改訂新版 世界大百科事典 「松林苑」の意味・わかりやすい解説
松林苑 (しょうりんえん)
平城宮に付属する苑池。文献史料では《続日本紀》の729年(天平1),730年,735年,738年を限ってみえ,松林宮,松林,北松林ともあり,そこで正月17日の大射,3月3日の曲水宴,5月5日の騎射など宮廷の重要な年中行事が行われ,宴が催されている。こうした苑池の源流は中国にあり,北魏洛陽城の華林園,唐長安城の西内苑などのように,苑池は宮城の北に設けることが多いが,日本の場合も,飛鳥浄御原宮には〈白錦後苑〉があり,藤原宮も宮の北に苑池の存在したことが出土木簡などから推測される。こうした伝統と〈北松林〉という名称から,平城宮付属の苑池としての松林苑もその北に位置すると推定されていたが,近時その遺跡がやはり平城宮の北で発見され,残存する築地遺構の一部分が発掘調査された。その結果,築地は版築工法により,基底幅は約2.4m,出土瓦からも文献史料と年代が一致した。築地遺構は南面・西面および北面の一部は遺存状態が良好であるが,東面の部分は不明である。したがって全体の規模はなお確定していないが,いちおう東西約0.5km,南北約1.0kmに及ぶとみられ,その中央北寄りには宮の位置したらしい痕跡があり,また南面築地と平城宮北築地の間には幅約250mの余地があり,平安宮における大蔵の位置から推測してあるいはここに〈松林倉廩〉と記録にみえるものがあったかもしれない。
執筆者:岸 俊男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報