抽象表現主義(読み)ちゅうしょうひょうげんしゅぎ(英語表記)Abstract-expressionism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

抽象表現主義
ちゅうしょうひょうげんしゅぎ
Abstract-expressionism

現代美術用語。第2次世界大戦後に出現し,1950年代中頃に世界的に広まった,抽象美術表現主義の系譜をひく絵画の動向。狭義にはアメリカのアクション・ペインティング,広義にはヨーロッパのアンフォルメルなどの諸動向を包括する名称であるが,両者の間にはかなりの相違がある。 20世紀前半にみられた幾何学的抽象とはまったく異質のもので,それが「冷たい抽象」と呼ばれるのに対して,抽象表現主義は「熱い抽象」と呼ばれ,直接マチエールと身ぶりや行為に訴える表現を特色とする。

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知恵蔵の解説

抽象表現主義

1940年代後半から、ニューヨークを中心に展開された美術運動。言葉自体は19年にベルリンで生まれ、しばらくしてカンディンスキーの作品について使われたのが始まりとされる。第2次世界大戦の戦火を逃れ、欧州から多くの芸術家が米国に移住。その中にはモンドリアン、ダリ、エルンストなど抽象画家やシュルレアリストが多く、それまでは美術の世界では一地方にすぎなかったニューヨークが、突然中心都市となった。一方、失業者対策のために導入された公共事業促進局(WPA)の連邦美術計画によって、多くの画家たちが建築物の壁画を描く仕事などを得た。そうした中から、デ・クーニング、ポロック、ニューマン、ロスコらが登場。ニューヨークスクールとも呼ばれた。ポロックは47年、床に画布を敷き絵の具を滴らせるドリッピングと呼ばれる技法で絵を描き始めた。絵の具が覆った巨大な画面全体には中心が消失しており、オールオーバーと呼ばれた。また身体の行為性に着目して、アクション・ペインティングという言葉も生まれた。激しい筆致のデ・クーニングや、静かで均質な色面が広がったロスコのカラー・フィールド・ペインティング(色面絵画)などが登場。以後、米国は次々と、20世紀後半の主要な美術運動を生み出した。

(山盛英司 朝日新聞記者 / 2007年)

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百科事典マイペディアの解説

抽象表現主義【ちゅうしょうひょうげんしゅぎ】

abstract expressionismの訳。1940年代から1950年代に米国で展開された抽象芸術の傾向。作家により様式は異なるが,キュビスムシュルレアリスムなどヨーロッパの美術の影響から出発して,感情や精神性を抽象的に表現した。理論的支柱となったグリンバーグが〈アメリカ型絵画〉と呼んだように,同国で初めて生み出された独自の美術とみなされる。代表的な作家にゴーキーデ・クーニングポロックニューマンロスコらがいる。ポロックのアクション・ペインティングがヨーロッパのアンフォルメルとともに注目されたほか,ニューマン,ロスコは続くカラー・フィールド・ペインティングへの道を開くなど,第2次大戦後の美術の展開にきわめて重要な足跡を残した。
→関連項目アペルシーガルスティルステラトービーネオ・ダダハード・エッジフランシスポップアートマッソンマッタモネラウシェンバーグ

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世界大百科事典 第2版の解説

ちゅうしょうひょうげんしゅぎ【抽象表現主義 Abstract Expressionism】

1940年代から50年代にかけて,アメリカで展開された一群の抽象芸術のこと。代表的作家はゴーキーデ・クーニング,ホフマンHans Hofmann(1880‐1966),ゴットリーブAdolph Gottlieb(1903‐74),マザーウェルRobert Motherwell(1915‐91),ポロックガストンPhilip Guston(1913‐80),クラインFranz Kline(1910‐62),スティルClyfford Still(1904‐80),ニューマンBarnett Newman(1905‐70),ロスコら。

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大辞林 第三版の解説

ちゅうしょうひょうげんしゅぎ【抽象表現主義】

あらゆる定形を否定し力動感を表現する非幾何学的な抽象絵画。第二次大戦後、アメリカにおこったアクション-ペインティング、フランスのアンフォルメルなどの総称。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

抽象表現主義
ちゅうしょうひょうげんしゅぎ
abstract expressionism

アメリカで1940年代後半から60年代の初頭に展開された美術の一動向。本来は1919年にオズワルト・ヘアツォークがドイツ表現主義の雑誌『シュトゥルム』(嵐(あらし))のなかで抽象的な表現主義を具象的なそれに対置させて用いたものである。その後、アメリカにおいてアルフレッド・バー2世がウェルスリー大学の講義(1929)で「カンディンスキーとドイツの抽象表現主義」といい、また彼が組織したキュビスムと抽象芸術展(1936)のカタログのなかでカンディンスキーをさして用いた。ついでロバート・コーツがハンス・ホフマンの展覧会評(1946)に転用して以来、アメリカの画家に適用されるようになった。
 しかし、この用語が一般化したのは、1940年代後半から50年代にわたってニューヨークを中心とするポロック、ニューマン、ロスコ、スティール、デ・クーニング、フランツ・クラインらの活動によってである。ポロックのポード絵画(poured注ぐの意、つまり絵の具を水を撒(ま)くようにして作画する)と、ニューマン、ロスコらのカラー・フィールド・ペインティング(色彩の場の絵画)は、表面的には異なるが、空間上「図」と「地」の関係が近接していること、オール・オーバー(全面を覆う)、多焦点、あるいは無焦点の空間と精神内容をもつ絵画という点などで共通している。これは後年、モーリス・ルイスの作品により継承、統合されている。またこの用語は、デイビッド・スミスを中心とする金属を素材とした彫刻にも使用されている。ドイツ表現主義の自己表現を押し出す芸術とは異質の動向に与えられたこの用語は、便宜的であるのを免れないが、美術の中心がヨーロッパからアメリカに移りつつあることを予感した芸術を、なんらかの形で包括しようとする自然発生的な要求に応じたものである。
 なお、ローゼンバーグの命名による「アクション・ペインティング」という用語もこの動向に含まれるが、それがもっともよく当てはまるのは、ポロックらとは異なる絵画空間をもつデ・クーニングやクラインらの作品に対してである。また抽象表現主義はカラー・フィールド・ペインティングを展開させたフランケンサーラーからジャスパー・ジョーンズらのネオ・ダダイズム(ネオ・ダダ)、ポップ・アート、さらにステラたちのミニマル・アートを経て1970年代後半の新表現主義に至るまで、直接、間接に影響を及ぼしている。[藤枝晃雄]

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精選版 日本国語大辞典の解説

ちゅうしょう‐ひょうげんしゅぎ チウシャウヘウゲンシュギ【抽象表現主義】

〘名〙 (abstract expressionism の訳語) 一般に第二次世界大戦後のアメリカの抽象絵画、特にアクション‐ペインティングをさす。広くは、幾何学的抽象画に対するものとして、流動的な形態と激しい表現をもつ抽象画のことをいう。

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世界大百科事典内の抽象表現主義の言及

【アメリカ美術】より

…彼らの渡来は,20世紀アメリカ美術の一つの転機であり,戦中・戦後の新しい動向を生む素地を用意するものであった。40年代にニューヨークに登場する抽象表現主義はキュビスムとシュルレアリスムを背景とし,ヨーロッパのアンフォルメルに対応するものである。これには激しい動きを画面に投入したアクション・ペインティングの一派(J.ポロック,W.デ・クーニング,クラインFranz Kline(1910‐62)ら)と,平面的な色面によるカラー・フィールド・ペインティングColor‐Field Paintingの流れ(M.ロスコ,ニューマンBarnett Newman(1905‐70),スティルClyfford Still(1904‐80),ラインハートAd Reinhardt(1913‐67)ら)があり,両者とも巨大なキャンバスをいっぱいに使った衝撃的な絵画を創造した。…

【ポップ・アート】より

…また,この派の批評家アロウェーLawrence Alloway(1920‐ )が60年代にニューヨークに移住し,一群のアメリカ作家の作品を総称して,〈ポップ・アート〉と呼んだことで,この名称が定着したともいう。ニューヨークのポップ・アートは,1940年代後半から50年代にかけてニューヨークで爛熟した抽象表現主義へのアンチ・テーゼとして生まれたとも見られる。抽象表現主義の超越的な精神主義に対して,ポップ・アートは卑俗・日常的なマス・メディア的大衆性を強調したわけであり,両者の分水嶺の位置を占めるのが,R.ラウシェンバーグJ.ジョーンズである。…

【ポロック】より

…彼はその〈アクション・ペインティング〉によってきわめて個性的な様式を創造したが,それはまたアメリカがはじめてもった独自の絵画,いわゆる〈アメリカ型絵画〉の先駆ともなった。なお,ポロックを中心とするアメリカのこのような絵画を抽象表現主義と呼び,それはヨーロッパのアンフォルメルに対応するものである。【千葉 成夫】。…

【モネ】より

…やがてオランジュリー美術館に寄贈する8枚の大画面の制作に,このジベルニー時代の全成果を投入する。最晩年に目を患った前後の,荒々しいタッチで描かれた一連の作品(パリ,マルモッタン美術館)は,のちの抽象表現主義に大きな影響を与えた。【馬渕 明子】。…

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