および第二次救急医療施設の後方病院であり、原則として、これらの医療施設および救急搬送機関からの救急患者を24時間体制でかならず受け入れる。
(3)適切な救急医療を受け、生命の危険が回避された状態にあると判断された患者については、積極的に併設病院の病床または転送元の医療施設等に転床させ、つねに必要な病床を確保する。
(4)医学生、臨床研修医、医師、看護学生、看護師および救急救命士等に対する救急医療の臨床教育を行う。
救命救急センターのおもな整備基準は下記の内容である。
(1)専用病床(おおむね20床以上)を有し、24時間体制で、重症および複数の診療科領域にわたるすべての重篤な救急患者に対する高度な診療機能を有する。
(2)24時間診療体制を確保するために、必要な職員を配置する。具体的には、専門的な三次救急医療に精通しているとの客観的評価を受けている専任の医師(日本救急医学会指導医および専門医)を適当数有すること、および他科の医師を必要に応じ適時確保できる体制を有すること。
救命救急センターをめぐる社会環境の変化や現状のおもな課題としては、以下のような点があげられる。
(1)救急搬送の受入れ困難事案の発生
救急搬送数は2012年から2017年の5年間で約49万件増加している。急病の搬送人員数をみると軽症患者(外来診療のみ)の割合が高く約48.1%を占めている。不要不急の利用への対応に要する時間的ロスに伴い、緊急性の高い傷病者への対応への遅れが懸念されている。総務省消防庁による2017年の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査および平成30年版消防白書によると、受入先医療機関選定のために各病院に照会した回数が4回以上の事案は2~3%、搬送先がみつからず、現場滞在時間が30分以上になった事案は3~8%前後発生している。重症以上の傷病者の搬送困難事案では、受入れできないおもな理由として、手術中または他の患者対応中、ベッド満床、処置困難等の理由が多い。これは、いわゆる「たらい回し」ではなく、本来二次救急医療機関で受け入れるべき患者が三次救急医療機関・救命救急センターに搬送されており、施設の受入能力を超えてしまうことにより受入れ不能となるケースが含まれていると考えられる。一次二次救急を含めた救急医療体制全体での対策が求められる。
(2)院内の救急受入れ体制強化の遅れ
救急医療機関では、救急利用の増加や多様化に対応した体制の強化が十分に進んでおらず、救急医療を担う医師、看護師、コメディカル(医師・看護師以外の医療従事者)等の不足や過酷な勤務状況が課題となっている。救急医療は、採算性にかかわらず提供されることがとくに求められる分野であり、病院独自での人員確保には限界がある。公的支援の強化が望まれる。
(3)救急医療に対する期待値の増大
救急医療に対する患者からの期待や要求は増大してきており、「病院に行けばかならず助かる。時間と場所によらず、いつでもどこでも高度な専門医療を受ける権利がある」という過大な期待への対応や訴訟リスクへの懸念により、医療提供側の時間的・心理的負担が増大している。住民や患者の理解・協力を深めるような施策が行政機関には望まれる。
前記のような状況を踏まえ、救命救急センターに対しては、機能の強化や質の向上へのいっそうの取組みを促すために「充実段階評価」が実施されている。この評価の柱は以下の4点にある。
(1)重症・重篤患者に係る診療機能、(2)地域の救急搬送・救急医療体制への支援機能、(3)救急医療に関する教育機能、(4)災害医療への対応機能の4点である。
以上のほかに、最寄りの救命救急センターへの搬送に長時間を要するような状況(地域特性)の勘案、医師の負担軽減など医療従事者の労働環境改善に係る項目、メディカルコントロール協議会への関与、救急医療情報システムへの関与などの項目も評価されている。今後の救急医療体制の充実に向けた対策が期待される。
[前田幸宏 2020年2月17日]
救急医療対策のなかの第三次救急医療施設をいう。救急救命センターは,初期および第二次救急医療施設の後方病院として,脳卒中・心筋梗塞・頭部損傷等の重篤な救急患者を受け入れるため,高度の診療機能を有している医療機関で,1992年度からおおむね人口30万以上の地域に1ヵ所を目標とし,1997年現在,137ヵ所が整備されている。救急医療体制は,初期段階として休日・夜間急患センター,休日等歯科診療所,在宅当番医などの初期(第一次)救急医療施設や,病院群の輪番制等による第二次救急医療施設がある。厚生省は1976年以降,各地の国立・都道府県立病院,大学病院などを救命救急センターに指定し,支援している。救命救急センターは,24時間診療体制をとり,脳神経外科,循環器科などの医師を配置し,高度の救命医療の実施に必要な医療従事者,医療機器及びCCU等の専門病床を有している。また,必要に応じて医師の管理のもとに重症患者が搬送できるドクターカーが設置されている。
高度救命救急センターは救命救急センターに収容されるような第三次医療の必要な患者のうち,特に広範囲熱傷,指肢切断,急性中毒等の特殊疾病患者に対応できる病院で,1997年12ヵ所整備されている。その他,各救急医療施設の受入れ体制に関する情報を常に把握し,症状に応じた適切な搬送医療機関を指示できる救急医療情報センターの整備が進められ,1997年現在,40都道府県に設置されている。1996年度から,従来のシステムを拡充し,〈広域災害・救急医療情報システム〉として再編成し,災害時の医療確保対策の柱の一つとすることが着手された。中毒予防や処置の情報提供を目的とした財団法人日本中毒情報センターがあり,有料で助言相談指導を行っている。
救命救急医療には,時間的余裕のないなかで,しかもショック状態,昏睡などのため,十分な発症経過についての情報も得られない状態で,きわめて高度な技能,判断力,決断が求められる。このため,従来の臓器別,疾病別の専門医とは異なった救命救急医療の専門性が求められている。救命救急センターでは,臨床研修医に対する救急医療の臨床教育の場としての訓練のほか,専門医を養成するための専門的訓練も行われている。
→救急医療
執筆者:西 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(小林千佳子 フリーライター / 2008年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[集中治療(クリティカル・ケアcritical care)]
非常に重症な患者は,内科や外科などの診療科目,および病気やけがの内容にかかわらず,病院内に設置された集中治療室で治療をうけることが多くなってきた。救命救急センターまたは救急医療センターと呼ばれている施設では,病院の内外から重症患者を受け入れている。重症患者はおもに呼吸と循環の治療が必要であり,その目的のために,医師,看護婦,医療従事者などの人員および監視用・治療用の医療機器類を1施設に集めて,24時間体制での診療が行われる。…
※「救命救急センター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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