製材品および木質材料を建物,建具,家具などの部材あるいは半製品に加工する機械。多くは刃物によって工作物を所要の寸法,形状に整える切削加工機械であるが,研削加工機械やだぼ打機なども木工機械に含まれる。なお,製材機械,合板機械,木工機械を木材加工機械と総称し,これを木工機械ということもあるが,ここでは狭義の木工機械について述べる。木工機械の基本的な機能は金属用工作機械とほぼ同様であるが,木材を材料とする部材の種類は多岐にわたるため,工作機械に比較して多種多様(JISによれば木工機械176種,金属用工作機械131種)であること,木材は切削しやすいので高回転数,高速送り(金属用工作機械の約10倍)が可能なことが特徴である。
前740年ころすでにエジプトでは弦を丸棒に巻きつけた弓を前後に動かす弓旋盤が使われていた。これが世界最古の木工機械とされている。木工機械による日本最古の製品は,法隆寺大宝蔵殿や東京国立博物館法隆寺宝物室に展示されている木製ろくろびき小塔(百万塔)であり,764年から770年までの作とされている。19世紀初めのアメリカでは,円筒状の工作物に数回巻きつけた綱の一端を天井などに固定した可撓性のさおに,綱の他端を床上のペダルに結びつけ,ペダルによる工作物の正逆の交番回転を利用したさお旋盤が使われていたが,その後一定の向きに回転するプーリーの動きをベルトを介して工作物に伝える機構に改良され,1819年に今日の旋盤の前身である自動旋盤が発明された。産業革命後,各種の木工機械が相次いで発明された。イギリス海軍の造船総監督であったベンサムSamuel Benthamは,1791年ころから93年までにかんな盤,面取り盤,ルーター,丸のこ盤,ボール盤などを発明して木工機械の父と呼ばれた。彼の最大の功績は往復運動に代えて回転切削の原則を木工機械にとり入れたことである。その後アメリカではゴールドラッシュによる人の波が西部へ押し寄せ,住宅の建設や車両の製造にありあまる森林資源が使われ,そのための木工機械の需要が著しく,丸のこ盤やかんな盤が改良され,角のみ盤やベルトサンダーも発明された。機械の駆動方法は一般の機械と同様,木工機械も人力,畜力,風水力,蒸気機関,電動機と進歩してきた。それに伴い刃物の回転数も大になり,軸受の改良とあいまって,現在の木工機械は毎分2000から2万回転程度で駆動されている。
熱の良導体ではない木材を高速で切削すると炭素工具鋼製の刃物は高熱のため摩耗が早い。20世紀の初めにアメリカで発明された高速度鋼は,600℃になっても硬さの変化が少ないので,木工刃物にも用いられるようになった。また,木材を合成樹脂で接着した合板やパーティクルボードは刃物を急速に摩耗させるので,最近は丸のこの歯先に超硬合金を付け歯したチップソーで切断するようになった。最近の木工機械の大きな変化は,コンピューターの発達を背景にして,数値と記号で構成された数値情報により各種の運動を制御する数値制御(NC)木工機械の出現と,材料の軽量化および部品の小型化による携帯用あるいは家庭用機種の普及である。
木材製品や部材はその種類が多いので汎用機のほか特殊な用途には専用機が考案されている。以下,おもなものを説明する。
帯のこ,丸のこ,糸のこを使用し工作物を切断する木工帯のこ盤,木工丸のこ盤,糸のこ盤がある。(1)木工帯のこ盤 上下2個の〈のこ車〉にループ状の帯のこを掛けて緊張させ,下部の〈のこ車〉を原動輪とし,テーブル上の工作物を手動で送り,直線びき,曲線びき,回しびきを行う。のこ車の直径は,600~900mmがふつうであり,使用する帯のこの幅は25mm以下である。(2)木工丸のこ盤 外周に歯を刻んだ薄い円形の鋼板(丸のこ)をのこ軸に取り付けて回転させ,テーブル上の工作物を切断する。丸のこの直径は200~400mmのものが多い。送材方式は手動と自動があり,手動の機種はテーブル(あるいはのこ軸)を昇降できるのがふつうであり昇降盤と呼ばれる。縦びき専用機として自動送り用キャタピラを備えたリッパーがあり,とくに多数の丸のこを取り付けることができる機種をギャングリッパーという。一方,横びき専用機としてテーブル移動横切丸のこ盤,のこ軸移動横切丸のこ盤,ラジアル丸のこ盤がある。(3)糸のこ盤 縦に緊張させた細いのこぎりをクランク機構により上下運動させ,テーブル上に置いた工作物にひき回し,透し彫,象嵌寄木加工などを施す。
かんな刃により回転削り,みぞ削り,面取り,平削りを行う機械で,かんな刃の運動方式により次の3種に分類される。(1)回転かんな盤 2~3枚のかんな刃を取り付けた円筒状のかんな胴が回転して工作物の表面の凹凸を削り取るか,所要の厚さに加工する。手押しかんな盤,自動1面かんな盤,自動2面かんな盤,自動3面かんな盤,自動4面かんな盤などがある。自動1面かんな盤は,回転する横かんな胴,昇降できるテーブル,送り装置からなり,主として厚さを決めるもっとも一般的なかんな盤である。(2)正面かんな盤 回転する円板に2~3枚のかんな刃を放射状に固定し,円板面に工作物を押し付けて切削する円板かんな盤は,古くから桶(おけ),樽(たる),下駄などの製造に使われてきた。従来のかんな胴方式かんな盤とはまったく異なる機構をもつカッター式かんな盤は,ほぼ水平を保って回転する円盤状のカッターが,ベルトで送られる工作物を切削する。最大の特徴は騒音が小さく,逆目ぼれや節の脱落が少ないことである。(3)固定かんな盤 テーブルに固定したかんな刃と,送り装置からなり,木材の表面仕上げを目的とするものと,薄い削片を得ることを目的とするものとがある。前者は仕上げかんな盤と呼ばれ,木工機械の中で最高の送り速度(毎分30~120m)で切削する。かんなくずの厚さは0.05~0.08mmがふつうであるので,切れ味のよいかんな刃を必要とする。日本古来の平かんなを原型とする仕上げかんな盤は,名人芸であったかんながけ技術を機械加工に置き換えるもので,日本が世界に誇り得る木工機械である。
回転する主軸に木工フライスまたはかんな胴を取り付け,主として面取り,ほぞ取り,みぞ削り,切り抜き,組手加工,彫刻などの成形切削を行う。(1)木工万能フライス盤 主軸を垂直および水平にすることができ,テーブルは前後左右上下に動き各種成形切削を行う。(2)面取り盤 回転する垂直主軸とテーブルからなり,主軸が1本の機種を単軸面取り盤,2本の機種を複軸面取り盤という。主軸に各種形状のカッター類を取り付け,キャビネット,ミシンテーブル,家具,楽器などの側面に加飾的な面加工を施す。(3)ルーターrooter 高速(毎分2万)回転する垂直主軸,コラム,センターピン,昇降できるテーブルからなり,主としてセンターピンを案内として彫刻,面取り,切り抜きなどの加工を施す。面取り盤と並んで木工フライス盤の中でもっともよく用いられる。(4)数値制御ルーター 1968年に日本のメーカーがNCルーターと名づけて発売したのが最初である。縦(X)軸,横(Y)軸,上下(Z)軸上を直線移動する3組の可動機構とルーターヘッドを備えた機械に,数値制御機構を組み入れた生産性の高い自動ルーターである。指令テープのデータをテープリーダーが読み取り,演算回路で演算し,X,Y,Z各軸用の3台のサーボモーターを駆動する。各モーターごとに停止,正転,逆転,回転数の無段変速などを行わせ,三次元曲線に沿って刃物を付けたルーターヘッドが動き,三次元の曲面を形成する。(5)ダブテールマシン ならい装置と多数の主軸を備え,蟻(あり)形(円錐台状)カッターにより1対の蟻(あり)組手を加工する専用機であり,2枚の板をL字形に強固に接合する必要がある建具,家具,楽器,キャビネットなどの部材の製造に用いられる。
回転する主軸にかんな胴,木工フライス,丸のこなどを取り付け,主としてほぞなどを加工する。
コラム,主軸頭,テーブルなどからなり,工作物に丸穴または角穴をあける機械で,テレビキャビネットなどの製造のように,一工程で正確に多数の丸穴をあける場合に使用される木工ボール盤,角のみを上下運動させ角穴をあける角のみ盤などがある。
主としてバイトまたは回転刃物により工作物に旋削加工を施す。一般に工作物は主軸とともに回転し,送り運動は主として工具に与えられる。(1)木工普通旋盤 工作物の一端を固定して回転運動を与えるための主軸台,工作物の他端を支える心押台,手持ちバイトに切り込み作用を与える往復台が,ベッド上に取り付けられている。バットや椅子の足などの製造に使われる。(2)木工正面旋盤 主軸に大型の面板を取り付け,主として正面削りを行う機械で,深さに比べて直径が大である盆のような物の製造に用いられる。日本のこけし人形は正面旋盤の原型ともいえる主軸台だけの旋盤(ろくろ)によって作られる。(3)木工ならい旋盤 ならい装置を備え,回転刃物により,模型にならって1個または数個の工作物を同時に削り出す。旋盤による製品は円形断面を示すが,ならい旋盤は銃床や靴の木型などの製造に用いられる。
研磨紙(紙やすり,サンドペーパー)により主として工作物の表面仕上げを目的とする研削加工を行う機械。細長い研磨紙の両端を接合したループ状のベルトを,水平にかつ平行に配置した2個以上のプーリーに掛けて駆動し,テーブル上の工作物をベルトの水平面で研削するものをベルトサンダーといい,その際ベルトの内側でパッドを左右に往復させながら外側にある工作物を加圧,研削する。パッドの運動は手動によるものと自動的に行われるものとがある。そのほか,回転する円筒の外周面に取り付けた研磨紙により研削するスピンドルサンダー,回転する円板の表面に取り付けた研磨紙により研磨するディスクサンダー,工作物の曲面を研削する曲面サンダーがある。
回転するといし車などにより各種の木工用刃物を研削する機械で,丸のこ歯,帯のこ歯,かんな刃などを研削する専用機がある。
手押しかんな盤,自動1面かんな盤,丸のこ盤,木工ボール盤などの装置を三つ以上組み合わせた組合せ木工機,だぼ穴に接着剤を注入し,だぼを自動的に打ち込むだぼ打機などがある。
執筆者:野口 昌巳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
製材機械や合板機械と並ぶ木材加工機械の一種で、木製家具や建具などの木製部材を加工するための機械。刃物が金属切削工作機械に比べて高速で回転するので、ともすれば切削時に発熱、発煙し、振動や騒音が多く、切り粉は飛び散りやすい。このため、高速回転部分の動的バランス調整、軸受部の防塵(ぼうじん)、防振や危険防止の対策が講じられている。
[清水伸二]
鋸盤(のこばん)、かんな盤、成形削り機械、木工旋盤、穴あけ機械、枘(ほぞ)取り盤、組継ぎ加工用機械、仕上げ加工用機械などに大別できる。
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材木を用材に適するように切る(木取りという)機械で、帯鋸盤、丸鋸盤、ひき回し鋸盤(糸鋸盤)などがある。
帯鋸盤は、おもに板の繊維方向に沿って切る縦挽(たてび)きと、曲線形状に切る曲線挽きに用いるが、短材の横挽きも可能である。
丸鋸盤は、木取り用荒挽きから精密な細工用までの各種があり、その形式も、テーブルの形式、鋸軸の形式、送材の形式、鋸装置の形式などによっていろいろである。また縦挽き用と横挽き用とがあるが、鋸を交換して縦挽きと横挽きの両方を行うことが可能な機械も多い。代表的なものとして、縦挽き盤、横挽き盤、昇降丸鋸盤などがある。昇降丸鋸盤は、木取りはもちろんのこと、組継ぎ加工、溝突きや面取り加工など多目的に使用できる。
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かんな盤には、手押しかんな盤、自動一面、二面、三面、四面かんな盤などがあり、面加工用に用いられる。
手押しかんな盤は、材料をテーブルに押し付けながら送り出すことによって材料の下面を削り、平らな基準面をつくりだす機械である。材料表面のむら取りに使われることから、むら取りかんな盤ともよばれる。
自動一面かんな盤は、手押しかんな盤によって加工された面を下にして定盤に接しながら、自動的に材料を送りながら上面を削り、厚さ決めをする機械である。
自動二面かんな盤は、1回の送材で二面を切削するかんな盤である。自動一面かんな盤の機構の一部に手押しかんな盤の機能を取り入れて、被削材の上下二面を切削するものと、柱など建築用部材の直角な二面を削り出すものとがある。
自動三面かんな盤は、自動一面かんな盤の送り出し側テーブルの左右に立てかんな軸があって、厚さ決めをした面に垂直に他の二面を削り、幅を決める機械である。
自動四面かんな盤は、自動二面かんな盤の送り出し側テーブルの左右に立てかんな軸を置き、むら取りと板厚を決められた面に垂直に他の二面を削り、断面を決める機械である。
自動多面かんな盤は、以上の機能に加えて、面取りや、溝突きなどの作業を付加した自動機械として、家具の生産ラインや、プレハブ住宅用の各ラインで多用されている。
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成形削り機械には、面取り盤、ルーターマシンなどがある。
面取り盤は、部材の面取り加工を行う機械で、カッターをかえることによって各種の断面形状が加工できる。額縁の加飾用面削りや、建具や家具の框(かまち)材などの飾り面削りなどの作業は代表的な例である。
ルーターマシンは、面取り作業に加えて、穿(せん)孔、切り抜き、ざぐり、彫刻など各種の加工ができる。ルーター作業は、加工面がそのまま仕上げ面として使用できるように高速切削をしているが、製品によっては、さらに研削・研摩などの仕上げ加工が必要となる。
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回転させた材料に刃物を押し当てて加工を行う機械である。外丸削り、ねじ切り、テーパー削り、曲面削り用の木工旋盤と、器物の外周削りや中ぐり用に使用される前挽き旋盤とがある。
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穴あけ作業に用いる機械で、角穴をあける角のみ盤、円形の穴をあけるボール盤がある。ボール盤の一種のラジアルボール盤は、懐(ふところ)の狭いボール盤では加工できない大きな材料の穴あけに使われる。ボール盤の機構は、金属加工用と同じであるが、きりの刃先角と主軸回転数が異なり、送り速度も速くできる。
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枘取り加工を行う機械で、枘首長さ、枘厚、胴突き面の傾斜、枘型など自由に選択できる。単軸のものと多軸のもの、カッター軸が横形のものと立て形のものがある。また多軸のものには、一工程で框材の両側に枘取り加工をする両側枘取り盤もある。
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複雑な組継ぎ加工を正確、高能率に行う機械で、コーナーロッキングマシン、ダブテールマシンなどがある。
コーナーロッキングマシンは、組合せカッター(ロッキングカッター)を主軸に取り付け、これを回転して、板の木口面をあられ状に欠き取って加工する機械である。
ダブテールマシンは、板の木口に、蟻(あり)組継ぎ用の枘加工と枘穴加工を一度に行う機械である。
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加工面の粗さを小さくし、いっそうよい仕上げ面を得るために用いられる。超仕上げかんな盤、ベルトサンダーなどがある。
超仕上げかんな盤は、手かんなの切削方式をそのまま応用した仕上げ加工用機械である。
ベルトサンダーは、ベルト状研摩布を走行させ、加工物をこれに押し当てて研削・研摩する。機構上水平面の加工なので厚さ決めをしやすいこと、研削中の目づまりが比較的少ないなどの利点がある。
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木工機械も金属切削工作機械と同様に自動化、省力化が進み、たとえば、ルーターマシンなどは数値制御化され、三次元の複雑な装飾加工も自動的に行えるようになっている。また、複数台の高性能自動機械をコンベヤーで連結して加工ラインを構成し、プログラムどおりに作業を行うトランスファーマシンが各工場で活躍している。
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