知恵蔵 の解説
日本版FCC通信放送委員会
国家権力を監視する放送局が、国家権力に監督されるという矛盾を解消するため、総務省から通信・放送行政を分離して、中立的な組織である行政委員会(独立行政委員会)を作り、言論・表現の自由を制度上保障しようとするもの。アメリカ政府から独立している米連邦通信委員会(FCC)を参考にしている。
かつては、日本にも電波監理委員会(日本版FCC)が存在した。
1950年6月1日、GHQの勧告により、米国連邦通信委員会をモデルに電波監理委員会が発足。GHQのクリントン・A・ファイスナーが「戦後日本の放送行政は、政府、政党など、あらゆる権力や集団から独立して、放送を監理・運営する自治機関が行うべき」と示唆したように、放送行政に関して内閣の決定を覆すことのできる大きな権限を持っていた。しかし、1951年のサンフランシスコ講和条約調印で占領軍時代が終結したことを契機に、52年7月31日、吉田内閣は内閣法案で電波監理委員会を廃止とした。放送行政の権限は郵政省(現総務省)へ移された。その後、何度か日本版FCC待望論が盛り上がったが実現はされなかった。
2009年9月24日、原口一博総務大臣は米連邦通信委員会(FCC)のジェナカウスキー委員長と会談、総務省とFCCとの間で事務レベルのワーキングチームを作り、今後の通信放送行政の主要テーマである知的財産権、ブロードバンド展開、オープンインターネット(消費者は自分の望む合法的なインターネットコンテンツ、アプリケーション、サービスにアクセスできなければならないというFCCの考え方)、競争政策の4分野について、日本版FCC設置に向けて意見交換していくと発表した。
日本版FCC導入は、新しい組織を作ることで官僚の天下りが増えること、官僚出身者が組織の多数を占めると国家の意向が反映され、放送業界や通信業界に不当な介入を招く可能性があること、NHKや民放で作る「放送倫理・番組向上機構」(BPO)との役割分担の調整が難しいことなどが懸念されているが、内藤正光総務副大臣は「有識者で1年間議論し、2011年の通常国会に関連法案を提出したい」としている。
(島村由花 コラムニスト / 2009年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報