ネーデルラントの画家。ボッシュ,ボッスともいう。彼の本名はイェルーン・ファン・アーケンJeroen van Akenだが,彼は名をラテン語化し,姓は出身地ス・ヘルトーヘンボスの一部をとり,署名とした。ス・ヘルトーヘンボスで,画家ファン・アーケンA.van Akenの第3子として生まれる。1486-87年ころシント・ヤン大聖堂の〈聖母マリア兄弟会〉(聖職者と平信徒によって構成され,ス・ヘルトーヘンボス市の宗教ならびに文化活動に貢献する団体)の会員となる。生涯,敬虔なキリスト教徒として同兄弟会のために,安い謝礼で新礼拝堂用のステンド・グラスの下絵,主祭壇画枠縁の彩色と金箔,シャンデリアのデザイン,典礼用祭服の十字架の刺繡の図案などを制作する。こうした事実は,ボスが異端〈ホミネス・インテリゲンティアエ〉に属していたというフレンガーW.Fraenger説(1947)を覆す有力な証拠となろう。
作品には年記がなく,その制作活動は大きく3期に分けられる。初期(1475-85)の《七つの罪源》で,従来の擬人像表現ではなく,とくに庶民の日常生活の営みの中に罪源の様態を表した点はユニークであった(例,〈貪欲〉では当時の巡回裁判と賄賂の実態を描く)。中期(1485-1505)の風俗画《愚者の船》には,〈青いボート〉と呼称された祭りの企画団体やJ.ファン・ウーストウォレンの詩《青いボート》などを示唆する風刺的表現がみられる。彼の三大祭壇画の一つ《乾草の車》では,外側に〈放浪の旅人〉,内側に〈原罪〉〈乾草の車〉〈地獄〉を描いたが,とくに乾草の争奪戦にみられる,現世の人間の貪欲や激怒の罪源を強調する。第2の祭壇画《聖アントニウスの誘惑》では,後に〈魔物とキマイラの創作者〉(デ・ゲバラ,1560ころ)と評されたように,絵画史上類をみない人間と動物の合成生物,爬虫類と獣類の混合物による幻想的世界を展開した。後期(1505-16)の祭壇画《快楽の園》はボスの最高傑作とみなされている。彼は内側の中央パネルに,裸体の男女の倒錯した性や植物と鉱物を組み合わせた奇怪な建物を描くなど,中世末期の同時代の画家からはるかに飛躍した特異なイメージの世界に到達する。右翼の〈地獄〉の,巨大な楽器の拷問具,樹幹人間,爆発で炎上する町のシルエットなどの意表をつくモティーフは,16世紀フランドルの数多くの地獄図に踏襲された。
執筆者:森 洋子
スイスの精神科医,精神分析医。チューリヒ大学医学部卒業。E.ブロイラーに師事。S.フロイトならびにユングから直接の影響を受ける。1950年前後からは哲学者ハイデッガーと親交を結ぶにいたる。彼は《存在と時間》にはじまるハイデッガーの思想が,従来の医学界において支配的であった機械論的・心身二元論的人間観を克服し人間理解への新しい地平を開いたと考え,ハイデッガーの思想を精神医学的な人間理解に忠実に適用した。この試みの中で,フロイトの技法論の中にみられる治療観は,ハイデッガーの現存在分析論とほとんど完全に一致することを強調する一方,フロイトのその他の理論構成は,むしろ人間理解を妨げる機械論として厳しく批判している。彼は精神医学における〈人間学派〉の代表者の一人とみなされるが,この派に属するL.ビンスワンガー,V.E.vonゲープザッテルらが治療的虚無主義に傾いたのに対し,むしろ楽観主義的な治療実践家である。大著《医学概論》(1971)を除く彼の主著,《性的倒錯》(1947),《夢--その現存在分析》(1953),《精神分析と現存在分析論》(1957)などはほとんどすべて邦訳されている。
執筆者:下坂 幸三
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ネーデルラントの画家。ファン・アケンvan Akenを本名とする説もある。スヘルトーヘンボスに生まれ、1516年8月9日同地に埋葬された。彼は15世紀後半におけるこの地方のもっとも重要でユニークな画家であり、レオナルド・ダ・ビンチとほとんど同時代の人であるが、その伝記的事実も芸術的な由来も詳しいことはわかっていない。現存する約30点の作品も、年代的、形式的および表現内容のうえから不明ないしは不可解な点が多い。彼の死後約1世紀たって王位についたスペイン王フェリペ2世が彼の絵の愛好者で保護の手を差し伸べた以外は、後世の評価はあまり高くなく、19世紀末になって注目されるようになった。
彼の作品には『三王の礼拝』(リスボン国立古美術館)のような理解しやすい宗教画と、『快楽の園』(マドリード、プラド美術館)や『聖アントニウスの誘惑』(リスボン)のような不条理で不気味な空想像にあふれた作品とがある。この後者の系列の作品にうかがわれる比喩(ひゆ)や象徴は、当時の腐敗した教団への攻撃とみなされており、彼が特定の異端の宗派ないしは神秘主義的な教団に属していたとして、この立場からの解明がもたらされているが、今日なお未解決のまま残されている部分が多い。たとえば三幅対の大作『快楽の園』にしても、左翼の図は別として、他の二幅には、燃える廃墟(はいきょ)や怪奇な鳥や獣や、空想的な拷問の道具や、恋に戯れる男女など悪夢のような世界が繰り広げられ、エデンの楽園がサタンの園であるかのような様相を示している。これが異端の信仰による地上の楽園の幻影か、救済不能な地獄図の表現かについては説が分かれるが、いずれにしても原罪を際限なく犯す愚かしく罪深い人間の全貌(ぜんぼう)を描いたこの作品は、怪異な空想と細密な観察が結合した大絵巻をなし、優美とさえいえる色彩の輝きと相まって、戦慄(せんりつ)と恍惚(こうこつ)とが入り交じった超現実的な幻想美を実現している。なお最晩年の作といわれる『放蕩(ほうとう)息子』(ロッテルダム、ボイマンス美術館)は罪におびえる人間像の表現であり、その表情にはすでに「近代」が息づいている。
[野村太郎]
『C・リントフェルト解説、西村規矩夫他訳『ボッス』(1976・美術出版社)』▽『坂崎乙郎編『リッツォーリ版世界美術全集2 ボス』(1975・集英社)』
オランダ語のbaas(主人)から出たことば。アメリカからの外来語として日本語化したもので、町の顔役、親分といったあまり好ましくない意味で使われるが、元来は集団の責任者や指導者をさす。職業集団では雇主、直接の上役、職長といった自分に命令を発する人、ないし自分が職務上服従関係にある人をさす場合に使われる。政治集団では政党の領袖(りょうしゅう)や各派閥の代表をさす。反社会的なギャング集団では親分を意味し、ここでは、ボスと子分との関係は身分的なものであり、ボスの命令に対しては子分は絶対服従が要求され、違反に対しては厳しい制裁が課せられる。これらギャング集団とか日本のやくざ集団などのボスと部下の身分関係の実証分析のみならず、産業界、政界、教育界、地域社会、学校集団内のボスの分析は、派閥の中心人物としてその影響力が強いだけに、社会学にとって無視できない研究分野をなしている。
[高島昌二]
『丸山真男著『増補版 現代政治の思想と行動』(1964・未来社)』▽『岩井弘融著『病理集団の構造 親分乾分集団研究』(1963・誠信書房)』▽『M・ロイコ著、宇野輝雄訳『ボス シカゴ市長R・デイリー』(1973・平凡社)』
地表での露出部分の形状が、平面図上においてほぼ円形に近い貫入岩体。その広がりは断面の面積が100平方キロメートル以下のものをいう。成因は岩株(がんしゅ)と同じで、バソリスとも大きさの点以外の相違はない。中粒ないし粗粒の、また中性ないし塩基性岩類(石英閃緑(せんりょく)岩、閃緑岩、斑糲(はんれい)岩など)が多い。花崗(かこう)閃緑岩類もある。全体の形状としては滴(しずく)状の形態が推定されている。
[矢島敏彦]
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…地方の党組織は,選挙において多くの票を獲得するために活発な日常活動を行っている。この地方の党組織を牛耳っているのが,ボスと呼ばれる指導者である。マシーンという言葉は,党の組織が,ボスの命令に従って自動的に機械のように操縦されることから名づけられたものである。…
…西正面に接して単独で高くそびえ立つ同大聖堂の塔(1382完成)は多くの追随を生み,以後,塔はオランダ建築の特徴の一つとなった。14世紀にはハレンキルヘがドイツから伝わり,また煉瓦を主建材とし木造円筒ボールトを備えたフランドル・ゴシック式教会堂が北海沿岸地域に広く普及した(デルフトの旧教会など)が,同世紀後半からは石材を用いたより大規模なブラバント・ゴシック建築が優位を占め,15世紀にはいっていっそうの発展を見せる(ス・ヘルトーヘンボスの聖ヤン教会ほか)。ゴシックの伝統は教会堂建築において以後も長らく保たれ,その超克には17世紀の到来を待たねばならなかった。…
…たとえば,修道士が糸巻棒でふいごを操れば,それに合わせて人妻が踊る,といった2人の仲を揶揄した作例(がそれである。また中世後期のボスは祭壇画《乾草の車》で,乾草の車に執着する随行員として,教皇,司教,王,貴族,下位聖職者だけでなく,市民や農民などあらゆる階級を描くことで,人間の心に潜む〈貪欲〉を暴き出している。 ルネサンス期ドイツでは,L.クラーナハが《不似合いなカップル》のテーマを量産し,老人とその財産目当ての若い娘との不自然な組合せを描き,当時の堕落した社会風俗を批判している。…
…他方,ベロネーゼは《レビ家の饗宴》(1573)で,華やかな饗宴,道化,酔漢,犬など主題に直接関係のない〈風俗的要素〉で画面を賑わしたため,異端審問所の召喚を受け,題名の変更を余儀なくされた。 北方ではH.ボスが《手品師》で騙(だま)されやすい人間,《阿呆船》で快楽にふける聖職者への風刺(つまり中世的な教訓)をこめながらも,宗教的枠組みから主題を解放した。ボスの伝統を継承するP.ブリューゲル(父)はフランドルの諺,子どもの遊戯,農民の婚宴や祝祭を表し,庶民のバイタリティ,日常の知恵,生活文化を記念碑化した。…
…海岸地帯では乏しい自然石のかわりに煉瓦を用いた木造穹窿(きゆうりゆう)の等高式教会堂(ハレンキルヘ)が生まれ,この形式は海岸沿いに北部ネーデルラントにも伝えられた。14世紀にはブラバント地方でゴシック様式が発展し,フランドル最大のアントウェルペン(アントワープ)大聖堂や幻想的な彫刻装飾をもつス・ヘルトーヘンボスの聖ヨハネ教会が建設された。華麗な末期ゴシックはその後も久しくフランドルの国民的建築様式として繁栄し,とりわけ尖頭アーチと彫像で壁面をおおわれ大小の塔をいただいた各地の市庁舎(ブリュッセル,ルーバン。…
…そしてサディスティックな行為が自己自身の感覚の増大を生じ,そのような感覚の変化が反復して求められるようになるのだと考える。これに対してゲープザッテルと同じく人間学派に属するM.ボスは,以上の見方に反対し,たとえゆがめられた形においてではあってもサディズムも恋愛的世界内存在可能性に到達しようとする試みであると解釈している。マゾヒズム【下坂 幸三】。…
※「ボス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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