日本大百科全書(ニッポニカ) 「東野芳明」の意味・わかりやすい解説
東野芳明
とうのよしあき
(1930―2005)
美術評論家。東京生まれ。東京大学文学部美学科を卒業した1954年(昭和29)に「クレー論」で美術出版社主催の第一回芸術評論賞第一席を受賞して美術評論家としてデビューした。最初の著書『グロッタの画家』(1957)ではボスやゴヤ、ルドンら幻想画家を論じたが、第二次世界大戦後欧米で沸き起こったネオ・ダダ、抽象表現主義を紹介した『現代美術――ポロック以後』(1965)で、自らの批評の方向を決定づけた。
1958年と60年のベネチア・ビエンナーレで日本館コミッショナーを務め、帰途ヨーロッパ、アメリカ、メキシコを旅して、各国のアートの見聞を編んだ著書『パスポートNo.328309』(1962)は、もう一つの旅行記『アメリカ「虚像培養国誌」』(1968)とともに、60年代の欧米現代美術の動向がうかがえる好レポートになっている。70年代には、現代美術の始祖たるデュシャンの研究書『マルセル・デュシャン』(1977)と、アメリカ美術の象徴たるジャスパー・ジョーンズを論じた『ジャスパー・ジョーンズ――そして/あるいは』(1979)を刊行し、多くの読者に強い影響を与えた。とくに主著『マルセル・デュシャン』は世界的にみても高いレベルの研究書であり、東野は日本におけるデュシャン研究の第一人者としての評価を得た。
ほかの著書に、『曖昧な水――レオナルド・アリス・ビートルズ』(1980)、『クルマたちとの不思議な旅』(1985)、『ロビンソン夫人と現代美術』(1986)、『マルセル・デュシャン「遺作論」以後』(1990)などがある。訳書・共訳書にハロルド・ローゼンバーグHarold Rosenberg(1906―78)著『新しいものの伝統』The Tradition of the New(1965)、サルバドール・ダリ著『ダリ――〈天才の日記〉』Journal d'un Génie(1971)、リチャード・バックミンスター・フラー著『宇宙船「地球」号』Operating Manual for Spaceship Earth(1972)などがある。多摩美術大学の教授を長年務め、81年同大に芸術学科を設立した。
[高島直之]
『『グロッタの画家』(1957・美術出版社)』▽『『パスポートNo.328309』(1962・三彩社)』▽『『アメリカ「虚像培養国誌」』(1968・美術出版社)』▽『『マルセル・デュシャン』(1977・美術出版社)』▽『『ジャスパー・ジョーンズ――そして/あるいは』(1979・美術出版社)』▽『『曖昧な水――レオナルド・アリス・ビートルズ』(1980・現代企画室)』▽『『現代美術――ポロック以後』(1984・美術出版社)』▽『『ロビンソン夫人と現代美術』(1986・美術出版社)』▽『『マルセル・デュシャン「遺作論」以後』(1990・美術出版社)』▽『『クルマたちとの不思議な旅』(中公文庫)』▽『ハロルド・ローゼンバーグ著、東野芳明・中屋健一訳『新しいものの伝統』(1965・紀伊國屋書店)』▽『サルバドール・ダリ著、東野芳明訳『天才の日記』(1971・二見書房)』▽『リチャード・バックミンスター・フラー著、東野芳明訳『宇宙船地球号操縦マニュアル』(1985・西北社)』