日本大百科全書(ニッポニカ) 「新現実主義」の意味・わかりやすい解説
新現実主義
しんげんじつしゅぎ
文芸用語。新現実主義ないしは新現実派という概念については文学史家の理解に異同が多い。大正期の文壇で批評用語として用いられていたものが、大正期後半の文学の汎称(はんしょう)として文学史用語になったものである。広義にとれば、自然主義およびそれに対抗しておこった新浪漫(ろうまん)主義(耽美(たんび)派)や新理想主義(白樺(しらかば)派)などのあとに文壇に頭角を現した、第三次、第四次『新思潮』(芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)、菊池寛(かん)ら)と、『奇蹟(きせき)』(広津和郎(かずお)、葛西(かさい)善蔵ら)に関与した作家たちを中心に、白樺派の志賀直哉(なおや)、里見弴(とん)、さらに詩人出の佐藤春夫、室生犀星(むろうさいせい)らも含まれており、1921年(大正10)以降興隆したプロレタリア文学に対する市民文学のほとんど全域を覆うことになる。逆にもっとも狭義には、新理知主義ともいわれた『新思潮』派の作家たちをさす。西欧近代の個人主義、自由主義を中心にした人間観をもち、単なる現実の再現ではなく、現実の本質を主体的にとらえ、それを表現していく傾向が共通している。個性的なものが尊重され、人間性の分析から総合への方法、意識など理知的な性格も強い。
[海老井英次]
『三好行雄他編『近代文学4 大正文学の諸相』(1977・有斐閣)』▽『『片岡良一著作集4 現代文学諸相の概観』(1979・中央公論社)』