元素周期表の第Ⅳ,Ⅴ,Ⅵ族の遷移金属(Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W)の炭化物粉末を,鉄族金属(Fe,Co,Ni)の粉末とともに焼結して得られる複合合金。したがって多くの組合せが考えられるが,なかでも,室温から高温における機械的性質がとくに優れているのはWC-Co系合金(WC-Co,WC-TiC-TaC-Co)であり,超硬合金といえば,普通はこの系の合金をさす。超硬合金は,炭化物の特性を反映して高硬度であるとともに,結合金属の特性も反映してかなりの強靱(きようじん)性をも兼備している。
超硬合金の用途はきわめて広く,切削工具(バイト,フライス,ドリル,エンドミル,カッターなど),耐摩耗工具(伸線用ダイス,管引用のダイスとプラグ,製缶用ダイス,粉末成形用ダイス,ゼンジミアミル用ワークロール,ボール,ゲージ端部など),耐衝撃工具(鉱山用ビット,ヘッディングダイ,各種の打抜用工具,フェーシングダイなど),超高圧発生用部品(人工ダイヤモンド,立方晶窒化ホウ素(cBN)などの合成装置のアンビル)などの材料として用いられている。このほか身近にみられる応用品としては,高級時計の側,ボールペンのボール,スノータイヤ用ピン,コンピューターのドットプリンター用ピンなどがある。各種超硬合金のうち,切削工具用にはWC-TiC-TaC-Co(WC-β-Co,β=(W,Ti,Ta)C)合金(7~45%β,5~15%Co)が用いられ,それ以外にはほぼWC-Co合金(3~25%Co)が用いられている。とくに,非磁性が要求される場合にはWC-Mo-Ni合金,耐食性が要求される場合にはCr3C2-Ni合金,黄金の色調を出す場合(装飾用品)にはTaC-Ni合金がそれぞれ用いられる。
超硬合金は,1923年ドイツのシュレーターK.Shröterらによって発明され,25年クルップ社からウィディアWidia(Wie Diamantから命名)の商品名で市販されはじめた。日本では31年から生産が開始されている。この合金が誕生するまでにはかなりの年月を要しており,19世紀後半のF.F.H.モアッサンの各種硬質物質(炭化物,窒化物,ホウ化物,ケイ化物など)に関する基礎的研究に端を発するといってよい。シュレーターらの発明の要点は,金属W粉末と黒鉛粉末の混合物を還元雰囲気中で加熱して得られる化学量論組成のWC粉末を用いること,これを10%以下の鉄族金属粉末と混合し,液相存在下の焼結法(WCはほとんどが固相のままで,金属は一部のWCと反応して液相を形成)によって合金をつくることの2点にある。現在の製造法は,シュレーターの発明によるものと基本的には同じであるが,多くの点において改良がなされており,合金の特性は当初のものに比べ格段に向上している。原料粉末として,平均粒径が0.5~8μmのWC粉,1~2μmのCo粉,このほか必要に応じて2~4μmの(W,Ti,Ta)C固溶体粉を用いる。これらを所定組成に配合し,ボールミルなどの混合機を用いて十分に混合する。混合後,粉末の成形を容易とするためパラフィンなどを少量添加し,一般に金型成形法によって成形体をつくる。次に成形体を水素または真空中で500~1000℃に加熱しパラフィンなどを除去するとともに,ある程度その強度を増加させる。そして,必要に応じて切削や研削加工を行って形状を整えた後,焼結する。焼結はふつう,真空中において1350~1500℃で1~2時間行う。なお低Coの焼結体には10~150μmのポア(気孔)が微量残留するが,これを消滅させるには,さらに熱間静水圧焼結(約1000気圧のアルゴンガス中で約1360℃に加熱)を行う。焼結後,一般に研削・研磨加工を行って形状,寸法,表面状態を所定のものとし製品とする。とくに切削工具用スローアウェーチップについては,その耐摩耗性を向上させるため,さらに合金の表面にTiC,TiN,Al2O3などの硬質物質を化学蒸着法や物理蒸着法によって被覆する(皮膜厚さは2~8μm)ことも広く行われている。
超硬合金の組織は炭化物粒子がCo結合相の薄膜によって結合された形となっている。合金の硬さ,耐摩耗性は図に示すように,炭化物粒度が一定のもとで低Co(結合相の厚さを小)とするほど上昇し,圧縮強さは約5%Coで最大値を示す。靱性は低Coほど減少する。他方,Co量一定のもとで炭化物粒度を小さくすると,諸性質は,粒度一定下で低Coとした場合とほぼ同様の変化を示す。TiCとTaCの添加は,切削工具のクレーター(すくい面)摩耗を減少させる。引張破壊強さは,合金内に微量に存在する欠陥(ポア,粗粒炭化物など)に著しく影響されることから,合金の調製法によってかなり変動する。
超硬合金と同様に硬質物質を主成分とする工具用材料(主として切削用)として,TiC基サーメット,Al2O3基やSi3N4基のセラミックス,焼結ダイヤモンド,焼結cBNなども用いられているが,使用量は超硬合金が圧倒的に多い。
執筆者:林 宏爾
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高融点炭化物の粉末を体積比で10~30%のコバルト、ニッケルで焼結した、鋼では得られない高い硬さをもつ合金。切削用、線引ダイス、各種耐摩耗工具に用いられるので超硬工具ともいう。最初に開発された超硬合金は炭化タングステンWCをコバルトで焼結したものであった。現在はこのほかに炭化タンタルTaCなど炭化タングステン以外の高融点炭化物、窒化物を添加した合金が数多く開発されている。炭化物粉末を鉄で焼結した超硬合金をフェロチックという。炭化チタンとニッケルが主成分の超硬合金は超硬工具としても使用されているが、ほかの超硬合金と比べて比重が小さいので、航空機やタービンなどの耐熱材料として使用され、一般にはサーメットcermetとよばれている。
[須藤 一]
高融点金属の炭化物は一般にいちじるしく大きな硬さを有しているが,これらの粉末に比較的靭性をもったCo,Niなどの金属を質量で数% ないし十数% 添加し,結合させてつくった合金.炭化物としてはWCがもっとも広く用いられ,そのほかTiC,NbC,TaCなども用いられる.原料粉末を混合し,加圧して成形体をつくり,水素雰囲気または真空中で1350~1600 ℃ で加熱焼結して製造する.超硬合金の約70% はバイトやドリル,フライスなどとして切削用に用いられ,WC-Co系,WC-TiC-Ta(Nb)C-Co系,TiC-Ni系,TiC-Mo2C-Ni系などがある.WC-Co系はまた線引きや管引抜き用ダイスなどの耐摩工具,打抜き型圧延用ロール,ペン用ボールなどの耐摩部品,鉱山や土建用の削岩用ビットなどに広く用いられる.また特殊な例として,Cr3C2にNi 10~15質量%,W 2質量% を加えたものが化学液ノズルに利用される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(徳田昌則 東北大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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