日本大百科全書(ニッポニカ) 「柳沢信」の意味・わかりやすい解説
柳沢信
やなぎさわしん
(1936―2008)
写真家。東京・墨田区向島に生まれる。少年時代から写真撮影に親しむ。1957年(昭和32)東京写真短期大学(現東京工芸大学)技術科を卒業、桑沢デザイン研究所へ入学するが、数か月で退学。以後フリーランスの写真家として活動を始める。58年、光学機器メーカーのPR誌『ロッコール』に作品「題名のない青春」を発表。広告制作会社のカメラマンを務めていた59年、立木義浩らとグループ展「ADLIB3」(富士フォトサロン、東京)を開催。60年東京国立近代美術館で開催された「現代写真展」に出品。61年に結核を患(わずら)っていることが判明し、1年半にわたり療養生活を送る。64年から写真活動を再開し、旅する通過者のまなざしで日本各地の社会的風景をとらえたスナップショット作品を、『カメラ毎日』誌を中心に発表しはじめる。67年同誌に掲載した「二つの町の対話」「竜飛(たっぴ)」で日本写真批評家協会新人賞受賞。68年「新日本紀行」シリーズを『カメラ毎日』誌に連載。70年から翌年にかけて、作家きだ・みのるに随行し全国各地の村などを訪ね、雑誌『太陽』にルポルタージュ作品「小さな村から」を連載。72年「片隅の光景」シリーズを『アサヒカメラ』誌で1年間にわたり連載。74年、東京国立近代美術館で開催された「15人の写真家」展に出品。
高度経済成長により変貌をとげていく都市空間の中のさまざまな様相を、鋭く研ぎ澄まされたカメラ・アイで撮影を続けてきたスナップショットのシリーズで、79年に初めての個展「都市の軌跡1965~1970」(オリンパスギャラリー、東京)を開催。ついで同年写真集『都市の軌跡』を上梓。80年カラー・フィルムで撮影した作品で個展「北陸紀行」(ミノルタフォトスペース、東京)開催。90年(平成2)、それまで発表してきたモノクロームの作品をまとめた写真集『写真・柳沢信1964―1986』(構成・解説写真家柳本尚規(なおみ)(1945― ))を上梓。93年イタリア各地を撮影旅行し、帰国後、喉頭癌・食道癌と診断され手術を受け、その後声を失う。翌94年個展「写真・イタリア・柳沢信」(コニカプラザ、東京)開催。2001年本格的な回顧個展「写真に帰る」(クリエイション・ギャラリーG8、ガーディアン・ガーデン、ともに東京)が開催された。
[大日方欣一]
『『都市の軌跡』(1979・朝日ソノラマ)』▽『『日本の心 現代写真全集第11巻 北陸紀行』(1981・集英社)』▽『『写真・柳沢信1964―1986』(1990・書肆山田)』▽『「特集柳沢信 写真・イタリア」(『モールユニット』No. 3・1994・モール)』