改訂新版 世界大百科事典 「グロッタ」の意味・わかりやすい解説
グロッタ
grotta[イタリア]
洞窟の意。ときには岩が怪奇にそそり立つ崖地,廃墟,人工の堡塁などをも指すが,建築・庭園の分野では人工的な洞窟ないし洞窟的な小房をこう呼ぶ。先史時代以来,洞窟は地母神や水神,生殖神などの信仰と結びついており,古代ギリシアやローマでは,湧水のある洞窟が神祠として崇敬され,やがて庭園内に洞窟に見たてた小祠(ニュンファエウム)を造ったり,浴場をそうした聖なる洞窟になぞらえることが行われるようになる。ルネサンス期にこの古代の風習が復活し,グロッタの名で,噴泉を擁した洞窟的な空間にさまざまの神話的彫像を配したものが,庭園の景物として用いられた。他方,湧水のある洞窟は中世キリスト教世界ではマリア信仰と結びついていたため,グロッタには古代的な記憶と同時にマリア信仰も重ね合わされ,複雑な性格を帯びる。さらにグロテスクと呼ぶ装飾絵画の一分野が結びつき,建物内部の浴室のような小房をグロッタに見たてる風潮も現れ,これらを通じてさまざまな象徴的表現手法や,貝殻浮彫のような装飾細部が造り出された。グロッタ趣味は,古典的建築や庭園の技法のなりたちを知る手がかりであると同時に,ヨーロッパ人の自然観形成の一契機としても重要なものである。
執筆者:福田 晴虔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報