日本大百科全書(ニッポニカ) 「奇蹟」の意味・わかりやすい解説
奇蹟
きせき
文芸雑誌。1912年(大正1)9月から13年5月まで全9冊発行。舟木重雄、光用穆(みつもちきよし)、相馬泰三(そうまたいぞう)、広津和郎(かずお)ら早稲田(わせだ)大学出身者を中心とする同人誌。葛西善蔵(かさいぜんぞう)、峰岸幸作らが創刊に加わり、谷崎精二らがのちに参加。小林徳三郎、真田久吉、川上邦世、山脇信徳(やまわきしんとく)、九里四郎らの画家、彫刻家も名を連ねている。「外部現実よりも寧(むし)ろ心理の現実を」(谷崎)という共通志向が認められるが、社会から閉ざされた場での自己確認とその枠内での個性発揮という二律背反を克服しえぬままの感覚的な自己把握に、特徴的な傾向がみられる。文学史上の所産としては、創刊号に載った葛西の『哀しき父』などがあげられる。日本近代文学館より復刻(1970)。
[榎本隆司]