改訂新版 世界大百科事典 「木幡狐」の意味・わかりやすい解説
木幡狐 (こわたぎつね)
室町時代の御伽草子。渋川版の一つ。山城国木幡(こはた)に住む稲荷明神の使者である狐の子どものなかに,芸能すぐれ美しい末の姫がおり,きしゅ御前といった。16の年の3月末,光源氏か在原の中将かと見紛うほど容顔美麗な,三条大納言の子三位の中将が花園に立ちいでたのを稲荷山から見下ろして恋の心となり,ひとまず人間の姿に化けて一夜の契りを結ぼうと,乳人(めのと)の少納言とともに美しく化けなして都に上る。中将と偕老の契りを交わしたきしゅ御前は翌年3月若君をもうけ,大納言と北の方にも見参する。若君3歳のおり,中将の傅(めのと)中務が犬を進上したのに恐れ,夫が帝のお召しで7日の管絃の催しに出かけた留守に,〈別れてもまたも逢ふ瀬のあるならば涙の淵に身をば沈めじ〉と詠じて,狐の姿になり,泣く泣く木幡の古塚へ戻り,若君の行く末を見守って仏道にいそしむ。中将はその後北の方を迎えもせず,別れを悲しんでいたが,若君はめでたく末繁盛に栄える。横本奈良絵本では,弘法大師の夢告により中将と若君とが嵯峨野の庵室を訪れる後日譚を持つ。《曾我物語》巻五〈三原野の御狩の事〉には業平の異類婚姻譚がある。この異類婚姻譚は〈伊勢物語の秘事〉を経て,鎌倉期の《伊勢物語難儀抄》などの注釈にまでさかのぼりえよう。
執筆者:宮田 和美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報